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後悔探しの旅  作者: 石狩亮
2/10

確信の時

学校からちょっと車を走らせる。

まだ寒い風が吹くのに、俺ものりちゃんも車の窓は全開だ。

のりちゃんは俺の車のグローブボックスをガサガサと物色しては、お目当てのCDを見つけたらしく、オーディオに勝手に突っ込んで音楽を堪能してる。

俺は外の景色をぼーっと見ながら、車をゆっくり走らせていた。

目的地はここから150キロほど離れた山の中の旅館街、到着目標時間は午後7時。

急がなくても時間はまだまだある。

高校時代に毎日通った駅をすぎるあたりで、のりちゃんがテンション高く言ってきた。


「飲み物買いに行こー」


俺は車を駅の近くのコンビニに止める。

車から降りて、のりちゃんは勢いよくコンビニに入っていった。

俺は周りの景色を少し見る。

高校のときは毎日のように来たこのコンビニは、あの頃から何も変わることなく今も営業してる。

ここから見える駅の入り口も、タクシー乗り場に立つ大きな松の木も、本当に何も変わらない。


「なんだかなぁ」


ボソッとつぶやいて、俺はコンビニに入った。


見慣れた景色に見慣れた店員、レジに立つ白髪のおばあちゃんは今日も元気そうだった。

おばあちゃんに声をかけるかどうか悩んだが、決心して俺は声をかける


「よっ、おばちゃん」

おばあちゃんは俺の声にピクッと反応して、じーっと顔を見つめてくる。

「久しぶりっ」

俺がそう言うと同時に。おばあちゃんは「わぁぁぁ」と声を出した。

「まこっちゃんかぃ?」

「分かってなかったよな今」

いやいやと手を振りながら、おばあちゃんはそれでも驚いたような顔でほえぇなんて声を出している。

「ちょっと見ない間に、ずいぶん立派になっちゃってぇ〜。去年卒業したばかりなのにねぇ」

おばあちゃんはずっと驚いた様子で、俺も俺でなんだかやりにくい。

「元気そうで良かったわよぉ〜。卒業以来来てくれないじゃない」

「地元はここじゃねぇし」

「馬鹿なこと言うんじゃないよぉ、さっき入ってきた子、のりちゃんでしょう?あの子今でも時々来てくれるのよ〜?」

俺はへぇ〜と言いながら、レジの横にある新聞に目をやった。

「一年顔見ないと、わからないものねぇ」

おばあちゃんはしみじみした顔で言いながら、俺のタバコの銘柄を取り出して勝手にレジに通す。

俺は新聞を手に取りながら「そんなもんだよ」と相槌を打った。


「ホントになんかちょっと変わったよねぇ〜コイツ」

のりちゃんが手にコーヒー牛乳とメロンパンを持ってレジにやってきた。

「ほら見て、新聞とか読んじゃってさぁ〜、1年ありゃ何があるか分かんないもんだよね〜」なんて言いながら、のりちゃんはおばあちゃんに商品を差し出す。

「会計俺じゃねーかテメー」

サラッとやったつもりだろうが、のりちゃんはありゃ、なんて言いながら笑っている。

「稲岡くんもたまに来てくれるんだけどねぇ、まこっちゃんとおんなじで、久しぶりに会ったときは分からなかったのよぉ〜。」

「え、優希も来るん?」

俺とのりちゃんが声を揃えるように言うと、おばあちゃんは話を続けた。

「まぁ、まこっちゃんほど変わってはなかったけどね」

「そんなに老けたって言いてぇのか?」

のりちゃんがケラケラ笑ってる。


おばあちゃんがレジを打ち終わって、俺はのりちゃんに財布を渡す。

「払っといて」

「どこ行くんだよ?」

「トイレ」

俺はトイレに向かって歩き出す。


トイレに向かう途中の雑誌コーナーに目を向けて、俺は一瞬立ち止まる。

俺の家にも置いてある雑誌があって、思わず手にとった。

複雑な気持ちになりながら、すぐに雑誌を棚に戻して、俺はトイレに入る。


鏡の前に立って、俺は自分の顔を見る。

鏡をしばらく見て、深くため息をついた。

「何なんだよこれ…」

毎日見ている自分の顔は、老けたのかどうかも分からない。

