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第13ラウンド 「氷織は弱くない」

瑠希菜をキレさせたらこうなるやつ。

「総長」としての瑠希菜が花開きます。

今回の登場人物紹介は谷口です。


谷口昌平(たにぐちしょうへい) 湘南黄竜中3年 3月29日生まれ O型 160センチ 49キロ 湘南堀岡ジム練習生 右利き 好きな食べ物 グリーンスムージー 趣味 ナンパ


「腑狼」のメンバーの一人で、チームの中では比較的小柄ではあるが、諒太曰く4人の中で一番センスがあるとのこと。

明るい性格で、「腑狼」のムードメーカーでもある。

本人の顔が悪いわけではないというのもあるが、ナンパが趣味で、ノリは結構軽い。

両親からはネグレクトを受けており、それ故に目立ちたがりな部分があるが、何かを本気でやった事がなく、ボクシングはやっと出会えた本気でやれる場所とのこと。

ボクサーとしては、現在ステップの速さを生かしたディフェンスの練習をしている。

 翌日。


「腑狼」メンバーは作戦を決行した。


まず氷織を谷口が自分たちの教室まで連れてくるというところまではクリアできた。


あとは氷織に作戦を遂行してもらうだけだ。


「……っていう感じなんだけど、氷織。大丈夫?」


「ハイ……なんとか……」


瑠希菜は氷織に作戦を伝えたが、氷織はどこか不安そうだった。


「おう、氷織、大丈夫か? 心配すんなって、俺らがいんだから。」


「……それでバレちゃってたら……って考えたら……瑠希菜さんにも申し訳ない、っていうか……」


戸田が心配になって声を掛けると、氷織は正直に心境を吐露した。


「ああ、そうだ番長。実はさ……」


といい、谷口がスマホを取り出した。


よく見ると、詰襟のポケットがパカパカと開いている。


「この時のために()()()()()()()()んだ。アイツらの顔撮れてなきゃ意味ねえだろ? 何をするにもまず情報だ。」


と谷口はいい、氷織がスマホの動画を見ながらイジメグループのメンバーの名前を一人一人明かし、瑠希菜はそれをメモしていった。



 3人の名は、「小山内莉緒(おさないりお)」、「村本麻紀(むらもとまき)」、「木村綾沙(きむらあやさ)」というらしい。


しかもタチの悪いことに、3人とも「()()()()()()()()」ということだった。


氷織の話によると、だが。


「……これ()()()()()()()()なんだけど……」


話を聞き終えた瑠希菜はため息を吐いた。


優等生ぶっている人間の立場というのは、教師側から見れば強くなる。


ましてや不良グループに属している人間から殴られた、と訴えられればピンチになるのはこっちだ。


「……あのさ、海華……どう思う? 聞いてたでしょ? 今の話。」


「どうだろ……化けの皮剥がすってのはいいかもしれないけど……」


「……どっちにしろ、めんどくさい事になりそうなのは変わりないんだよなぁ……」


「分かるよそれは。学校の札付きを従えてる、るっちがやった、ってなったらさ……」


「……大義名分もクソもないしね。あそこの先生たちは。」


「でも氷織ちゃんがさ? ()()()()()()()()()()()()()()()しね。そこは男子たちに懸かってるんじゃない?」


「……それでも若干不安はあるよ。何回も言うけど、あの手は私がぶちのめしても辞めないかもしれないからね……」


「あー、それはあるかも。私ら卒業したら、また起こるってこともあるし。」


「そこなんだよ、私らが懸念してんの。ただの不良だったらさ、まだいいよ。私がバックにいるってこと知ったら恐れるだろうし。でも優等生ぶってる奴は割り切れる。だからまた起こるっていう構図なの。」


「……氷織ちゃんには頑張って強くなってもらうしかない、か。」


「海華、勘違いしてるようだけど、()()()()()()()よ。だって頼れる人と場所が出来たんだもん。頼るかどうかって自分の意思の問題だから……耐えるのも強さかもしれない、けど()()()()()()()()()()。氷織はその両方を持ってる。だから私は氷織を強い子だと思うし、ボクシングもこれから強くなれると思う。こんなことでめげるような子じゃないって私は信じてる。だから今は私がアイツらをのめさなきゃいけないんだ。」


