第5ラウンド インファイター攻略法
インファイターはなかなか面倒くさい。
僕みたいなリーチの長い選手は案外苦戦しますね。
2回戦の試合のブロックに諒太と二人で観戦に来た瑠希菜。
小柄な選手がいるのが見えた。
しかも体つきもかなりがっしりとしている。
試合開始のゴングが鳴り、小柄な選手の相手選手がジャブを繰り出し、牽制した。
しかし、次の瞬間だった。
ピーカブースタイルのその小柄な選手が一気にダッシュを仕掛け、ジャブを掻い潜り、懐へと飛び込んでいったのだ。
そして左の肋にボディーブローを放った。
浅かったが、主導権を握るのは間違いなかった。
そして立て続けに左右のボディーを放ち、相手選手が防戦一方になった。
なんとかサークリングして離れようとした相手選手ではあったのだが、ゴリゴリに密着して付いてくるので離せない。
本来ならショートアッパーを叩き込むのが鉄則ではあるのだが、その相手選手は左フックを放って逃げようとする。
しかし、それが致命的な判断ミスとなってしまった。
右のフッククロスを小柄な選手が、相手選手の顎を捉え、相手選手は尻餅を突いてダウンを奪われた。
観客席で見ていた瑠希菜は、浮かない顔をしていた。
ミドルレンジが得意であり、あまりインファイターとスパーリングをする機会がなかった瑠希菜にとっては「天敵」とも言える。
油断は見せるはずがないが、苦手意識はある。
ただ2回戦まではまだ多少時間はあるので、合わせるということは出来る。
そうこうしているうちに相手選手が立ち上がり、ファイティングポーズを取った。
相手選手は右ストレートを打って前進を止めようとしたが、小柄な方が止まらない。
一気に詰めると左アッパーで迎撃し、後退させた。
更に詰めてコーナーでラッシュを仕掛けると、レフェリーが割って入り、レフェリーストップを宣告した。
小柄な選手_____「木島美里夜」が瑠希菜の次戦の相手に決まったのだった。
「……控室に行くぞ、瑠希菜……」
といい、諒太が踵を返したのだった。
意図を察したのか、瑠希菜は諒太の後をついていった。
そして、インファイター対策のために、諒太が敢えて密着状態でミットを構えた。
案外スタイルもいい瑠希菜の身体に当たるか当たらないかのギリギリのラインで構える諒太。
瑠希菜はガードを固め、腰を低くして身体をガッチリと固定した状態から左アッパーをミット目掛けて放った。
続け様に右のショートフック、更には一番有効な左ボディーと、インファイト対策に余念がない二人だったのだが……
側から見ると、何も知らない側から見ると、痴漢撃退の練習をしているようにしか見えなかったのだった……。
さて、そんなこんなで数十分は経過し、瑠希菜は2回戦のリングに上がった。
171センチの瑠希菜に対して159センチの美里夜は非常に小さく感じる。
それはフェイスオフをした段階で分かったことだ。
試合開始のゴングが鳴る。
距離感を測る二人。
スタンダードサウスポーの瑠希菜に対し、「覗き見スタイル」の美里夜。
まず、軽いジャブを瑠希菜が放ち、牽制をかける。
美里夜はまだ飛び込まない。
明らかな捨てジャブだと分かっていたからだ。
体を振って入るタイミングを伺っている美里夜。
先に瑠希菜がコンビネーションを仕掛けた。
ダブルジャブからの踏み込んでの左ストレートを放ってガードごと吹き飛ばした。
更にジャブを放ち、近づけさせない瑠希菜。
と、ここで美里夜が動いた。
三発目のジャブでダッキングし、美里夜は飛び込んで左フックを放った。
瑠希菜は間一髪スウェーバックで避けたが、美里夜の距離になった。
右ボディーストレートから左ボディーフックを立て続けに放ち、密着戦を展開した。
幸いクリーンヒットには至ってはいなかったが、今はガードを固めて凌ぐしかないと思った瑠希菜は、腰を低くして脇を締めて固める。
逃げずにドッシリと構えて瑠希菜は美里夜を迎え撃つ態勢に入った。
左ボディー、右ボディーと美里夜は連続して放っていくが、クリーンヒットは今のところはない。
実はこれは陣営の作戦だった。
密着状態になってもこれだけ動かないのは、「ロープに詰められるな」という指示が諒太からあったからだ。
中央を維持してサークリングするというのが作戦だった。
頭をくっつける両者。
瑠希菜も美里夜も少しずつ動いていって、攻撃を放っていく。
美里夜は左右のボディーフック、瑠希菜はショートアッパーを展開していき、互いに主導権を握ろうとしていた。
しかし、試合が動こうとしたのは第1ラウンド残り50秒ほどのことだった。
瑠希菜が左ボディーを鳩尾に放つと、それまでお構いなしにフックを放っていた美里夜の動きがぴたりと止まり、クリンチした。
どうやら効いたようだ。
レフェリーがクリンチを解き、試合が再開される。
両者の距離はニュートラルのミドルレンジに戻り、瑠希菜の距離になった。
こうなってしまえばこちらのもの。
飛び込むタイミングを伺う美里夜に対し、瑠希菜の方から踏み込んで右フック、左ストレート、右パワージャブ、左ストレートを連続して放っていき、更に下がらせ、コーナーに詰めた。
瑠希菜はカウンターに警戒しつつ、左ストレートをガードの合間を縫って叩き込む。
美里夜も右を返すが、距離が微妙に遠くて当たらなかった。
右フックと左ストレートを連続してラッシュで叩き込み、1ラウンド残り20秒、美里夜は遂にマットに沈み、尻餅をついて座り込んだ。
流石の瑠希菜もこのラッシュにはかなり荒い息が漏れていた。
額には汗が滲み出ており、激しさが伝わってきている。
美里夜は10カウントで立てず、レフェリーが試合終了を宣告、瑠希菜のRSC勝ちとなった。
KOタイムは、1ラウンド1分50秒。
一回戦よりかは早く終わったが、やはりストマックへのボディーが決め手になったのは誰の目から見ても明らかだった。
次は準決勝となる。
瑠希菜は水を飲んで休憩し、準決勝に向けて控室で休みを取っていたのだった。
次回は準決勝です。
アマチュアはプロと比べるとスケジュールがハードなんで、1日3試合とかはザラです。




