第49ラウンド 何度でも、何度でも
節目の50話目に行きそうなので、頑張っていこうと思います。
神奈川県大会決勝戦のゴングが鳴った。
瑠希菜と小夜葉の2人が拳を合わせた。
瑠希菜は冷静に足を使って小夜葉の様子を伺って、軽くジャブを出す。
(………? アウトボクサーと思ってたけど、この試合は足を使わないんだな、小夜葉さん………まあいいや、こっちから仕掛けるのもアレだし………様子を見るか………)
足を使ってこない展開に少し意外に思いながら、瑠希菜はじっくりと攻める方針を取った。
(思ったより来ないんだな、瑠希菜………まあ、想定内だよ、これは………リズムも私は知ってる、だから………このタイミングで!!)
ここしかない、と言わんばかりに踏み込んでのリードジャブを放っていく小夜葉。
だが瑠希菜は、これをバックステップで躱した。
(ここで来たか………私と真っ向から打ち合うつもりですか、小夜葉さんは………上等、それなら私の土俵だ!!)
想定外の事態ではあったものの、打ち合いに応じると決めたようだった。
2人は至近距離まで合間を詰めた。
そこから2人は空気を裂くような拳を次々と繰り出していった。
だが、お互いに微妙に空を切っていた。
それくらいオフェンスもディフェンスも、お互いにハイレベルだった。
(やっぱり上手いな………さすが、去年の優勝者なだけあるな………掠ってるくらいで上手いこと急所を回避してる………やり難いな、夏帆ほどじゃないけど勉強にはなる………)
(パワーだけかも、って最初は思ってた、でも瑠希菜は日に日に細かい部分が上手くなっていってるから………!! ここで仕留めておかないと手がつけられなくなる………それに強い、だからこそ負けたくない!!)
互いに強い、そう感じながら試合は進んでいった。
瑠希菜はリズムを変えようと右アッパーを放った。
小夜葉は打ち終わりに左フックを放ったが、瑠希菜はバックステップで回避し、下の角度から強烈なパワージャブを放ち、更に踏み込んでワンツーを顔面にクリーンヒットさせていった。
小夜葉の膝が一瞬、ガクリと落ちたが、持ち直して右ストレートを返し、左ショートフックを瑠希菜は掠るくらいに被弾した。
更に飛び込みフックを小夜葉は放つが、瑠希菜は右ブロックでガッチリとガードした。
(マジか………効いたと思ったのに打ち返してくるか………!! だけどイケる、確信は持てた!! 何度でも叩き込んでやる、ただ勝つだけじゃダメだからね……!!)
(危な………一瞬意識が飛んだよ………!! でも負けるわけにはいかない、私だって意地があるから………!! 何度でも、何度でも………立って打ち返してやる!!)
そこからは意地と意地のぶつかり合いになった。
互いのパンチが交錯していくが、こうなればパワーに優る瑠希菜が有利になる。
しかし小夜葉もタフで、何度も打ち終わりにパンチを打ち返していった。
会場を一転、湧かせるほどに。
そして第1ラウンドが終了し、2人はコーナーに戻っていった。
「アタシ、驚いたよ………小夜葉さんが打ち合いに出るなんて、私は見たことない………意外すぎてビックリしたよ………」
瑠希菜に水を飲ませながら、汗を拭っていく紀利華は、小夜葉の奇策とも取れる作戦に驚きを隠せていなかった。
「………ま、これくらい気にしてないよ。効いてないし、パンチは。」
瑠希菜は涼しい顔で、余裕だと言わんばかりに答える。
「………ホントタフだよね、アンタ………意外といいの、貰ってたのに………」
「………ギリギリで殺してるからね、パンチを。そこは練習してきた。けどまあ………力尽くで捩じ伏せるわけにはいかないからね、カウンター、狙って来るだろうから。」
「とにかく右には気をつけて!! で、いいの入ったら畳み掛けて心、へし折ろう!! アンタのはいいの入ったら簡単に倒せるんだから!!」
「りょーかい。このラウンドで決めて来る。」
瑠希菜は静かに息を整え、ラウンド開始のゴングを待った。
一方、黒川、小夜葉サイドは。
「ホント、お前大丈夫か? ヒヤヒヤさせやがって………」
「………正直効いていないって言ったら嘘になりますね………瑠希菜のパンチは………本番だから分かりますよ、本物だって。そんな相手とやれるんだから……こういう展開が、楽しくってしょうがないですよ……」
左目が少し腫れ気味になっていた小夜葉だったが、楽しそうな笑みを浮かべていた。
高揚、と形容すべきだろうか、ウズウズしているように黒川には映っていた。
「まったくよぉ………無茶はすんなよ、小夜葉。危ねえと思ったらアウトに切り替えろ。じゃねえと勝てるものも勝てねえ。ここでポイントを奪うぞ、いいな?」
「………了解です。負けたくないんでね………絶対に!!」
小夜葉は立ち上がって、ゴングを待っていたのであった。
そして第2ラウンド開始のゴングが鳴り、2人はリング中央に寄ったのであった。
次回は決着です。