「……まあ、るっちが言うならそうかもね。るっちは人として強いから。……うん、わかった。信じる。るっちの言葉を。」


この時、瑠希菜は決意を改めて固めた。


絶対に氷織を救うことと、氷織を「ボクサー」として強くすることを。



 下校時。


氷織と合流した「腑狼」のメンバーは、「午後5時半になるまで」という短いリミットではあったが、報復作戦を開始した。


木村に関しては、海華の後輩ということで、海華が今日一日部活の間、見張ってもらうことにした。(ちなみに小山内と村本はバドミントン部、木村は陸上部長距離とのことらしい。)


その間に瑠希菜は、先にスーパーマーケットのトイレへと入り、特攻服に着替えた。


黄竜中から公園までは歩いて30分。


その間にスーパーがある。


一旦外に出て、みんなに確認してもらった。


青色の丈の長い特攻服を。


「どうかな? ちょっとブカブカだけど……」


「めっちゃ似合ってんじゃん、番長! それこそ『腑狼』のリーダーだわ!!」


「まあ……似合ってるならこれで行くか……」


インナーは白無地のTシャツ。


口元には旭日旗のワッペンが入った、白いマスクを装着している。


制服は手持ちカバンに収納していた。


「……じゃ、あとは作戦通りで。」


「任せとけ、堀岡さん。先、ジム行ってるから。」


といって、「腑狼」のメンバーは、二手に分かれて行動した。


瑠希菜は件の公園に、山本たちは氷織を護衛しながらジムへと、いった具合に。



 そんなこんなで午後5時。


瑠希菜は海華にメールを送る。


【海華、どう? 様子。】


《そんな変わってない。あの3人が集まったら来るって感じだからね。》


【分かった。じゃあもうちょい見張ってて】


《はいよ》


2分後、海華からメールが届く。


《あの3人が集まった。来るよ。》


【把握】


それだけ送信して、瑠希菜はマスクを装着した。



 それから二十数分経過。


あの3人が会話しながら来た。


氷織に関してのことだった。


しかも顔も声も、谷口が撮ったものと全くの一緒。


聞いているだけでも胸糞悪くなるような会話をしている。


腹が立ってくる。


瑠希菜は証拠を握るため、自分のスマホを使ってその会話を録音した。


しかも、瑠希菜にはある()()()()()()()があった。


3人が公園に来た、ということを瑠希菜は山本達に連絡した。


あとは決行に移るだけだった。


氷織をいじめたことに対しての報復を。



 一方、小山内、村本、木村の3人は。


誰もいないベンチを見て慌てていた。


「え!? 氷織来てないじゃん! アイツ来るって言ってたのに!!」


小山内が特に慌てたような声を発していた。


「いや、たまたまさ? 予定あったのかもしれないじゃん? 昨日みたいにさ?」


村本も口では冷静なことを言ったが、内心動揺していた。


「でもアイツは私たちには逆らえない……だから電話するわ、今。鳴ったら来いって命令してるから……」


そういって、木村は氷織に連絡を取ろうと、電話をかけた。


が、出ない。


「……おかしいな……いつもなら出るのに……」


「やっぱ予定じゃない? 今日も男子の先輩に着いてってたし。」


「ムカつくわ、なんで氷織なんかに男が出来るのよ。」


3人は口々に言う。


が、ここで3人に近づいてくる影があった。


そう、瑠希菜だ。


しかもその右手には、電話が鳴っているスマホが。


3人に近づくにつれ、その音は()()()()()()()()()()()()()()()()()()


