第35ラウンド いざ、アメリカへ
今回は諒太の一言で、アメリカへとジムメンバーは向かうことになります。
黄竜中は夏休みに入った。
湘南堀岡ジムのジム生は、今日もミットやサンドバッグを打ち込んでいく。
換気をしているとはいえ、真夏の関東だ、34℃という蒸し暑さだ。
昼3時になり、練習を終えたメンバーは、諒太に集合を掛けられて集まった。
「おう、今日はお疲れさん。練習は終わるけどよ、大事な話がある。」
「大事な話?? 父さん、家でも言ってなかったじゃん、そんなこと一言も。」
瑠希菜は訝しげになる。
他のメンバーも同様に、首を傾げた。
「まーまー、そこの話も含めて、な。じゃー……単刀直入に言っちゃうか。友成くんと坂井くんは事前に話して休みを与えてるんだよ、実は。ってわけで……お前ら、アメリカに行くぞ。それもラスベガスに、な。」
「「「「「「「「……………へ…………………????????」」」」」」」」
というわけで、瑠希菜達は即座に海外パスポートを取りに行くため、手続きを済ませていったのであった。(なお、経費は諒太持ちである)
1週間後、湘南堀岡ジムメンバーは、ロサンゼルスへと到着した一行は、諒太と瑠希菜を除いてはしゃいでいた。
「すっごい……!! 夢みたい……!! まさかロスに行けるなんて……!!」
紀利華は目を輝かせていた。
初めて来るアメリカ、それもロサンゼルス。
興奮するのも無理はない。
「そんな、はしゃがなくてもいいじゃん……まあでも久しぶりに来たけど……私が小さい頃のまんまだね……」
瑠希菜は相変わらず冷静沈着だった。
「ホラ、遊びに来たんじゃねえんだぞ? ちゃんとグローブとか持ってきてんだからな?? さて、チェックアウトすんぞ。あと、荷物はしっかり管理しとけよ? アメリカは日本みてえに平和じゃねえんだ。何があってもおかしくはねえ。」
諒太は予約したホテルに全員を連れて行き、荷物を置いて再集合した。
例に漏れず、諒太から説明を受ける。
「今日はアメリカでビッグマッチが行われるんだ。世界ヘビー級4団体統一戦……イギリスのタイロン・フューリーVSウクライナの二階級制覇王者・アレクサンダー・プレフの試合だ。これがメイン興行で……お前らには前の瑠希菜の試合よりもエキサイトできるような試合を見せてやる。海華は勉強の意味合いもあるからな。異次元のバトルを目に焼き付けとけ。」
「マジか……わかりました!!」
「じゃ、会場に向かうからよ、ガイドさんがバス用意してくれてっからそれに乗れ。」
ということで、全員がバスに搭乗し、試合会場へと向かっていった。
試合会場に着くと、既に鮮やかな会場があった。
まだ前座の試合なのか、人はまばらだったが席は確保できている。
「……やっぱプロはレベルたけーよな……足捌き一個にしても違いすぎる……」
山本がそう呟く。
そして例に漏れず、KOで決着する展開が続いた。
そして現地時間の夜7時。
メインイベントのヘビー級4団体統一戦が開催された。
この試合は歴史に残る一戦ということもあり、会場が熱気に狂乱する。
「凄いですね……こんなに盛り上がれるなんて……人の試合で、こんなに……」
氷織は今までで感じたことのない熱気に呆気に取られていた。
「アメリカはボクシングの本場で……ロスはその聖地だからね……これくらい、盛り上がりとしては此処じゃ普通、始まったらもっと盛り上がるよ、氷織。」
「確かにな……KO必至のこの階級だ、俺も重量級として勉強になる。ボルテージが上がらねえと意味がねえからな。」
灼もこの試合には深い関心を寄せている。
それくらい、全員にとってこの試合は重要点になる。
リングアナウンスが終わり、両者がフェイスオフに移る段階でこの熱狂だ、歓声と口笛が鳴り響く。
「さーて……動ける巨人のフューリーと……ヘビー級では珍しいサウスポーのプレフ……体格差をプレフがどう埋めるかにもよるが、俺の予想はフューリーの完勝だろうな……クロスファイトにはなるだろうがな。」
「オイ、オッさん……それは早えんじゃねえのか? まだ始まってすらねえぞ? あのフューリーってイギリス人、腹ポヨってんじゃねえかよ?」
