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第52ラウンド 幕間・灼のボクシング奮闘記①

今回は灼の日常。

インハイ本戦前のほのぼの回、時折ガチです。

 さて、インターハイ本戦が近づいて、瑠希菜は特に練習に熱が入っているその頃。


地元の高校に通っている灼は真夏の炎天下の中、練習に明け暮れていた。


上半身裸で、バスンバスン、と重い音を立てながらサンドバッグを一心不乱に叩いていた。


ヘビー級が主戦場になってくる灼なので、瑠希菜と比べるとやや遅いのだが、パンチのスピード自体はコンパクトで、且つ体重がしっかりと乗っていてサンドバッグの揺れ具合が半端ではない。


そうこうしているうちにタイマーが3分を示す音を鳴らし、灼は諒太に呼ばれてミット打ちを敢行した。




 サンドバッグ打ちの時よりも、鋭く速く、まるで大きなハンマーを殴りつけていくかのように諒太の持つミットを打っていく灼。


しかも16オンスの厚いグローブで打っているにも関わらず、この音と諒太の手が痺れる威力である。


つまり、本番で使う10オンスは、灼にとって「リミッター解除」を意味するのである。


だがしかし、2年後のデビューに向けて、を想定している諒太はこの程度ではまだ納得はしない。


「灼、もっとコンパクトに打ってみろ。お前のパンチは当たりゃ倒せるんだ、もっと小さく、鋭くだ。」


「………おう………」


灼もなんだかんだ言って、諒太の理論的な教え方には納得しているので素直に従っている。


これには側から見ていた山本たちも感心していた。


「ホントすげーよな、灼………マジで妥協しねえもんな、会長のシゴキに対して………」


「ああ………俺らでも音を上げるくらいだもんな、スタミナあるはずの保坂ですらああだもんな………」


………どうやら諒太は、「一期生」としてプロにするために、彼らを本気で鍛えているようである。


陸上部長距離だったはずの海華ですら倒れるレベルであるので、相当な気合の入れ込みようだが、灼は更なる高みを目指して弱音は一切吐かなかった。


その後数時間、ひたすらにミット打ちを繰り返していき、帰路に着いた灼なのであった。





 ここからが本番で、灼は山へとたった1人で向かった。


すると木にチューブをくくり付け、それを引くトレーニングを開始した。


これは灼が空手をしていた時からずっと日課として、続けていたものだ。


これによりインナーマッスルを鍛えることができ、耐久性も増すとともにパンチの質も向上していくものである。


これを50回を左右各30セット、という鍛え方だ。


なお、一般人がやれば確実に筋肉痛に秒でなるレベルであるので、灼は少なくとも常人ではない。


そしてそれが終わると、階段でトレーニングだ。両足でジャンプを一段ずつしていったり、長身にはおおよそ辛い大便座りからの階段登りもやったり………と、これを10メニューもこなしていく。


灼はそれも難なく消化していき、上がり切ったところで軽くシャドーをした。


ビュウン!! という風を裂く音が夏の空気に響いた。


(………悪かぁ、ねえな………始めた時よりもだいぶスムーズにパンチが出るようになってきたしな………けどこれじゃあ、オッサンは納得しねえしな、そうだよな………瑠希菜とオッサンに出会ってなかったら………今頃荒んでいただろうしな………夢、か………今は日本人初のクルーザー級とヘビー級の世界王者、ハードルは高えが絶対に叶えてみせるさ………それが今の、俺のアイデンティティだからな………)


灼は世界王者を夢見るまだ16歳の少年だ、彼の道はとても険しく、しかし着実に前に進んでいるのである。

次回は(ホントにガチで)日常回です。

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