第4ラウンド 初の試合、衝撃のデビュー
最近の選手はアマチュアからデビューして実績を残してからプロに行く選手が多い。
最近では女子プロでもKOは増えつつありますので、女子プロでも「魅せられるボクシング」を書きたいなと思いますね。
天性のハードヒッター瑠希菜の初試合はまあ、色々と凄いことになりますw
試合開始の前に選手紹介をアナウンスされる。
相手は「横浜碇ジム」所属の「宇野未歩華」。
オーソドックスの選手で、赤コーナーにいる。
瑠希菜は青コーナーに入った。
そして二人は一同に介し、レフェリーから説明を受けたあと、グローブを合わせた。
瑠希菜はこの時、緊張していた。
表情に固さが目立っている。
そして陣営に入った諒太がアドバイスをする。
「瑠希菜、フルラウンド使っていいからな? 気楽に行け。」
緑のマウスピースを嵌められながら、瑠希菜は頷いた。
マウスピースを咬合しながら、気持ちを落ち着かせる。
そして、開始のゴングが鳴った。
二人はジャブとなる手の拳を重ね合わせる。
トントン、と弾みながら両者出方を伺っている。
両者手が出ないまま、睨み合いが続いた。
20秒が経過。
まだ手が出ない。
お互いミドルレンジでいつ来るか、を測っているようにも見えた。
先に動いたのは未歩華だ。
牽制するかのようにジャブを放つ。
瑠希菜はこれをパーリングで弾く。
続け様に未歩華が踏み込んでジャブのダブル。
バックステップ→ダッキングを駆使して躱していく瑠希菜。
瑠希菜がここで動いた。
サイドステップで左右に動きながらフック系のジャブを放った。
しかし、浅い。
ダメージは思ったより低い。
ただ、瑠希菜は当たると確信した。
この時点でもう、緊張が抜けていたのがわかった。
再びジャブの拳を合わせてリング中央に両者が戻る。
瑠希菜は時計回りにサークリングし、そこから軽いジャブを放った。
サウスポーVSオーソドックスでは、サウスポーの方がジャブが当たりやすい。
何故ならサウスポーの方が距離が近くなるからだ。
オーソドックスでは若干遠くなるため、踏み込まないと当たらない。
そこを活かせるかどうかが勝敗のカギを握っている。
瑠希菜は一発、二発、三発と、的確に目の辺りに向かって鋭いジャブを繰り出していく。
未歩華は打ち返しで左フックを放つが、空を切る。
スウェーで躱してまたジャブを放つ。
ここまでは理想的だ。
残り30秒。
未歩華は痺れを切らしたのか、踏み込んで右ストレートを繰り出した。
頭が前のめりで突っ込んでいるのを瑠希菜は見逃さなかった。
右のショートアッパーから左のストレートを繰り出した。
顔面にクリーンヒットし、未歩華の動きが止まった。
効いている。
瑠希菜は追撃で左のオーバーブローを繰り出す。
ヘッドギア越しにダメージを与え、一気にダウンを奪った。
会場からどよめきの歓声が上がった。
と、同時に残り10秒を示す拍子木が鳴る。
未歩華は少しフラつきながらもなんとか立ち上がる。
そしてファイティングポーズを取り、レフェリーが試合を再開させた。
と、ここでゴングが鳴った。
第一ラウンド終了。
ポイントでは圧倒的に瑠希菜で、フルマークが付くだろう。
アマチュアのルールはプロとは少しだけ違っているので、単純にクリーンヒットだけでポイントは判断しない。
ヒット数の多さから判断しても、圧倒していることには何ら変わりはない。
青コーナーに戻った瑠希菜に諒太はアドバイスをする。
「瑠希菜、ジャブを丁寧に突いていけ。相手もポイントを奪ってくるだろうけど焦るな、絶対に。いいな?」
瑠希菜は水を飲みながら無言で頷いた。
(試合ってこんなに楽しいんだな……ま、いっか。倒しにいっちゃっていいのかな、もう。)
ゴング前とは打って変わってリラックスした表情になっていた瑠希菜なのであった。
第二ラウンド開始のゴングが鳴り響く。
と、ここで流れを変えたい未歩華が積極的に出てきた。
一瞬面食らった瑠希菜だったが、焦らずガードを高く上げた。
未歩華は左フックだったり、右フックだったりを放っていくが、大振りで、しかも急所にクリーンヒットしていないのでダメージは瑠希菜にはない。
猛攻を仕掛ける未歩華の中、一瞬の隙を見出した。
右フックが放たれた瞬間にダッキングで躱し、瑠希菜は左ボディーフックを鳩尾に向かって放った。
モロに深々と突き刺さり、未歩華は呻き声を発する。
瑠希菜は止まったと判断するやいなや、左からのワンツースリーを続け様に放ち、未歩華を後退させた。
ジャブからの左ストレートで倒そうとする瑠希菜。
力なく右を返す未歩華。
が、ここで高速の左ストレートが未歩華の顔面に深々と突き刺さった。
右ジャブをフェイントで誘ってからの左ストレート。
カウンターとなって突き刺さったのでダメージがデカい。
一瞬時間が止まった後、未歩華は前のめりになってリングに沈んだ。
意識を断ち切った、見事な左だった。
レフェリーが未歩華の側にしゃがみ込み、両手を振って即座にレフェリーストップを宣告した。
そしてマウスピースを右手で引っこ抜いた。
試合終了のゴングが鳴り、瑠希菜の勝利が決まった。
瑠希菜は何が起こったのか分からず、辺りをキョロキョロしていたのだった。
青コーナーに戻ってきた時、諒太の拳を見た瞬間、勝ったのだ、と思ったほどだった。
グータッチを交わした後、観客に向かって一礼した。
観客はどよめきと同時に拍手で瑠希菜を讃えていたのだった。
控室に戻った後、瑠希菜は一度バンテージを外して次の試合に備えた。
「父さん……最後……何で倒したの……? なんも覚えてないんだけど……」
「はあ? 覚えてねえって何だそりゃ……左だよ、左。お前、何も考えてなかったのか? まさかとは思うけどよ。」
「いや……当たってないみたいな……その……パンチが抜けた、っていうか……」
マジか、と思わず諒太は漏らした。
それもそのはずだ、ボクサーにとって「抜ける感覚」というのは最高の拳だったという証明なのだから。
それをデビュー戦で、無意識領域下で成し遂げた瑠希菜に末恐ろしさを感じ取っていたのだった。
「瑠希菜……その感覚だ。いい具合に抜ければ相手は倒れる。その感じを忘れんな。大会終わったらもう一回見直すぞ、それは。今は次の試合に集中しとけ。」
「……わかった。」
瑠希菜の陣営は次の試合に備え、次戦の相手の試合の会場へと向かっていった。
あの後、2分くらい未歩華は失神していました。
それくらいエグいパンチです。
デビューでこれだけやれるのは凄いですね、書いてて、なんですがwww
さて、次回は二回戦です。
女子は選手がそもそも少ないので大会時間が割と短い、っていうケースが多いんですよね、現実として。
瑠希菜の通算成績:1試合1勝(1RSC)無敗