「灼、言ったろ? 動けるって。まあ見てな。信じらんねーものを目にすることになる。お互い技術は世界でもトップレベルだからな。」
諒太が言った側からゴングが鳴り響き、両者が中央に寄る。
「凄い……大の男がリングに立つだけで……手を出せばすぐ当たりそうな距離が……」
海華が息を呑む。
他のメンバーも同じだ。
そして試合展開は、距離を詰めたいプレフが先に仕掛け、フューリーが持ち前の機動力で攻撃を外していく展開が続く。
「オイオイ……なんであのガタイで動けんだよ、フューリーは……皮肉じゃねえが、マジで速えぞ、軽量級の俺よりも……」
「それがフューリーのスタイルだ。フューリーはヘビー級では珍しいアウトボクサーだが……パンチ力も並以上にはある。だがそれよりも恐ろしいのが……あのタフさと回復力。何度倒されても不死鳥の如く、何事も無かったかのように立ち上がるんだ。……俺も戴冠前の引き分けた試合を観たが……ありゃ驚きだ。」
そして膠着状態のまま、前半が終わる。
諒太の採点では両者が互角。
ただ、採点はリングの上のジャッジにしかわからない部分があるので、正直分からない。
しかし第7ラウンド、試合が一気に動いた。
フューリーの右フックが、プレフのテンプルを捉えると、プレフが一気にグラついた。
会場がそれに釣られて今日一番のボルテージだ。
そしてフューリーが連打し、プレフからダウンを奪った。
更にスタンディングオーベーションに包まれる。
プレフは立ち上がろうとしたが、足元がおぼつかず、レフェリーが即座に試合を止めた。
会場の全員が、この劇的なTKOに大歓声とスタンディングオーベーションに包まれていった。
そしてフューリーの四団体のベルトを巻いた姿を撮り、全員がホテルへ帰路に着いて行ったのであった。
「どーだったよ、お前ら。」
諒太は興奮げにジム生達に聞く。
「とにかくすげーの一言だよ、会長!! マジで燃えてくるぜ、あの試合は!!」
戸田が興奮冷めやまらない様子で答える。
「ホントに……なんて言っていいか分かんないくらいだったぜ……とにかく熱かった、っていうか……」
江口もどう形容していいかわからない、という具合でエキサイティングしていたようだった。
「まあ……その感じだとみんな同じ、か。なんでか言おうか? お前らのためになんでチケット取ったのかをよ。」
「……父さん、ウチの経済的なことにも関わるのにさ……なんでわざわざ取りに行ったの? 父さんだけならまだしも、全員分って……側から見たらタダのアホだよ、父さんのしてること……」
「ああ、大丈夫だ、そこは。まあ……寄稿の仕事だよ、解説者として、な。俺のコラムをよ、ネットニュースに投稿するためにわざわざアメリカに行ったってわけだ。お前らもよ、勉強になったろ? プロの頂点、ってのはそういうもんだ。どこまで目指すかはてめーら次第だ、結局は自分の意思で目指すんだからな。だからこそ、プロの空気を世界レベルで肌で感じ取ってもらいたかったんだ。特に……瑠希菜と灼には、な。」
「……そうだな……オッさんの言う通りだ。俺は体格的にヘビー級だったりクルーザー級じゃねえと厳しいからな。そうなると俺は海外に市場の目を向けなきゃいけねえ……マジで勉強になったぜ。あの会場の雰囲気も含めて……な。」
「……私も同感。私に関しては女子はただでさえ層が薄いから……私がプロで活躍することで、あの会場を盛り上げることも出来るし……単独興行もできる、って考えたらあのベガスの舞台に立ちたい、あの試合でそう思ったよ。」
これを聞いた諒太はフッ、と笑った。
「それでいい。モチベーションは高けりゃ高えほどいいからな。俺も指導者として、勉強にはなったからな。けどよ、忘れんじゃねえぞ? アレは基本がしっかり出来ているから出来ることだ。すぐに試しても効果はねえ。だから俺は基本を徹底して叩き込むからな、覚悟しとけよ?」
「「「「「「「「オウ!!!!!!!!」」」」」」」
全員がエキサイトな雰囲気を習得したことが収穫となり、翌日を迎えた。
諒太の知り合いのジムで、一行はトレーニングを積むことになる。
そしてそこで、瑠希菜は運命的な出会いをすることになった。
後にプロで対決することになる、その女子選手と合間見えることに。
次回は遠征トレーニングです。




