第28ラウンド 奇策・左のクロスカウンター
スケバン編も、もうそろそろで終わる頃ですね。
今回は県大会決勝戦です。
大河系ヒューマンドラマ、っていう感じなので、まだまだ続きますよ。
瑠希菜と夏帆の試合が始まろうとしていた。
お互いに集中しているのが分かる。
諒太が瑠希菜に指示を送った。
「いいか? 一回やったからって、同じ手で来るわけじゃない。体力はお前に分があるんだ、一手一手、冷静に、確実に行け。」
「了解。」
瑠希菜はマウスピースを嵌め、コーナーで体を少し預ける。
夏帆も臨戦態勢が整っているようであった。
そしてゴングが鳴った。
両者ジャブをリング中央で合わせる。
両者ジャブを鋭く繰り出していくが、両者ディフェンスもよく、一発も被弾していない。
これだけでも空気がヒリヒリとさせる。
「ホント恐ろしいくらい当たらねえモンだな……なんだ、この試合……中学生と思えねえぞ……」
山本が呟く。
このハイレベルっぷりを肌で感じ取っているのであった。
「まったくだ……番長も番長だけど……三ツ矢も三ツ矢だぞ……リングの中は……とんでもねえバケモノしかいねえじゃねえかよ……」
江口も苦笑いしか出なかった。
その頃、リングでは。
(やるね……思ったよりディフェンスがしっかりしてる……まさか私が一発も当たらないなんてね、瑠希菜……)
(やっぱり凄いな……様子見で、とは思ってたけど……そんなこと言ってらんないくらい私も当たんないなんてね……けれど……)
((リズムは掴んだ!!))
ここ、と言わんばかりに両者ワンツーを出していく。
これもまた紙一重だ。
両者続け様に前の手のアッパーを繰り出す。
これもまたクリーンヒットはせず。
そして空気を切り裂く利き手のフックを両者が放っていく。
相打ちだったが両者浅かった。
瑠希菜は左ボディフックを放ったが、夏帆はバックステップでこれを避ける。
瑠希菜が逃がすか、と言わんばかりに右のリードジャブを出し、距離を詰めた。
夏帆は更にバックステップで避け、瑠希菜は前にまた踏み出して続け様にジャブを繰り出した。
が、次の瞬間だった。
夏帆は右足を前に踏み出した。
そして次の瞬間、瑠希菜のジャブを被せるように左クロスを放った。
それは見事に瑠希菜の顎を捉え、瑠希菜は尻もちを突き、ダウンを奪われた。
瑠希菜は完全に見えておらず、困惑をしていた。
(……!? なに、今の……私は何を貰った……!? わかんない、わかんないけど……落ち着け……焦ったらダメだ……!! 足にはきてない、これはフラッシュダウンだ……!! 立て!! まだチャンスはある!!)
瑠希菜はスクっと立ち上がり、ファイティングポーズを取った。
(やるね……奇策だったけど、完璧に近いくらい手応えがよかったのに……やっぱタフだね、瑠希菜は……でもこれで主導権は取れた、一気にいく!!)
再開されたと同時に夏帆が攻めた。
が、瑠希菜は冷静に中央に陣取り、中央を保ったままサークリングし、ショート系のパンチで応戦した。
(何が起きたかは後で聞こう……今はここを乗り切る!!)
瑠希菜は踏ん張り、左アッパーをヒットさせる。
夏帆も負けじと左ボディーを放っていく。
瑠希菜は続け様に右フックを放とうとした、が。
下を見た時に寒気を覚えた。
瑠希菜は咄嗟にダッキングした。
すると、夏帆の左ストレートが飛んできていた。
(危ない……!! カラクリに気付いてなかったら負けてた……!! あの一瞬でスイッチしてたなんて……!!)
瑠希菜は明らかに動揺していた。
右を明らかに狙われている、と。
ここでゴングが鳴り、2人はコーナーへと戻っていった。
「……どうやら気付いたみてえだな……」
「ビックリしたよ……まさかスイッチしてたなんてね……しかも右のカウンターとなんの遜色もない。」
「ああ。俺も驚いた。……お前……左のクロスを貰ったんだ、それでダウンを取られたんだ。アレは間違いなく練習してきたパンチだ、付け焼き刃じゃねえ。」
「……それは感じた。私をKOする気だ、ってのが伝わった……でも作戦は変えないでいく。多分向こうも気付いてるはずだから。バレてるって。」
「まあ、何回も使えねえだろうからな、あのパンチは。このラウンドはカウンターを誘え。見え見えでもいい、隙をとにかく伺ってけ。」
「オッケー……逆に薙ぎ倒してやる……」
瑠希菜は燃えていた。
というより、スイッチが入ったという方が正しいのか。
セコンドアウトの笛が鳴り、瑠希菜は水分補給して立ち上がった。
そして第2ラウンド開始のゴングが鳴ったのである。
次回は続きです。
瑠希菜は挽回できるのか、それとも夏帆が押し切るのか。
乞うご期待です。




