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第30ラウンド 勝利の代償

今回書くのは決着とハードパンチャーの宿命です。

 最終第3ラウンドのゴングが鳴る。


2人は一気に勝負を掛けるべく、リング中央へと駆け出した。


お互いにワンツーを繰り出していくが、倒れる気配が一向になかった上、体力もどんどん消耗していく。


(キツい……ここまで苦しくなるなんて思わなかった……でも……イジメを受けてた時と比べたらこんなの屁のかっぱだ!! 打て、打て……!! 絶対倒すんだ!!)


瑠希菜は意地を張るかのように、一発一発に力を込めて拳を放っていく。


一方の夏帆も、体力が限界だった。


(さっきのボディーは効いた……!! だから私ももう……スタミナはすっからかんだよ……でも負けたくない!! 同じ相手に2回も負けるなんて……!! 私のプライドが許さない!!)


夏帆も意地を見せ、的確に拳を放ち、瑠希菜の顔を捉えていく。


観客もこの打ち合いに沸き立った。


だが当事者2人は違った。


早く倒れてくれ、その一心だった。


(早く倒れろよ、も〜〜〜〜…………!!)


(早く終わって……!! もう疲れたから……!!)


互いの前の手のフックが互いの顎を直撃した。


ガクつく両者、しかし怯むことなく2人は利き手のオーバーハンドブローを放った。


これも顔面を直撃、2人にはもう、攻撃を避ける気力が残っていなかった。


2人はもうここで決めるしかない、と思い、またオーバーハンドを放つ。


が、夏帆のカウンターが先着した。


瑠希菜の意識が飛びかける。


(ここで……!! 決めるんだァァァァァァァァ!!!!)


夏帆は渾身の力を込めて振り抜いた。


瑠希菜の脳が揺れる。


首が大きく揺れる。


だが、瑠希菜は踏みとどまった。


(マジか……!! これで倒れないの!? どんだけタフなんだよ……!!)


夏帆は焦りでもう一発、打ち下ろしを出そうとしたが、瑠希菜の目を見て寒気を覚えた。


獣のような目を目の当たりにし、戦慄を覚える。


が、構わず夏帆は右を放つ。


瑠希菜は歯を食いしばり、大きく足を踏み込んだ。


瑠希菜は渾身の力を込めて、左のオーバーハンドを放った。


前のめりになった2人の顔面に、両者の拳が正面衝突した。


だが、夏帆の方が浅かった。


瑠希菜は歯を食いしばり、全体重を拳に乗せ、腕にもパワーを込めた。


咆哮を挙げ、瑠希菜は思い切り拳を大きく振り抜いた。


だが、その時だった。



ミシッ………!! ボキボキボキッッッッッ!!!



()()()()()()()()()()()




瑠希菜の左グローブから血が滴り落ちた。


そして同時に、瑠希菜の手に激痛が走った。


夏帆は3回後退りをした後、ガクン!!! と、尻もちを突いた。


正真正銘のダウンだった。


瑠希菜はニュートラルコーナーで背中を預けた。


瑠希菜の顔は、痛みで顰めたように歪んでいた。


(クソッ……!! もう左手を握れない……!! もう打てる弾が無い……!! 立たれたら負けだ……!!)


夏帆はガクガク……となりながらも立ち上がった。


(冗談じゃない……!! ここで負けるわけには……!!)


しかし、足元がおぼつかない。


(お願い……!! ここで終わって……!!)


瑠希菜は止めて欲しい、と説に思っていた。


それはリングサイドの諒太も同じだった。


(瑠希菜はもう限界だ……!! もし続行ならタオルを投げるしかねえ……!! アイツの拳は壊れてる!! これ以上は()()()()()()()()()()()からな……!!)


諒太はタオルを握りしめ、ここで終わらせる覚悟だった。


夏帆はファイティングポーズを取る。


だが、レフェリーが拳を自分に寄せた瞬間だった。


ガクン!!! と、夏帆の右膝が落ちた。


レフェリーも流石に両手を上で振って、試合終了を宣告した。


瑠希菜はそれを見た瞬間、全身の力が抜けたかのように、リングサイドに崩れ落ちた。


瑠希菜の陣営は喜びを隠せなかった。


諒太は瑠希菜を思い切り抱き締める。


瑠希菜はもう、抱きしめ返す気力も残っていなかった。


「瑠希菜……左、痛えか?」


「うん……痛いし……なんて言うのかな……?? 前戦った時よりも……勝った実感が湧かないや……」


「……ま、それは後で病院で診て貰うわ。とりあえず表彰、受け取りに行きな。」


「分かった……」


瑠希菜はゆっくり立ち上がり、右手を申し訳なさそうに突き上げた。


会場からは、盛大な拍手で迎えられたのであった。





 その後、精密検査でメディカルチェックと拳を診て貰うことにした瑠希菜。


その結果、折れた骨は左手を突き破り、即手術が必要な状態だった。


瑠希菜は2時間かけて、部分麻酔での手術を終えた。


全治に握れるようになるのに半年、打てるようになるのが一年と、時間が掛かるものだった。


これでは関東大会に出ることは不可能になるため、棄権せざるを得なかった。


力なく病院のベッドに寝転がる瑠希菜。


一気に虚無感が襲いかかったのだ。


そこに夏帆が病室に入ってきた。


「夏帆……アンタも来てたんだ……」


夏帆も精密検査に来ていたようで、顔は青痣と腫れで覆われている。


「まー……ね。私も似たようなもんだし。負けて悔いなし、って感じだよ。」


「そっかー……」


瑠希菜も同じように顔を腫らしているのはある。


それよりも拳の大怪我は深刻だった。


瑠希菜は夏帆に勝った代償を大きく払うことになってしまった。


今後のことを考えても何も浮かばない瑠希菜に対して、夏帆の顔は腫れていてもスッキリしていた。


「退院できるのっていつ?」


「今日いっぱいは入院するよ。その後は実家に帰るよ、一回。……その後は何も考えてないし……」


素直に想いを吐露した瑠希菜だが、夏帆の今後を聞いて、発奮することになるのであった。

次回は試合事後。

これが終わったら青竜中との抗争に移ります。

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