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第38ラウンド 推薦と瑠希菜の選択

もうそろそろで中学編終わるので、次章への下準備を整えていきたいと思います。

 瑠希菜は校長室まで呼び出された。


話を聞いていくと、その内容が_____


「スポーツ推薦ですか?」


「そうだ。堀岡を欲しいっていう学校が出てきて、な。なんでも唯一全中覇者に勝った選手として……争奪戦が展開されてるんだよ。」


瑠希菜にとっては願ってもいない話だが、瑠希菜は一年半不登校だったこともあり、内申点自体はかなり低めだ。


ただそれでも、成績の良い氷織と紀利華に勉強を教えてもらいながらなんとか授業には食らいついていたので、そこそこのラインまでには戻せている。


そこが懸念されて、推薦を取っていないところも少なからずあるようではあるが。


瑠希菜は詳細を聞いていく。


「……具体的にはどうなんですか?」


「そうだな……全部で8校、か。湘南から3校、横浜から2校……千葉から1校、大阪から1校、そんで新潟から1校……だな。」


「県外からも……ですか……」


まさか県外から自分が、と思っていた瑠希菜は、驚きながらも満更でもない顔を浮かべた。


「……まあ、ゆっくり考えろ。まだ時間はあるからな、進路の提出期限まで。」


「……分かりました。」


瑠希菜は一礼し、校長室を後にして行ったのであった。




「えーーーー!? るっち、推薦貰ったの!?」


「……うん、8校から。」


海華に報告をしたところ、オーバーリアクションで迎えられた。


「てか、8校って相当だよ!! 普通なら1、2校なのに、ましてやウチに来ることなかなかないよ!?」


「……そうなの? あんまり実感が湧いてないんだけど……」


「うーん……でもさ、会長に相談しないとダメじゃない?? だって私たちさ、2年後にプロテスト受けるんだから。3年生になっても出ろー、とかってさ、なっちゃったら本末転倒だよ?」


「……確かに。でもあるかな? 高校で、そういうのって。」


「流石にあるとは思うけど……色々調べる必要はあるよね。」


「まー……何にせよ相談だなー……今日父さんにも話してみる。」


というわけで、瑠希菜は諒太に相談をすることにしたのであった。





 その夜。


「推薦?? ……まー、来るとは思ってたけどなぁ。誇らしいよ、我が子がそんなデカくなるなんてな。」


「父さん、そういうのいいから。とりあえずこれ見て。」


といって、瑠希菜はファイルから推薦の資料を取り出した。


諒太はそれをまじまじと、一枚ずつ丁寧に見た。


「なーるほどなぁ……何処も良いところだな。まあでも……瑠希菜、お前県外には行かねえんだろ?」


「うん、それはね。ジムに帰れなくなるし。」


「オッケー、それはいいんだが……そんで、プロはどうする? 高校でやるんなら18までやらねえといけねえしな。」


「……当初の約束からズレるから17になったらプロには行く。早く世界王者になるんだったら、ね。」


「まー、そこは交渉次第でどうにかはなるがな。ただまあ、アマの実績次第でB級から受けられるからな、別に18でも全然間に合うんだぞ、瑠希菜はよ?」


「……父さんはどうだったの?」


「俺は20になるまではボクシングをやってねえからな。アマの事情は取材したからある程度は知ってるとはいえ、な。世界王者になってる奴は今はアマ出身が日本では多いんだよ。俺みてえな奴は稀だ。それでもお前は……17で行きてえか?」


「行きたい。」


瑠希菜は即答だった。


頑として譲らないようだった。


それを見た諒太はなるほどな、と頷く。


「……ま、俺のコネならどうにでもなるだろうけどな……とりあえず分かった、お前の気持ちは。けどな、瑠希菜……ひとつだけ約束しろ。」


「? うん。」


「アマチュアでK()O()()()()()()()しろ。そうじゃねえとプロには17で行かせられない。」


諒太の真意は、「女子離れしたハードパンチャー」として売り出すつもりでいたので、どちらにせよアマチュアでインパクトのある実績を残さないといけなくなったのは事実である。


だがそれでも、諒太は瑠希菜ならやれるはずだ、そういう自信と確信を持っていた。


瑠希菜には特大のプレッシャーが掛かるだろうが、瑠希菜は頷いた。


「……やってみるよ。全試合全KOを17になるまで。」


瑠希菜は静かながらも、闘志が漲っている目で答えた。


「……それでいい。俺とはタイプは違うんだ、それくらいの心構えでいてくれないとお前はダメだ。んじゃ……進路だな……そんで? 高校の先生との面談はいつだよ? 俺も行って交渉とかしねえといけねえからな。」


「3日後……だったかな?」


「わかった。その時に話すか、俺らの気持ちを、な。」


諒太はそう言い、入浴の準備をし始めたのであった。





 そして3日後。


2人は高校のボクシング部顧問との面談に臨んだ。


まずは神奈川屈指の強豪校・『栖鳳大附属(せいほうだいふぞく)湘南(しょうなん)高校』だ。


監督の「黒川陽介(くろかわようすけ)」と、諒太・瑠希菜父子が面談になる。


黒川はまだ35歳と若く、アマチュアでも実績を残している元エリートボクサーだ。


黒川はまず、2人に丁寧に頭を下げて、腰掛けた。


「まさかこういう機会をいただけること、心より感謝します。」


「いえいえ、こちらこそ。」


「内申点が低いのはさておき、ですが……特段の事情があったわけですね?」


「ええ、まあ……転校してきて数ヶ月なもので。」


「そうですか……私も県大会決勝を観させていただきましてね、始めて一年にまだ満たないながらも全中覇者の三ツ矢夏帆に勝ってしまうのですから。そういう才能に惚れ込みましてね。是非我が校に欲しいんですよ。」


「それは娘が決めることです。自分は助言するだけに過ぎませんから。」


「まあ、そうですよね、失礼致しました。」


「それと……黒川先生、ひとつ私から条件がありまして、ですね……」


「はい、なんでしょうか。」


固唾を飲む中、諒太は資料を提示する。


「瑠希菜は高校で収まる器ではない、そういうことはずっと指導をしてきた私が1番分かっております。出来ることなら早いうちからプロの世界に行かせてやりたい、そう考えています。」


「はい、それは僕も……重々承知しています。何せ世界王者の娘さんを預かることになれば……僕もプレッシャーは半端ではないですからね。」


「それでいて娘も飲んだ条件を言います。“高校の試合で全試合RSC勝利で17を迎えたら即プロ転向”……これが私と娘が出す条件です。」


黒川はこれを聞いた時、目を大きく見開いた。


だが、ニッと笑った。


「……面白い条件ですね。それだけ大きな期待を掛けている、そういうことでしょうか?」


「その通りです。」


瑠希菜も頷いた。


何せ“約束”なのだから。


「……お二人の想いは分かりました。そこは学校と相談を重ねたいと思います。今の女子ボクシングは市場が少しずつですが大きくなっている。そこに女子離れした稀代のハードパンチャーが世界王者になる、となれば……()()()()()()()()()()()()()でしょうね。説得をしてみますよ、今後の資料と共に。今回はありがとうございました。是非是非、お待ちしております。我が校に来てくれることを心待ちにしています。」


黒川は頭を下げて、校長室を後にした。


この出会いが、瑠希菜の人生を大きく変える出会いになるのであった。

次回は第二章終了。

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