第20ラウンド 未練
今回は瑠希菜と灼のスパー。
登場人物紹介は灼です。
式見灼 湘南朱雀中3年 湘南堀岡ジム練習生 12月8日生まれ AB型 右利き 186センチ 96キロ 好きな食べ物 寿司 趣味 家庭菜園
本作のもう1人の主人公。
喧嘩の実力は瑠希菜とほぼ互角。
極真空手の経験者で現在も続けている。
不良たちの間からは「凶熊」と恐れられており、1人で朱雀中をシメるほどのカリスマ性も秘めている。
普段は寡黙な性格だが、恐ろしいまでに天然な性格。
ただ一方で素直に相手の実力を認められるなど、スポーツマンシップも兼ね備えている。
空手経験者らしい右ストレートを最大の武器にしている。
家族とは折り合いが合わず、灼は距離を置いており、県大会を最後に空手を辞めようと思っている。
諒太が灼に対してミットを持ち、パンチを手取り足取り教えることになった。
「灼、まずジャブを打ってみろ。」
灼はとりあえず打ってみる。
ボフン!! という音が聞こえてきた。
ものすごい音が鳴ったのだが、諒太は納得しない。
「もっとしっかりと爪先に体重を乗せて……当たるという瞬間にグッと拳を握る。今のお前のはただ打ってるだけだ。手打ちじゃダメージは与えれねえ。お前も空手経験者なら分かるだろ?」
「……まあ、なんとなくは。」
「よし、じゃあもう一発だ。さっき言った通り打ってみろ。」
灼はもう一度打ってみる。
先程言われた通りに。
すると、最初のパンチより鋭く、重いパンチが繰り出された。
「どうだ? いいのが乗ってるだろ?」
「……こんな感じでいいのか?」
「改善する点はその都度教えてやる。次は右だ。真っ直ぐ思いっきり打ってこい。」
灼はその後、諒太のミット目掛けて一心不乱にパンチを放っていった。
4ラウンドを終えた頃、水を飲む灼に、諒太は話しかける。
「やっぱ世界チャンピオンになれるな、お前は。そのままでも日本チャンピオンくらいにはなれるだろうけどよ……日本のヘビー級は市場が狭い。……灼、お前、プロになる気はあるか?」
「……まあな。オッサンをぶっ倒すって目標から……『世界チャンピオン』に何故か飛躍しちまったし、あんな強いオッサンから言われてんだから……なんとなくだけど目指してる。」
「灼、なんとなくじゃ世界チャンピオンにはなれねえよ。お前はまず……ジャブを徹底的に鍛えろ。右を活かすためだ。ヘビー級まで行けばKOは当たり前の階級だから、雑でも世界チャンピオンになる奴だっている。だが頂点に立つ奴は努力してんだよ。少なからず。だから本気なら2ヶ月……ジャブだけを鍛えろ。お前は左が弱いから右が活きない。だから今から……それを教えてやるよ。」
「あ? オッサン、どういうことだよ?」
「おーい、瑠希菜! 灼のスパー相手してくれ!!」
諒太は瑠希菜を呼び、スパーの相手をさせることにした。
「……別にいいけどさ、灼と階級が違いすぎるでしょ。第一私、減量中だし……」
ヘッドギアを付けながら、瑠希菜は渋々といった顔を見せる。
「いーんだよ、教えてやるだけだから。それにマスだから心配すんなって。」
「ハア……カットしたところもまだ治り切ってないのにさ……いいよ、当たんなきゃいいんでしょ?」
「そういうことだ。」
「……じゃ、行ってくる。」
タイマーが鳴り、マススパーが始まった。
体格差があるので、瑠希菜からすれば、かなり遠い距離になる。
2人はジリっと、睨み合い、様子を伺う。
6メートル四方のリングの中だ、余計に狭く感じる。
先に仕掛けたのは瑠希菜だ。
鋭く踏み込み、右ジャブを放った。
そこから瑠希菜は、立て続けに3連ジャブを放った。
灼もジャブを返すが、そもそも右対左の構図ではいくら瑠希菜の背が低いとはいえ、灼は遠くなる。
しかも遅いと来る、目の良い瑠希菜なら躱すのは容易だ。
(なんで俺の方がデカいのに……アイツのパンチだけ当たるんだ……? チッ……洒落くせえ……右で沈めてやるよ……!!)
灼は先程教えてもらったワンツーを放ったが、瑠希菜は右に避けて左オーバーブローでカウンターを合わせた。
「ぬがっ……!!」
「灼……アンタ、分かりやすい。」
そこからは一方的になった。
灼の出すパンチは悉く空を切り、瑠希菜のパンチは面白いように当たっていった。
タイマーが再び鳴る頃には、灼はグロッキー状態になっていた。
「……ま、そういうこったぁよ、灼。」
「……クソが……全然当たりゃしねえ……」
灼は悔しがって、グローブを叩きつける。
諒太は苦笑いで声を掛けた。
「まあ、アイツの経験が一枚上手ってのもあったが……ジャブが利き手のパンチのカモフラージュになる。何故なら無意識的にそれを意識しちまうからだ。だから速いジャブが必要になる。右で仕留めるために。」
「……なるほどね。」
「言ってた意味、わかったろ? 身をもって。」
「ああ……オッサンの言ってたこと、よくわかったぜ。」
灼は納得したように、サンドバッグへと向かい、ジャブを打っていった。
と、突然手を止め、灼は諒太に話す。
「わりい、オッサン……ちっと、いいか?」
「なんだよ。」
「……わりいな。俺、空手の大会が来月にあるんだ。だからよ……しばらくそっちに集中させてもらえないか? それで空手から身を引こうと……思ってんだよ。」
諒太は意外そうな顔をしていたが、了承したような顔を浮かべた。
「まだ未練が残ってんだな? 空手に。」
「ああ……もうエントリーしてるから……道場に迷惑も掛けたくねえしな。」
「大丈夫だ、それくれえ。元々プロ用に建てたジムだ、1ヶ月くらいどうにでもなる。その代わりよ、空いた時間でいいからジムに顔は出せよ。実際お前の生活は……ボクシングの方が長くなる、だから今は目の前の試合に集中しな。」
「……助かるぜ、オッサン。だから思う存分打ってやるよ、ここで。」
灼は肩の力が抜けたかのように、サンドバッグを叩いていったのだった。
数週間後。
瑠希菜の市内大会が始まった。
瑠希菜はフライ級リミットで計量を一発クリアし、試合に備えてバンテージを巻いた。
諒太のミットを打ち、感触を確かめる。
「どうだ? 瑠希菜。調子は。」
「……悪くない。体調自体もいいし……バンテージの乗りもいい。」
「……ま、アイツらも見に来てるんだ、かっこいい所、見せてやれ。」
「りょーかい。父さん。」
ロングの髪をコーンロウに纏め、その上からヘッドギアを被り、瑠希菜は試合のリングへと上がっていった。
次回から市内大会が始まりますが、見所は県大会なんで、ここはサクッと、二話くらいで終わらせますww
今回から日曜日投稿になりますが、よろしくお願いします。




