087 賞金稼ぎ24――『セラフ、お前が用意したその話、乗ってやるよ』
お待たせしました。再開します。
「俺を呼んでいると聞いたが?」
レイクタウンにあるオフィス。そこの窓口のカウンターに腕を乗せ、俺を待っていた髪の長い受付の女性を軽く睨み付ける。ここのオフィスで起こったことを思えばこれくらいはしても許されるだろう。
人類の敵である機械と戦う組織――オフィス。だが、オフィスは、機械どもの親玉である人工知能マザーノルンの手先だった。そして、そのマザーノルンの目的は自分の力を拡張するためにパンドラと呼ばれる装置を集めること。
人は機械と戦う為にパンドラが搭載されたクルマで戦う。組織に所属して機械と戦う。それがパンドラを集めるための罠だと知らずに戦う。
俺が手に入れたクルマを狙われたのも、パンドラを狙われたからだろう。そして、俺のクルマ――グラスホッパー号の元々の持ち主も、パンドラを狙われ、オフィスにはめられて命を落としたのだろう。罠を食い破れるほどの実力が無かった――そう言ってしまえばそれまでだが、そんな風に、簡単に割り切れないのが人間だ。
『ふふん。お前が今更人間を気取るの?』
俺の右目に移植されたマザーノルンの娘――セラフ。マザーノルンに反旗を翻すつもりらしいが、やっていることは子どものように喚き散らすことだけだ。
『俺が人狼化する力を持っていることを言いたいのか? 俺は俺の意思がある限り人だ』
『ふん。ナノマシーンの群体でしかないお前が? 意思なんて幻ね』
『人工知能でしかないお前に言われたくは無いな』
『はぁ!?』
セラフの人形が俺の前へと体を乗り出しこちらを睨み付ける。
「あ、あのう。セラフ様、少し横に避けていただいても……」
そんなセラフの人形を前に、窓口のおしとやかそうな女性が困ったような顔をしている。
「言われてるぞ」
俺はセラフが操る人形を押しのけ、窓口の女性の方へと向き直る。
『はぁ!?』
まだ何か言いたそうなセラフを無視して窓口の女性を睨む。
「それで何の用だ?」
俺を襲った連中から回収したパンドラを搭載したヨロイ、武装、全てがオフィスに奪われている。手に入った報酬もわずかばかりのお金だけだ。それだけでも俺を苛つかせてくれるが、その上、オフィスは人類の敵の手先なのだから、俺のオフィスに対する態度が悪くなるのも仕方ないだろう。
「ガムさんに報酬が出ています」
「報酬? 何の報酬だ? 小銭ならすでに貰ったはずだ」
窓口のおしとやかそうな女性が作り物の微笑みを浮かべ首を横に振る。
「ブードラクィーンの討伐報酬です」
「どういうことだ? 貰ったお金以外に何かあるのか?」
「ご説明します。ビーストの部位が武器として活用出来る場合があります。クロウズの皆さんが倒されたビーストを私どもで回収し、実験、加工、そして実用可能であれば報酬としてお渡しします。今回、ガムさんが倒されたブードラクィーンの部位の一部がオーガニックウェポンになりました」
「オーガニックウェポン? それは?」
「生体武器――オーガニックウェポンです。ガムさんは、今日はクルマでご来店されていますか?」
俺は頷く。
「それは良かったです。ブードラクィーンから作られた今回のオーガニックウェポンはパンドラからのエネルギー供給で火炎を放射するクルマ用の武器となりました。私どもは、このオーガニックウェポンをHi-OKIGUNと名付けました」
「ヒオキ、グン?」
窓口の女性は首を横に振る。
「Hi-OKIGUNです。アルファベットは分かりますか? エイチ、アイ、ハイフン、オー……」
俺はそこで手を振り、目の前の女性の言葉を止める。
「それで、その武器が報酬というのはどういうことだ?」
「言葉通りの意味です」
「タダでくれると?」
窓口の女性が微笑み頷く。
「私どもはクロウズの皆さんにオーガニックウェポンを実際に使ってもらい、その実験データが取れれば……それで充分です。もし不要であればこちらで預かり、他のクロウズの方へと売り渡します。そのコイルはガムさんのものになりますよ。ガムさん、どうしますか?」
武器、か。しかもクルマ用だ。
俺のグラスホッパー号には、まだ機銃しか装備されていない。正直、火力不足だ。武装が増えるのは有り難い。だが、武装が二つになると、今度はパンドラの容量が心許なくなってくる。
……。
いや、それでも売り払うよりは貰っておいた方が良いだろう。
「分かった。貰っておく」
窓口の女性が微笑み頭を下げる。そして、顔を上げ、もう一度微笑む。だが目が笑っていない。
「それとガムさんに依頼が入っています。ウォーミ周辺での討伐依頼です」
俺はそこでセラフの人形を見る。
『セラフ、お前が手を回したのか』
『ふふん』
セラフはいつものようにこちらを馬鹿にしたような笑い声を響かせるだけだ。
「内容は?」
「賞金首の討伐です。クルマが必要になる内容とのことです。クルマを持っていて手の空いているクロウズの方となると……今、このレイクタウンには、ガムさんしか見つかりませんでした。引き受けていただけますか? 詳しい内容に関してはウォーミのオフィスで説明いたします」
俺は肩を竦め、首を横に振る。
「それだけの情報で引き受けるとは言えない。だが、ウォーミには行ってみたいと思っていた。向こうで話を聞いてみよう」
良いだろう。
『セラフ、お前が用意したその話、乗ってやるよ』
『ふふん』




