第46ラウンド トラウマという暗闇
ホント、まさかまさかで………なろうコン一次選考をこの作品が突破しているとは夢にも思いませんでした。
というわけで、なろうコン一次選考突破後初投稿です。
試合前ですが、瑠希菜の心情をお送りできればなー、と思います。(前回と言ってること違くて申し訳ない)
翌日の会場の控え室。
瑞波との試合を控える瑠希菜は、というと。
ジャージを着て、椅子に独り座って集中をしていた。
そこに紀利華がバンテージとミットを持って控え室に入ってきた。
「瑠希菜………もうそろそろだよ? 大丈夫?」
「………ん、ああ………もうそんな時間?」
「………巻こうか?」
「ん………お願い。」
紀利華は瑠希菜にバンテージを巻いていく。
右手首から右に3回、巻いていくのが瑠希菜のルーティンで、紀利華もそれに倣って慣れた手つきでバンテージを施していった。
「………会長から全部聞いたよ、瑞波さんのこと………どう? 心境は。」
「………やっぱモヤモヤする………また夢に出てきたしね、久しぶりに………」
まあ、無理もないか………という具合で紀利華は苦笑いを浮かべた。
彼女にとって、瑞波はトラウマ以外に何物でもないのだから。
だが、目を見ると、瑠希菜の目が冷徹な眼光をしているのが紀利華には見えた。
今まで見たことのなかった、戦友のその目を見て、もしかしたら………と感じ取っていた。
「ずっと考えてた………先輩は………私の人生を狂わせた元凶…………ずっと、ずっと………怨んでいたし、憎んでた………だから…………絶対に殺す……………そうじゃないと治まらないから…………」
静かな口調だった瑠希菜だが、その声は紀利華を戦慄させるのには十分だった。
瑠希菜はグローブを嵌め、立ち上がった。
紀利華は肩を叩く。
「瑠希菜、気持ちは分かる。アタシもさ………もしアンタと同じ立場なら、そう思ってると思う。でもさ、いい? 瑠希菜。」
紀利華は感情を抑えるように息を吐く。
「ボクシングは喧嘩じゃないし、殺人ショーじゃない、あくまでもスポーツだから、それだけは忘れないで。瑠希菜がそんなこと思わなくっても………瑠希菜は強いからさ? 大丈夫だよ、自信持って?」
瑠希菜はこれを聞いて肩の力が抜けたかのように、薄く笑った。
「………ありがと。じゃあミット打ち、付き合ってくれる?」
「任せといて!」
瑠希菜と紀利華は、高速のミット打ちを敢行していき、目にも止まらぬスピードで6分間打ち続けたのであった。
リングに上がり、フェイスオフを敢行するが………瑠希菜は視線を落として瑞波の顔を見ようともしなかった。
まるで、殺意を押し殺すかのように。
レフェリーからのクリーンファイトに徹するように、という注意喚起を受け、拳を合わせる。
コーナーに戻り、瑠希菜はマウスピースを填めた。
黒川はアドバイスを送る。
「とにかく右に気を付けろ、それさえ大丈夫なら______」
「すみません、先生………1Rで終わらせていいですか………?」
黒川は瑠希菜の据わった目を見て、ゾッとした。
だがそれをお首に出すことなく、頭をポン、と叩いた。
「そこは任せる。右だけには気をつけとけよ?」
「………オッケーです………」
瑠希菜は黒川の言葉に言葉少なに頷き、ゴングが鳴るのを待った。
だがこの後、誰も予期していない事態が起こることなど、知る由もなかった。
そして観客は、凄惨な現場の目撃者となるのである。
次回はホントに今度こそホンチャンの試合です。




