3話・なぜ愛は無いと?
とりあえず、変な観葉植物を持った人をいつまでも玄関先で立たせている訳にもいかないので
私は剣さんを連れて客間へ来た。
私と剣さんは、敷かれた座布団に座り向かい合っている。
間には、絶え間なく動き続けている奇妙な植物があるけれど。
「ええと…剣さん、日向神社の方だったんですね…」
私はなるべく植物に気を取られまいと笑顔で剣さんに話しかけた。
すると、植物をなんとなくぼーっと見ていた剣さんも私に目を向けるなり、笑顔で答えてくれる。
「はい!まさかご存知なかったとは思わなくて…自己紹介が遅れてしまってすみません」
「あ、いえそれは全然…私も聞かなかったですし」
律儀に頭を下げる剣さんに慌てつつ、私は考えた。
普通は言われずとも、お名前を伺った時点で気付くのだと。
この方がわざわざ言わなかったのも、その考えからだろうと。
これは本当に剣さんが悪いのではなく、私が興味を示さなかったのが原因だ。
親の決めた相手と結婚する、それが当然だったしなんの異論もなかった。
だから親が決めた剣さんなら、家柄的になんの問題も無いのだろう。
私にとって、良い縁談相手なのだろう。
それ以外には何も思わなかった。
まぁ神社の息子と聞いて、意外とは思ったけれど。
(今までも…神職の家系と婚姻を結ぶことがあったのかしら)
私が記憶を思い出そうと、うんうん唸っていると、それまで黙っていた剣さんが俯きがちに呟いた。
「……やはり、神力を持った私なんて…気味悪い…………ですよね」
まだ知り合ってから日も浅いけれど、初対面から明るい笑顔の剣さんしか見ていなかったから、その暗い表情を見て少し戸惑ってしまう。
………そうか。私が、急に考え込むように黙ったから。
引いたのだと、思わせてしまったのか。
私は、俯いている剣さんにしっかりと届くように声を出した。
「気味悪くなんか、ありませんよ」
剣さんは、ほぼ反射的に顔を上げる。
「あ。観葉植物は気味悪いですけどね。」
「あっ、ハイ……」
本当にあれはどうにかしてほしいけれど、
神力に関しては、私は───
「人が持てない力を持っているのって、羨ましいですよ。気味悪いどころか格好良いとすら思います。」
これは紛れもない私の本音。しっかりと伝わるように、なるべくゆっくりと話す。
正直、神力についての知識があるわけでもないし«心»を物体化するということ以外にも何の力が使えるのかも知らない。
けれどこの目の前にある観葉植物だって、普通の人間からは生み出せない。もっと凄いことだって出来てしまうのだろう。
いや、凄いことじゃなくてもいい。特別な力があるって言うのは、それだけでとても可能性が広がるから羨ましいことだ。
私も使えるものならば使ってみたい。
そう話すと、剣さんは泣きそうな嬉しそうな複雑な表情で言った。
「ありがとう」
釣られて、少し私も微笑んだ。
そして空気が和んだところで、私はある疑問を投げかける。
「そういえば剣さん、初対面の時仲良くしましょうと言いましたね。何故ですか?」
「えっ!?」
…………??
何かしら。私はそんなに意外なことを聞いたのかしら。
目を見開いている……………。
「えっ…あの、親の決めた婚約ですよ?どうせ愛が生まれる訳じゃ無し。仲良くする意味がありますか?」
私は目を見開き続ける剣さんに言った。
何故そんなに意外がるのか…彼は更に目を見開く。
「なぜ愛は無いと?…確かに今は知り合ったばかりでそんなもの無いかもしれませんが、これから生まれる可能性は否定しなくとも…」
「有り得ますか?そんなこと…私の祖父母、父と母、みんな家の決めた相手と結婚し、何不自由なく生活してますが仲良くもしていないし愛が芽生えたなんて話、一度も聞いたことがありませんよ」
「ええっそうなんですか!?仲良く…ないんですか」
「はい。なので、結婚は断る理由がありませんが仲良くする意味も又ないと思います。」
きっぱりと目を見て言い切る私に、剣さんは言葉を失ったのかあからさまに肩を落とす。
少し冷たい物言いだったかしら…
でも、本当の気持ちなのだから包み隠しても仕方の無いこと。
すぐにこの意味を理解して、適度な距離を取ってくれるようになるだろう。
…………………………………と、思っていたのだけど。
「僕はそうは思いません!!!」
立ち上がる剣さん。
「……………はっ?」
戸惑う私。
『ガサガサッ』
揺れ動く観葉植物(※剣さんの心)。
おかしな婚約者、剣さんは、私の手を取りニッコリ笑った。
「愛が生まれるかどうかは相性ですからね。それは置いといて、僕は君と仲良くなりたいです!!!君がなんと言おうと!」
握られた手のひらが、じんじんと熱くなっていく。
これは彼の熱か、それとも私の熱なのか。
そんなことの答えを出すより先に私は
とにかくとても動揺した。