第26ラウンド ハンマーショット
今回は県大会です。
瑠希菜VS萌華の第1ラウンドが幕を開けた。
両前の拳を合わせる。
そしてお互いステップを取るが、萌華は作戦通り、ガードを高々と掲げて防御を固める。
(……事前に友寄さんに聞いておいてよかった……やっぱりガードを高くするよね。でもだからこそ……油断しないで行こうかな。)
瑠希菜は敢えてガードを下げ、右回りにサークリングを開始する。
大胆不敵な瑠希菜に対し、萌華は多少動揺していた。
というか、アマチュアでガードを下げるのはタブーに等しい。
そういう意味で困惑の色を隠せなかった。
約6秒、じっくりと回って観察した瑠希菜が仕掛けた。
下側からガードを破るかの如く、鋭いジャブを放った。
諒太仕込みの、肉を切らせて骨を断つ拳、萌華はこのジャブだけで、下がらざるを得ない。
幸いにもガードに阻まれて当たっていないのだが。
(……!? なんなの、この子のジャブ……!! 速いだけじゃない、硬い……!! 石か何かを当てられたみたいに……!!)
だが、瑠希菜はこれを逃さずに、ガードの上からお構いなしに強烈な拳を叩き込む。
まるで弾丸のようなストレートと、銃弾のような高速ジャブを前に、拳を出せない萌華。
迂闊に反撃しようものなら仕留められるのは目に見えていた。
萌華はクリンチを狙い、少し前に前進する。
その間にも、瑠希菜は拳を振るい続けていった。
萌華は左ストレートを潜り、クリンチに持っていこうとしたが……
瑠希菜は右足を軸に反時計回りで回転し、左足を着地させたと同時に右アッパーを放つ。
その時間、僅かに0.3秒。
萌華は当のことながら、反応が不可能であった。
モロに顎に貰い、膝がガクンと落ちる。
萌華はなんとか踏ん張り、左足を大きく踏み込み、ジャブからの右ロングフックを放ったが、瑠希菜はこれを掻い潜り、思い切り右足を踏み出した。
萌華はバックステップで距離を取るが、左足を敢えて離して左のロングフックを放つ。
当然外れるが、左足を踏み出すと同時に距離を一気に詰めた。
クリンチしようにも、アッパーの残像がまだ残っている萌華は打って出るしかなかった。
接近戦になるが、威圧感が萌華を襲う。
左フックから右フックを連打で放つが、瑠希菜はクリーンヒットをガードしながら逃す。
瑠希菜が攻撃の合間から見せジャブを放った瞬間。
萌華はフェイントに掛かったかのように頭を右にヘッドスリップさせたが、パンチが来ない。
この一瞬を見逃す瑠希菜ではなく、左ボディフックを思い切り肋に向かって放った。
巨大なハンマーで殴られたような衝撃が萌華を襲う。
瑠希菜は動きが完全に止まった萌華に追撃で、左フックをヘッドギアがあるところとの境目に正確に打ち込んだ。
左膝を付き、ダウンが宣告される。
萌華はなんとか立ち上がるが、足が効いている。
レフェリーがそれを見てストップ、RSCを宣告した。
瑠希菜は2回戦進出を決めた。
続く2回戦、3回戦を鮮烈なKOショットを披露するなどして、快進撃を見せていくのであった。
負けた選手が口を揃えていったのがこうだ。
「ハンマーショットだった」と。
そして準決勝へと駒を進めた瑠希菜だったが、相手は県大会屈指の強敵「佐藤沙奈」が相手となり、気を引き締めたのであった。
次回は準決勝。