おばあちゃんは俺が誰だか一瞬わからず、のりちゃんは俺を変わったと言った。

変な感情になりながら、俺は水道で顔をゴシゴシと洗う。

そんなことしたって何にもならないのは分かっているのに、俺はひたすら顔を洗った。

もう一度鏡を見る。

なんてことない、いつもの俺だ。

俺はそう言い聞かせて、トイレを出た。


さっき通った雑誌コーナーでもう一度立ち止まって、さっき手にとった雑誌をもう一度手に取る。

車関係の雑誌で、表紙の写真に写る車の横には、その世界では有名な男が笑顔で写っている。

見飽きるほど見た雑誌のページをパラパラとめくる。

そして、もっとも見たページに目を通して、フッと笑った。

「こりゃ全然違うわ…」

思わず笑えてきた。

20人ほどのグループで取材を受け、写真を撮ったときの1ページ。

尊敬する先輩、互いを高め合う仲間たちと写った写真を見て、これまでにない変な感情が俺の心の中を渦巻いていく。

じっと写真を見つめる。

見飽きた写真なのに、じっと見つめる。

仲間たちの紹介文に目を通して、さらに笑いがこみ上げてきた。


「何笑ってんの?」

急に声をかけられて、俺はビクッと体が反応した。

のりちゃんがコーヒー牛乳を飲みながら、雑誌を覗いてきた。

「これあんたのチームじゃん?あんた写ってんの?」

俺は雑誌を勢いよく閉じた。

「見てんのに閉じることねーじゃんか!」

「もーわかったよ!はやくいこうや!」

「まだいいじゃん!さっきの写真、REVで撮った写真でしょ?」

「いーや違うね」

「何そのウソ」

俺は雑誌を棚に戻して、のりちゃんの背中を押して出口に向かう。

おばあちゃんにまた来るよと伝えて、俺はのりちゃんを押して店を出た。

「なんで?いいじゃん見たいもん。REVって書いてあったじゃん、あーる、いー、ぶい〜〜って」

のりちゃんはコーヒー牛乳のストローを噛みながらちょっと不機嫌そうに言った。

俺は何か気の利いたことが言えないものかと考えていたが、のりちゃんはさらに「見せれない理由でもあんの?!」と癇癪起こし気味。

「うちはほら、名門だから一応。あーゆー真似っ子とかハッタリ野郎みたいなのも増えてきてんの。見ても意味ねーの」

のりちゃんはその言葉でほ〜と言うと、車に乗り込んだ。

「なに?ハッタリって、パクリ?」

「そんなもんだっ」


俺も車に乗り込んでエンジンをかける。

コンビニから車を走らせて、俺はまた外の景色を見る。

のりちゃんはメロンパンを頬張って「へもはぁ〜」と言い出した。

「口の中のもの飲み込んでから喋れや」

俺はノリちゃんを見ることもなくそう言った。

のりちゃんはしばらく口をむにむにさせたあと、もう一度話し始める。


「でもさぁ〜、おばあちゃんも言ってたけど、稲岡も確かにちょっと変わったかもねぇ、言われてみれば」

俺は優希の顔は今日見ていないから分からなかった。そもそも来てたのかどうかも。


「優希って来てたっけ今日?」

「来てたよ。端の方にいたけど」

「そんなに変わってんのかあいつ?」

「あんたと稲岡は変わったよねぇ。あと森本もちょっと」

「ほ〜ん、俺にはわからん」

「でも特にあんたと稲岡は変わったよ。あんた知らないだろうけど、二人が来たとき女子連中ちょっとした騒ぎになってたんだから」

「んっだそりゃ?」

「あれ誰あれ誰〜?ってなっててさ、めちゃイケメンじゃな〜い?って」

「テメーの顔はテメーで一番分かってる、そんなもん言われる顔してねぇことくらいはな」

「自分の変化に気付いてなさすぎるんじゃないのあんたが」

「あー、そーかもな」


俺はアクセルを踏み込んだ。

けたたましい音をたてて加速する俺の車は、車内で会話するのも、音楽を聞くのも困難なほどうるさい。


俺は自分の思いをかき消すかのように、アクセルを踏んでいく。

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