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第50ラウンド 「怪物(バケモノ)です」

今回は決着まで書きます。

悠馬の方もザックリ書かないといけないので。

 第2ラウンドが開始し、瑠希菜は一気に詰め寄って猛攻を仕掛けていった。


強烈なパンチを次々と浴びていく小夜葉は、ガードせざるを得なかった。


(いきなりプレスを強めてきた………!? これは想定外ね………だったら冷静にカウンターを取るしかないな………)


小夜葉は作戦を切り替えるしかなかった。


瑠希菜のようなパワーパンチャー相手にはカウンターを取る戦法はセオリー且つ有効なのだが、瑠希菜はフラッシュダウン以外でダウンしたことがないタフさも持ち合わせている。


小夜葉のパワーで倒せるかと云えば、それも微妙だった。


しかし小夜葉は、負けじとカウンターを狙って、瑠希菜の打ち終わりにパンチを被せていった。


(やっぱり小夜葉さんは冷静だな………まだ耐えてるし、しかもカウンターまで狙ってくるか………だけど………)


瑠希菜はノーモーションで左ストレートを放ち、小夜葉にガードを挙げさせた。


そして右フックのフェイントを入れたと同時に、ガラ空きの脇腹に左ボディーフックを放った。


肋骨と腹斜筋をこそげ取るように放たれたボディブローは、全く想起していなかった小夜葉を効かせるには十分だった。


顔を歪め、明らかに効いたような表情をした小夜葉、しかし倒れるまいと右ストレートを、左足を踏み込ませて放った。


瑠希菜は間一髪で避けたものの、驚いた表情を見せた。


(マジか………今ので倒れないのか………思った以上にタフだな………手応え良かったのにな、だけど次で倒せるね、これは………)


(息がしづらい、今のは効いたよ……でも諦めたくないし………譲れないよ、瑠希菜!!)


と、ここでセコンドの紀利華から声が飛ぶ。


「瑠希菜!! 効いてるよ、一気に行って!!」


(紀利華、分かってるよ………ここで仕留める!!)


瑠希菜は紀利華の声に呼応するかのように、左のトリプルアッパーから右フックをこめかみに浴びせた。


それでも諦めない小夜葉は、右フックの打ち終わりに右オーバーハンドから左ボディーフックを繋げたものの、左にヘッドスリップをしつつ、バックステップでこれを外して攻防一体を体現していた。


瑠希菜は右アッパーを繰り出し、ガードを再び小夜葉に挙げさせた。


更にジャブ3連発でロープに押し込むと、小夜葉は脱出しようと右アッパーを繰り出した。


しかしこれを見逃すほど、瑠希菜は甘くなかった。


瑠希菜の左足側に逃げると読んでいた瑠希菜は、大きく体を捻って左ボディーフックを、渾身の力を込めて放った。


肘をしっかりと、パンチの進行方向へとトレースをし、定められた角度で放たれたパンチで、しかもクリーンヒット。


ボスゥン!!! という大きな音が会場中に響き渡るほどの衝撃だ、小夜葉はひとたまりもなかっただろう。


肋骨が危うく折れるか、というダメージを被り、右脇腹を押さえながらマットに崩れ落ちていった。


レフェリーがカウントを始めるものの、とても立てそうにない空気が会場中に漂った。


小夜葉は息苦しさに顔を歪めながら、テンカウントを聞き、試合終了となった。


2R1分2秒RSC勝ちで、瑠希菜がインターハイ本戦、神奈川県代表としての切符を掴み取ったのであった。





「おい!! 小夜葉!! 大丈夫か!!」


黒川が必死に、小夜葉に声を掛けた。


小夜葉はゆっくりと身体を起こし、背中をロープに預けた。


「だ、大丈夫………です………なんとか………動けるくらいには………」


息絶え絶えで、小夜葉は黒川にそう答えた。


瑠希菜が小夜葉に近づき、「ありがとうございました」と、頭を下げた。


「………やっぱ負けるべくして負けちゃったね………強かったよ、瑠希菜………瑠希菜が後輩で、一緒に戦えて………良かったよ。()()()()()()()しね?」


「私こそ勉強になりました。小夜葉さんと本気でやり合えてよかったです。」


瑠希菜は謙虚にこう返し、2人は抱擁をした。


会場から拍手が起こり、2人はかたや瑠希菜は紀利華とグータッチをしながら、かたや小夜葉は、黒川に肩を借りながらリングを降りていった。


「どうだったよ、瑠希菜は。実際やってみて分かったろ? アイツの凄さは。」


「凄いどころじゃ………なかったです。それにあの子は………“強い”なんてレベルじゃなかった、アレは………私が戦っていたのは………“怪物(バケモノ)“ですよ………」


「そうだな………ただ、()()()()()()()()、それだけでも収穫だな。小夜葉、お前はまだやることがある、瑠希菜のため、力を貸してくれるよな?」


黒川の問いに、小夜葉は薄く笑った。


「瑠希菜のためになるんなら………喜んで、力を貸しますよ………」


2人の顔は、敗者のものではなく、瑠希菜の行く先を見据えたような目をしていたのであった。





「あー、疲れたー………あんなにパンチ出したの、練習の時くらいしかないからなー………柄にもないよ、ホント………」


瑠希菜は紀利華のマッサージを受けながらも、疲労困憊の声を出していた。


「まったく………今朝はどうなるかと思ったよ、瑠希菜………ホントに怖かったんだからね!? 初めて会った時もあんなんじゃなかったし………結果勝てて良かったけどさ、感情出し過ぎてて会場を凍らせたのさ、忘れないでよ!?」


「あー、今朝ね………正直………めちゃくちゃ()()()()()()()しね、試合まで。私としちゃあ、あれで良かったと思う。一個区切りは付けれた、それだけでも十分だよ、紀利華。」


「ハー………まあ、瑠希菜が良いならそれでいいけど。見てる側が怖いから金輪際辞めてよ、そういうの。」


「………そういえばさ、今、御子柴くんの試合でしょ? 私ら行かなくて良かったかな?」


「いーでしょ、別に!! 御子柴は上手いから大丈夫だと思うしさ? あと、アタシ担当じゃないから関係ないからね!? あと会長から連絡! 必要以上に殴りすぎるな、って!! さっき入ったから伝えとけって!! 今回だけだとは思うけどさ、金輪際無いようにしてね!?!?」


「だといいね………『肝に銘じておく』、って言っといて。」


「はいはい、ホント世話焼けるなー………気、引き締めなよ!? 二ヶ月後なんだからね、全国!!」


瑠希菜はこれに対し、「分かってるって」と軽いノリで返した。


そして悠馬の試合は、というと、悠馬のTKO勝利という形で勝負を決め、悠馬はフェザー級で全国の切符を手にしたのであった。

次回は瑠希菜のアフターを書いたところで、幕間として灼の奮闘を書く予定です。

もう1人の主人公という感じの灼なので、そういう方面も書いていきたいと思います。

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