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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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097 遺跡探索02――『ふふん。マスターに会う理由が出来て良かったじゃない』

 朝日が昇り始めるまで掘り続け、砂に埋まっていたグラスホッパー号をなんとか掘り起こし、ある程度までパンドラの充電が終わるのを待ち、その頃になってふらりと戻ってきたセラフの人形とともにウォーミへの帰路につく。

『ふふん。遺跡の探索をすればいいのに』

 どうやらセラフは俺に遺跡を探索させたいようだ。だが……。

『セラフ知っているか?』

『何を?』

 俺は大きなため息を吐き出す。


『人は食事をして、睡眠を取らないと死ぬんだよ』

『ふふん。それが?』

 俺は思わず、小憎たらしい笑みを浮かべているセラフの人形を殴りつけそうになるが、すんでのところで我慢する。

『昨日から働き詰めで非常に眠い。ここまで時間がかかるとは思っていなかったから、昨日の朝からまともに食事をしていない。つまり、俺はとても空腹ってことだ』

『空腹なのは群体を無理矢理動かしてエネルギーを消費したからでしょ』

 俺はさらに何か言いたそうなセラフを黙らせるようにセラフの人形を睨み付ける。セラフ自身を睨み付けたいが、そのためには右目を見るための鏡が必要だ。


『寝る』

 俺は助手席の背もたれに倒れ込み、そのまま目を閉じる。オフィスにはめられそうになった時にそれを防いでくれたことに関しては感謝しているが、セラフはセラフだ。油断してはいけない。セラフは俺の体を乗っ取ろうとしている。それを忘れては駄目だろう。


 俺が目を覚ました頃にはウォーミの街に着いていた。すぐに食事を済ませ、その足で宿へ。体力を回復させるため、すぐに眠る。オフィスに顔を出すのは明日で大丈夫だろう。


 翌日、財布が羽根よりも軽くなるほど飯を食べ、オフィスへ向かう。


 グラスホッパー号をセラフの人形に見張らせ、オフィスの窓口へと向かう。

「ようこそ、ウォーミのオフィスへ」

 窓口で待っていたのは知らない顔の女だった。

「この間の受付嬢と違うようだが……」

「ああ、せんぱ……カスミなら退職しました」

 退職した?


『セラフ、ここもレイクタウンと同じで、コイツらは人造人間(アンドロイド)なんだろう?』

『当たり前のことを聞くとか馬鹿なの?』

 オフィスの仕組み上、ノルンの端末以外が組織の中に入り込むことはない、か。

『となると退職というのは……』

『破棄したってことでしょ。こちらに攻撃を仕掛けてきたのもあの端末だったようだし、どうもバグがあったようだから。バグを処理するよりは切り捨てる方が早いって思ったんでしょ』

 なるほどな。


『ん? こちらに攻撃してきたのは、あの窓口の女だったのか。オフィスとは関係なかったのか?』

『ふふん。どうも、あの端末、こちらに執着していたようだったから。領域を分け与えて自意識を育てるのも善し悪しね。今回みたいにバグが生じることもあるんだから』

 執着、か。あの窓口の女とはこのウォーミに来て、初めて会ったはずだ――なのに、執着? 分からない。


「それで依頼の報酬だが」

 窓口の女が首を傾げる。

「報酬……ですか?」

「ああ。報酬だ。依頼にあった賞金首は倒した。その報酬が出ているはずだろう?」

「申し訳ありません。依頼内容は把握しています。ですが、その依頼(オーダー)は破棄されています」

 破棄?


「どういうことだ?」

「言葉通りの意味です」

「何故、破棄になったか教えてくれ」

 勝負の話ばかりで報酬の話をしていなかった。まさか、だから、か。だからなのか。

「依頼にあった賞金首が討伐されたからです。依頼の達成が不可能になったため依頼は破棄されました」

 俺は思わずよろめく。視界がぐにゃあっと曲がりそうになる。そんな話があるか。


 あの受付の女との話を思い出す。報酬の話をしなかった理由が、これ、か。俺は賞金首の討伐依頼を受けたつもりで、ターケスとの勝負の依頼を受けていた訳か。


「悪いが上の者を、ここのマスターを呼んでくれないか。話がしたい」

 窓口の女は首を横に振る。

「あなたはマスターと会う資格がありません。あなたにはクロウズのランクが足りません」

 俺は思わず窓口のカウンターを叩く。周囲のクロウズたちが驚いたように俺の方を見る。


「どうすれば、すぐにマスターに会える?」

 俺の言葉を聞いた窓口の女が顎に手を当て、考え込む。

「地道にランクを上げられるか、大きな依頼を達成されるのが……」

「大きな依頼は何がある?」

「あ、はい。それだと教授の護衛をして遺跡の探索が……あ、でも、これはすでに依頼を受けられている方がいますね」

「分かった。そいつと話をする。何処で会える? 遺跡に行けば良いのか?」

「あ、いえ。教授と依頼を受けたクロウズの方ならもうすぐこちらに来られると思います」

「分かった。それまで待つ」

 お金はカツカツだ。今日の食事代にも困るような状況だ。


「ちなみに賞金首の賞金はどうなっている?」

「少々お待ちください」

 窓口の女がカウンターの向こうで何か機械を操作している。嫌な予感しかしない。


「賞金首、爆散無情のナパームマンタ、賞金額12,000コイルですね。現在はマスターの権限で賞金がプールされている状態です」

 保留中、ということか。

「倒したのは俺だろう?」

「はい。ガム様が討伐されたことになっています」

「なのに賞金が出ないのか?」

「どうも二重契約になっているようで、現在調査中です」

 調査中、ね。二重契約というのがどういうことか分からないが、ターケスと俺の両方に討伐表示が出たことが問題になっているのかもしれない。


 だとしても、だ。


『このオフィスという組織は俺を苛々させるのが得意なようだ』

『ふふん。マスターに会う理由が出来て良かったじゃない』

『良くない。お前の思惑通りになっているようで余計に腹立たしい』

 俺は肩を竦める。


 そして、その場でしばらく待っていると教授とやらと護衛のクロウズがやってくる。

「お前は!」

 それはどちらの言葉だったのか。俺か、奴か。


 教授は、俺がこのウォーミまで護衛した眼鏡だった。そして、その護衛役は――ターケスだった。

 昨日の今日でまた会うとは思わなかった。


 ああ、よく考えたら、このウォーミで実力のあるクロウズはコイツくらいだったか。そりゃあ、そうなるか。


 まったく、ろくな事がない。

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― 新着の感想 ―
[一言] レイクタウンのオフィスがマシに思えるほどの杜撰さだなぁ つーかシンギュラリティに目覚めた個体をいつまでも受付業務につかせてるんじゃないよ それのせいで起こった面倒事みたいなとこもあるからな、…
[良い点] ロクでもないな! [一言] あー……ガム君への絡み方が、なんか私怨に見えると思ったら……ガレット兄の想いは通じてたのか。 眼鏡の人は結構な大物だった? しかし災難続きなガム君、厄落としで…
[良い点] ガムちゃんよ、縁起が悪いから別の街に行こうぜー
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