瑠希菜はそれを小山内の耳元に当てた。


「うわぁっ!? え!? 誰!?!?」


小山内のそれは、明らかに動揺していた声だった。


何故、氷織のスマホが瑠希菜の手元にあるのか、何故バレているのか……木村は咄嗟に電話を切ったが、もう遅かった。


何故なら。


「ハーイ、お嬢さん達? そこで何をやってたのかなー?」


瑠希菜がニッコリした笑顔でこちらに近づいているからだ。


「え……いや、友達待ってて……その友達が来てないから電話をしたら……え??」


特攻服を着た瑠希菜に、村本は完全にたじろいでいた。


「ふーん……こんなことしてて……まだ『友達』って言えるんだ〜……へ〜〜、凄い神経してるんだね〜、アンタたち〜。」


といって、自分のスマホの録音したものを再生した。


それを聴いた木村は。


「な……なんで!? なんでそんなこと言ってたのを録ってたの!? てかいつからそこにいたの!?」


瑠希菜は据わった目のまま説明する。


種明かしを。


「……昨日ここで氷織と偶然会って……それでアンタたちが氷織にしてきたこと……全部知った。それでウチに連れてきて、私の仲間たちと一計を案じた。『優等生』然としているアンタたちをどうやって貶められるか、報復できるか、って考えたら……録音(コレ)しかなかった。そして決定的なのはコレ。()()()()()()。アンタはまんまと騙されて動揺して……氷織に電話したようだけど、筒抜けだよ。だって私が預かってるから。」


静かに怒りに震えている瑠希菜、今にも人を殺しそうな雰囲気だった。


「な、何よ! ちょっと証拠掴んだぐらいで調子乗ってんじゃないわよ!」


小山内が後退りしながら喚くが、瑠希菜は聞く耳を持たない。


というか、聞く意味がない。


「調子乗んな……? それはアンタらでしょうが。周りから優等生だってチヤホヤされて? 人望も表向きはあって? 天狗になってんのはアンタらなんじゃないの?」


「なんで氷織と一日あったぐらいで……なんでアイツなんかの味方になったの!?」


「なんでって? 簡単だよ。『友達』であって『カワイイ後輩』だからだよ。それを傷つける奴は……私が許さない。」


スマホを鞄にしまい、ジリっと3人に詰め寄る瑠希菜。


「……友達の平穏のために……友達である私が動くのは責務でしょうよ。……だから覚悟しな。」


そういって、拳をグッと握り締めた。


瑠希菜は小山内のボディー目掛けて左ストレートを肝臓めがけて放った。


ボクサーの素手でのパンチだ、痛いだけでは済まない。


まともに食らった小山内は腹這いになって地面に沈んだ。


「さて……あとはアンタたちだね。」


「や……やめてください……何でもしますから……!」


村本が命乞いをするが、瑠希菜は耳を貸さない。


()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()


と言いながら、左のオーバーブローを放つ。


ボグシャ!! という音が鳴り、村本は失神して芝に背中から沈んだ。


恐れをなして、背中を向けて逃走した木村を瑠希菜は、走って追いつき、ホールドクリンチで締め上げて、木村を失神させて、地面に落としたのだった。



 その後、氷織に対してのイジメは消滅した。


瑠希菜がいる限り、手を出せないというのを彼女たちが理解したからだ。


翌日、瑠希菜が2年生の教室に乗り込んで、改めて彼女たちに説教をして、次に氷織に手を出したら再起不能にすると脅したのだった。



 氷織が入ってからの初めてのロードワークにて、走り出していく7人。


そこで事件が起きた。


最後尾で多目的公園に到着した氷織がというと……


「ォロロロロロロロ!!!」


と、芝生で嘔吐したのだった……。


「わーーーーーー!!! 氷織ーーーーーーー!!!!!」


……この日の朝、湘南堀岡ジムの日常は、氷織の「ゲロイン」襲名から始まったのだった……。

無事、解決。

これで良かったのかとは思うけどもwww

あと、最後のはギャグです。

次回から本格的に他校との抗争をスタートさせます。

もう1人の主人公を、その抗争の時に出す予定です。

登場人物紹介、次回は戸田です。

お楽しみに。

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