第23ラウンド 夏帆の進化
今回から県大会編に突入します。
というわけで今回は偵察回。
瑠希菜と紀利華は、横浜に来ていた。
何故か。
「……アタシに見せたいものがあるって言ってたけど……なんで横浜??」
「そこにアンタに見せたい人がいる。」
今日は試合後なので、瑠希菜と紀利華は休みを取っている。
肋骨が折れていた紀利華はそこまで無理が出来ないので、紀利華の荷物は瑠希菜が持っている。
というわけで、二人は会場に入っていった。
そこではボクシングの試合が。
どうやら横浜市内大会のようであった。
「……見せたいのってこれ?」
「そうだね。けれど……順番はまだ、か……」
瑠希菜はそう呟く。
試合はその中でも進んでいく。
そして、次の試合。
瑠希菜の目当てが来た。
「三ツ矢夏帆」だった。
「お……来たか。私のお目当て。」
「今赤コーナーの子?」
「そうそう。三ツ矢夏帆……私のライバルだから……」
試合のゴングが鳴る。
右利きが相手なので、時計回りでサークリングしながらパンチを出していく夏帆。
しかしそのスピードは速く、正確だ。
「はっや……!! なにあれ……!!」
「夏帆は手数が多いからね……けれど3月にやった時より速くなってるね……」
試合は夏帆が優勢で進んでいく。
「さて……ここからかな。夏帆はもう……ジャブに合わせてる。」
「え? 合わせてるって何が_______」
次の瞬間、クロスカウンターが放たれた。
相手選手はマリオネットの糸が切れたように崩れ落ちた。
「え……なに、今の……全く見えなかった……」
「……今思うと、始めたばかりの私がよく勝てたなって思うよ……このクロスが……夏帆の武器。」
「なんでこんな……凄すぎる……」
「……進化してる……キレも、精度も何もかも、ね。私も負けてられないな、絶対勝つためにも。」
瑠希菜と紀利華は刺激をもらったようで、拳をグッと握りしめた。
試合後、夏帆の控室を訪れた二人。
労いと宣戦布告のつもりだろう。
「……なんだ、来てたんだ、瑠希菜。」
「うん。……私も県大会、出れることになったからね。」
「ハハッ、そっかー……じゃ、来月……だね。戦うことになるの。」
「だね。……進化してるのは分かってるから……負けてられないよ、私も。」
ここに来て、プロの試合のフェイスオフのように、バチバチになる瑠希菜と夏帆。
紀利華は完全に蚊帳の外だった。
「……ああそうだ、ツレがいるんだけど……カウンター、教えてやってくれる?」
「誰がツレだよ瑠希菜!!」
「えー? まあいいけど……」
と言って、紀利華の前に出る夏帆。
紀利華は思わず構える。
「じゃあ、ジャブ出して。とりあえず。」
「え? こう?」
紀利華は言われるがままにジャブを軽く出す。
と、次の瞬間。
紀利華は寒気がした。
自身のアゴに寸止めで右拳が来ていたのだから。
(なに……今の……これ本番だったら倒されてた……!!)
「大事なのは相手のジャブの距離を見切ること。それで……ワンツーをどのタイミングで打ってくるかを見切る。読むことだね、やっていく中で。あとはワンテンポ置いたパンチを練習することをすると……カウンターの精度も上がるよ。」
「なるほど……」
と言って、夏帆は手を引っ込め、荷物を持った。
「それじゃあね、瑠希菜。……ああ、あと……言い忘れてた。」
「? なに?」
「……アンタを倒すための秘密兵器……用意してるから。」
「は??」
瑠希菜が疑問に思う中、夏帆は颯爽と去っていったのであった。
湘南に戻る帰り道。
紀利華は瑠希菜に声を掛ける。
「……三ツ矢夏帆……バケモンだよ、アレ……初めてだよ、あんな寒気がしたの……」
「? どういう感じ?」
「……瑠希菜は大きいっていうか……威圧感が凄いんだけど、夏帆は……なんていうのかな、下手に手を出したら一瞬で斬られそうな……そんな感じがしてね……」
「……父さん、言ってたよ。『分からないカウンター』が一番怖いって。……IBFのウェルターの王座から落ちた時も……そのカウンターでやられてた。」
「会長が現役の時も……!? ……アタシもその領域に行けるのかな……?」
「それは分からない、だけど……私は私のことをやるだけだよ。……どんな作戦で来ようが……パワーで捩じ伏せてやる。それだけだよ。」
瑠希菜は拳を握りしめ、夏帆との再戦に燃えていたのであった。
次回は夏帆対策回。
初のスパー遠征に瑠希菜が行きます。




