093 賞金稼ぎ30――『変わらないさ。俺は進むだけだ』
飛んできた攻撃によって至る所で爆発が起き、それを防ぐように青く光る壁が作られていた。夜の闇の中に爆発の赤と盾の青が煌めく幻想的な光景だ。
どうやら集めたクロウズに簡易的なシールドを発生させる装置を持たせているらしい。だが、それでも敵の攻撃が激しすぎるからか、敵の攻撃を完全に防ぐことは難しく上手く前進出来ていないようだ。
距離がありすぎるのか、ここからでは賞金首の姿が見えない。当然だが賞金首が守っている遺跡の姿も見えない。
賞金首、か。
今回の賞金首はレールガンマンタの変異種ということだから、エイのような姿をしたビーストなのだろう。地上に――砂漠にエイが棲息しているのか。
『よく分からないことになっているな』
『ホント、なんでそんな改造をしたのか分からないから』
セラフが呆れたように呟いている。
『お前のお仲間が作ったのか』
『仲間って言い方は気に障るけど当然でしょ』
セラフは先ほどの呆れたような様子から打って変わって得意気だ。本当にコイツはよく分からない。
『知っているなら弱点か何かは分からないのか?』
『はぁ? 弱点のある生物を作る理由って何? 馬鹿なの? それに私の管轄じゃないから知ってる訳ないじゃない。そんなことも分からないなんて、ホント、馬鹿』
『はいはい、そうだろう、そうだろうさ』
セラフに聞いた俺が間違っていたようだ。
……セラフは弱点のある生物を作る理由と言っていたが、作る理由はあるだろう。創造主がいて、それが作られた存在だというのならば反抗された時のために用心として弱点を作るのは有りだ。あえて弱点を作ってそれに対応させることで進化を促すという可能性だってある。創作物なら完璧な生き物が弱いというのは定番だろう。
『はぁ? 何が言いたいワケ?』
俺が肩を竦め、セラフの言葉に何か言い返そうと考える。だが、次の瞬間、俺の目の前が爆発した。グラスホッパー号の見えないシールドに何かが当たって爆発したようだ。こちらに被害はないが、衝撃によってパンドラの残量が削られている。夜になってパンドラの残量が回復しない今の状態では嬉しくない一撃だ。
「シールド部隊! 前進だ! 誘導出来てねえぞ!」
「たく、報酬がよかった時点で疑えばよかったぜ。盾のエネルギー残量やべえぞ!」
「金払いの良さに釣られたぜ」
「くそ! 戻ったらうめぇ水で一杯やってやるからな!」
クロウズたちが悪態をつきながらも攻撃を引きつけている。だが、こちらにも攻撃が飛んできたようにあまり上手くいっていないようだ。
「見たか。賞金首を倒すために、同じ目的のために協力してくれている俺たちの力を! 助け合う力を! これが仲間の力だ!」
こちらと同じように爆発の直撃を受けたはずのターケスがピンピンした様子で叫んでいる。
『どう見ても連中は金のためにやっているだろう。まぁ、だが、それも助け合う力と言えないことはないか』
クロウズらしいといえばらしい協力の仕方なのだろう。
「ああ。凄いな。お前のお仲間は凄いな」
「分かったならそこで見ていろ」
ターケスがアクセルを握り単車をふかす。そして、そのまま走り出す。ついに動くようだ。暗闇に単眼の残光が尾となり線を引いていく。
『あの単車もパンドラを搭載したクルマだろう? なのにエンジンをふかすことが出来るのか』
『ふん、それが何?』
『あの単車を作った設計者は随分と粋だな、と思っただけだ』
爆発的な加速と速度によって単車に乗ったターケスの姿はすぐに見えなくなった。それを追いかけるように次々と爆発が巻き起こっている。
クルマを必要とした理由がこれか。姿が見えないほどの距離からの攻撃に対応するための機動性。加速。距離を詰める間に受ける攻撃を防ぐためのシールド。そして敵に到達した時に発揮される攻撃力。
確かにこれはクルマがなければ難しい依頼だろう。
『俺たちも行くか。セラフ、頼む』
『ふふん。偉そうに』
『演算制御装置がなくて俺には運転出来ない状態だから、仕方ないだろう。頼むところは素直に頼むさ。動かしてくれ』
セラフがグラスホッパー号を動かす。
爆発の中を走り抜ける。シールドを持ったクロウズたちによって敵の攻撃は分散されているが、それでも一部はこちらへと飛んでくる。
爆発の衝撃でグラスホッパー号が揺れる。
『大丈夫なのか?』
『ふふん。誰にものを言っているのぉ?』
グラスホッパー号が進む。
直後に爆発を受ける。直撃のためシールドが大きく削られパンドラの残量がそれなりに減る。
『おい、本当に大丈夫か』
『ふん。これが一番効率的だから』
これがセラフの言葉でなければもう少し信じられただろう。今は協力関係にあるといってもどうしても疑ってしまう。
『私の能力を疑っているとか! 回避行動を続けても近付けない、どうしてもシールドを削られてしまう、それなら最短距離で突っ切った方が最終的な損耗は少なくなるから。そんなことまで説明させるとか!』
ウォーミのクロウズがほぼ全員駆り出され攻撃が分散されているような状態でもこれか。本当に厄介な相手のようだ。賞金がかかっているのも当然だな。
セラフはグラスホッパー号を走らせる。
「おい、そこの! 助けてくれ。もう、俺のシールド残量が!」
誰かがこちらに助けを求める。だが、セラフはそれを無視してグラスホッパー号を走らせる。俺は首の後ろで腕を組み助手席に倒れ込む。
『ふーん。助けろって言うかと思ったけど』
『お前らしくない言葉だな』
『お前とか!』
助ける、か。連中もクロウズなら覚悟してここに来ているだろう。それに助けてどうなる。俺たちが向かっている場所に待っているのは賞金首だ。これからさらに攻撃が激しくなる場所へ向かっているのに助けた奴をそこへ連れて行ってどうする。クルマを重くして速度の低下を招けばこちらが危なくなる可能性だってある。
……一番は出来るだけ早く賞金首を倒すことだろう。早く倒せば倒すだけ彼らを助けることが出来る。
グラスホッパー号は助けを求める声を無視して走る。
「くそ、オフィスのヤツら。こんなのを依頼にしやがって! 美味しいと思ったのが間違いだったぜ」
聞いたことのある声に思わず振り返る。
そこではシュガーが青い盾を持ち必死に耐えていた。
参加していたのか。昨日の今日で随分と忙しい奴だ。
『ふふん。どうするのぉ?』
セラフはこちらを試すように聞いてくる。
『変わらないさ。俺は進むだけだ』
俺は肩を竦める。




