第25ラウンド モチベーション
今回から神奈川県大会。
メインは瑠希菜VS夏帆なので、今回は一回戦前までお送りします。
7月初週。
神奈川県大会が始まった。
7月末の関東大会に向けた、負けられない大会である。
瑠希菜は余裕で軽量をクリアし、一回戦に向けて調整を行なっていた。
一回戦は川崎市代表の「相堀萌華」。
RSC負けが一度もないタフな相手で、クリンチやガードが堅いタイプの技巧派だ。
瑠希菜は負けられない訳があった。
「……夏帆と戦うためにこの日までやってきたから……負けたくない……そこまでは絶対に……」
瑠希菜はバンテージを巻きながら、自己暗示で自分の集中を高めていた。
「瑠希菜……確かにそのために練習はやってきた、けれどな……まずは目の前の相手に集中しろ。じゃねえと三ツ矢とやるなんて夢のまた夢だぞ?」
「分かってるよ、父さん……今集中してるからね……」
諒太はそう声を掛けたが、どこか力が入りすぎている、と感じていた。
燃えているのはわかるが、無駄な力みは敗北に繋がる。
特に3ラウンドしかないアマチュアボクシングなら尚のことだ。
試合なら大丈夫か……と思い、敢えてプラスで声は掛けなかったが。
と、そこに。
ガチャッ、と控室のドアが開いた。
紀利華が入ってきた。
「……ったく、試合前なんだ、集中させてやれよ、テメエら……」
「いやー……ごめんなさい、会長……瑠希菜が試合あるってアタシの舎弟たちに伝えたら……こんなの作ってくれたみたいで……」
と、白虎中の紀利華の仲間たちが作ってくれたお守りを30個ほど、箱の中に入っていた。
……まあ、こんなには要らないのではあるが。
「……なんでわざわざ白虎のみんなが……??」
「アンタが全中行ってくれるってみんな思ってるんだってさ。アタシが話してるし、アンタのこと。ホント、いい舎弟持ったよ、アタシは。瑠希菜に2回も負けてんのにそれでも慕ってくれるんだもん。」
「……紀利華が頼んだの?」
「いやいや、アタシはなんも? なーんも聞いてなくてパって渡されたんだから。」
「そっかー……じゃ、期待に応えなきゃね。」
「頑張んなよ? アタシらのリーダー!?」
そう言って紀利華は瑠希菜の背中を叩く。
瑠希菜もいい意味で力が抜けたようで、表情にも少し余裕が出てきていた。
「まあ、それはいいけどよ、紀利華……お前はねえのか?」
「ああ、アタシも作ってきましたよ? 昨日なんで、これ渡されたの。」
と言って、ピンク色のお守りを出した。
「おー……いいじゃねえかよ。女の子らしくて。……じゃ、これ俺が持っておくから。で、アイツらは?」
「あー……山本達が席取ってくれてるんで……そこで観ようかと。」
と、ここで歓声が鳴る。
どうやら前の試合が終わったようで、入場しなければいけないようであった。
「よし……行くか。坂井くん、友寄くん、荷物頼むわ。氷と水のボトル。」
トレーナーの2人に荷物を持たせ、入場しようとした。
が、瑠希菜は四つん這いになっている。
「……どうした?」
諒太がふと見ると、紀利華がタオルを瑠希菜の背中に乗せているのが見えた。
紀利華が一息吐く。
「よし……!! 行ってこい、瑠希菜!!!」
「オーーーーー!!!」
「セイヤーーーーー!!!!」
「シャーーーッッッッ!!!」
瑠希菜の叫び声と同時に、紀利華のタオル越しの平手打ちが入る。
パチーーーーーン!!! という小気味良い音が鳴り響いた。
「……よし、気合入った。」
「……ならいい。全力でやってこい!」
瑠希菜は県大会のリングに立ち、リングアナからコールを受ける。
夏帆と戦うための、絶対負けられない戦いが幕を開けるのであった。
次回は試合。




