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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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096 遺跡探索01――『ふふん。頑張って掘り起こしたら』

「勝負は俺の勝ちということだろう」

 俺はオフィスの職員の方を向いて肩を竦める。だが、オフィスの職員は首を横に振る。

「その話に関しては私は関与しません。私はクロウズの皆さんを迎えに来ただけです」

「どういうことだ? オフィスの職員が勝負の判定をするという話だったろう?」

「その件については窓口にて確認してください」

 さらに問い詰めようとしてもオフィス職員は首を横に振るだけだった。


 担当が違うということか? しかし、先ほどまではこの職員が判定するような行動を取っていたはずだ。あの何者からの指示があってから方針が変わったのか? 仕方ない。戻ってから確認してみよう。


 俺はもう一度肩を竦め、ターケスの方を見る。


「おい、どういうことだ。おい!」

 ターケスは何度も同じ言葉を繰り返し騒いでいる。だが、オフィスの職員は取り合おうとしない。


「おー、そのナイフ(・・・)一本であれを倒したのか。どう見ても量産品の安物なのに……凄いな!」

 何処かで聞いた声の男がクロウズの輪の中から現れ、馴れ馴れしく俺の肩に腕を回してくる。

「ああ。俺の腕が良いから、これくらいは余裕だ」

 俺は左手に握ったままだったナイフを腰に結びつけた鞘に納める。賞金首やビーストを人狼化して倒した時に、どうやって倒したかを疑われないよう買っておいたナイフだが、早速、役に立ったようだ。


 俺の肩に腕を回している男はこちらを見て片目を閉じる。分かっていると言わんばかりだ。俺が奥の手を持っていて隠したいという意図を汲んでナイフのことを言ってくれたのかもしれない。


「あんたすげえな!」

「こりゃあすげぇぜ」

「銃を使わずにアレをやるとか武人か」

「すげぇ」

 先ほどまでターケスを褒め称えていたクロウズたちが俺を褒め始める。なんという変わり身の早さだろうか。


「お、おい! お前ら! 俺の味方じゃないのか! 仲間だろう!」

 オフィス職員にすがりついていたターケスがクロウズたちの行動に気付き、威圧するように大きく叫ぶ。だが、クロウズたちは呆れたような顔でそれを見ていた。


「何言ってんだ」

「俺たちはオフィスの依頼で集まっただけだ」

「そうだぜ。その依頼も盾を構えるだけで千コイルだって言うからよぉ」

「え? お前、千なの? 俺、五百だぜ?」

「だな。盾を貸してくれるってことだったが、こんな安物で、割に合わねえぜ」

「いや、なんで千? 俺の話聞いている?」

「簡単な仕事だって聞いたのに、これが千ぽっちじゃあよ」

「え? お前も千なの? なんで、俺、五百?」

「千コイルの仕事じゃあねえな! まぁ、とにかく俺はお前に雇われた訳じゃねえ。これはオフィスからの依頼だ」

 クロウズたちの言葉を聞いたターケスは信じられないものを見たという顔をしている。


「こいつはクルマを盗んだんだぞ! 盗んだんだ!」

 ターケスが叫ぶ。

「何言ってンだ」

「それを言っているのはターケス、あんただけだよな?」

「こいつが勝負に勝った、あんたが負けた。なら正しいのはこっちじゃねえかよ」

「おい、ターケス。お前、こいつのクルマが欲しくて因縁を付けたんじゃねえか?」

 クロウズたちはそうだと言わんばかりに頷いている。ターケスは絶望したような顔をしている。


「お、おい。急になんだよ。俺たち仲間だろ! 同じクロウズ……団の仲間だろ!」

 情けない顔で叫んでいるターケスを見ていると、少しだけ同情したくなる気持ちが沸いてくる。クロウズたちが手のひらを返し過ぎだろう。だが、そんな俺に隣の男が他には聞こえないような声でささやく。

「ガム、あんたが気にすることはないさ。あんたが勝った。あんたが正しい。それだけさ。それにあいつは少々、思い上がっていた。自分は何もしてもいい、自分が正しいってな。今回のことは良い経験になるだろうさ」

 強い者が正しい、か。


 セラフが居なければ、拳を握りしめ弱々しくうなだれているターケスの場所に立っていたのは俺だったかもしれない。


 いや、違う。違うな。


 俺なら戦っただろう。


 強い者が正しい。それを分からせていたはずだ。


 この場で暴れ出さないターケスは、俺より少しは理知的なのかもしれない。認められないと襲いかかってきてもおかしくないのに、それを必死に我慢しているのだから。


 ……。


 勝負は終わりだ。


 俺の勝ちだ。


 これからターケスがウォーミでどういった扱いになるか分からないが、俺には関係のないことだ。


 それに、だ。


 俺は隣に立っている男――シュガーを見る。熟練のクロウズである、このシュガーが居るなら悪いようにはならないだろう。


『帰るか』

『ふーん、どうやって?』

 セラフの馬鹿にしたような声が頭の中に響く。

『グラスホッパー号を出してくれ』

『どうやって?』

 俺はセラフの言葉に肩を竦める。役に立ったことを褒めて欲しいのだろうか。


『ふーん。パンドラが切れて、あのデカブツが落下した衝撃で砂に埋まったグラスホッパー号をどうやって?』


 俺は賞金首の巨大なエイを見る。


「こちらの賞金首は後でオフィスが回収に参ります」

 オフィス職員はそれだけ言うとクルマに戻っていった。

「おう、俺たちも帰るぜ」

 クロウズたちもそのクルマに乗る。


 ターケスもこちらを睨み、そのまま単車に跨がって走って行った。


 砂漠にぽつんと残された俺。


 隣に居るのは頭が吹き飛んだ賞金首のエイだけだ。


『おいおい、マジかよ』

『ふふん。頑張って掘り起こしたら』

『お前の人形は?』

『遺跡』

 セラフはそれだけ言うと静かになった。


 人形を使って遺跡で何かしているのかもしれない。


 俺は改めて遺跡があるであろう方向を見る。


 遺跡、か。旧時代の文明が眠っている場所らしいが、そこらの廃墟と何が違うのだろうか。


『格好つけてないで、早く掘り起こしたらぁ?』

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― 新着の感想 ―
[一言] >『格好つけてないで、早く掘り起こしたらぁ?』 真理だw
[一言] オフィスが信用出来たならエイの回収のついでに…と出来るんだけどな
[良い点] さ、最終的に勝てばよかろうなのだー! [一言] 手のひらクルクルも世の習いなのだった。 半値の奴はどんまいw さて、遺跡に何があるんだろねー(目線逸らし)
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