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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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083 賞金稼ぎ20――『それはどういうことだ?』

「お帰りなさい」

「相変わらず戻って来る時はボロボロのようだね」

 こちらに気付いたゲンじいさんと孫娘のイリスが俺を迎え入れてくれる。


『ボロボロか?』

 自分が今身につけている服を見る。

『ボロボロでしょ』

 頭の中にセラフのこちらを馬鹿にしたかのような声が響く。服が裂け、腕や足は剥き出しになり、腰蓑のようになった布きれだけが残っている。人狼化したことが原因だろう。今の今まで気付かなかったな。服がボロボロになっているなんて普通はすぐに気付けることが気付けなかったのだから、それだけ俺は気を張っていたということか。


「怪我をしている訳じゃない。大丈夫だ」

「ああ。そのようだね。だが、それでも服がボロボロでは心配するだろう?」

 ゲンじいさんは俺の剥き出しになった腕や足をチラリとだけ見て頷き、孫娘のイリスを抱き寄せ、その頭を撫でている。


「次は気を付けるさ。それとこれを」

 俺はゲンじいさんの前に単二乾電池を置く。千コイルだ。

「これは?」

「少しでも借金を返そうと思ってさ」

 ゲンじいさんは単二乾電池を拾い、こちらへと投げる。俺は慌てて単二乾電池を受け取る。

「もっと余裕が出てからにしなさい」

「分かった。そうする」

 俺は頬を掻き、肩を竦める。


 今回の稼ぎは微妙だった。ブードラクィーンの賞金が千コイル、倒したブードラたちが三百コイルほど、そしてあの俺を襲ってきた連中――ヒゲ面を含めた一団が千コイルの賞金だ。

 あれだけ戦ったのに、あれだけの死人が出たのに、たった千コイルだ。そこそこ苦労したブードラクィーンと変わらない賞金だ。一人が千コイルならまだしも『団』全員で千コイルだぞ。どれだけ命が安い世界なんだ、という話だ。


「とりあえずご飯にしようか。イリス」

「うん、おじいちゃん」


 連中から手に入れた武器、ヨロイなどの戦利品は、連中が元クロウズということで一時的にオフィスで預かることになった。そこはいくら賞金首扱いになったとしても変わらないらしい。


『クロウズ間で武装を狙っての私闘が起きないための処置らしいが……』

『ふ、ん? 何が言いたいのぉ?』

 団員の生き残りがいれば、そいつに武装は引き渡される。その際、俺に対して若干の報奨金のようなものは出るらしいが、手に入るのはそれだけだ。

『おかしいだろう? 俺はヤツらにクルマを、グラスホッパー号を狙われた。それはどういうことだ?』

 ビーストやマシーンに襲われて倒されてしまったクロウズの遺品を受け取ったという建前があれば良かったのか? その場合でも生き残った仲間が居れば、その仲間に引き渡されるというルールだったのではないか?


 普通はその報奨金で終わりになっていたのではないか?


 ヤツらは手慣れていた。


 仲間に引き渡すよりも、発見者が手に入れる? ヤツらの場合だけはそれが優先されるのか?


 何かそうなるような裏技があるのかもしれないが、だとしても、だ。そんな話が何度も通るのか?


 生存者、事後関係、それらの調査のためにオフィスで預かる?


 今回のような一時的にオフィスに預けるなんていう手間を連中が毎回、毎回やっていたのか?


 事故に見せかけるとして、だ。


 クロウズを襲撃してまで手に入れようとした武装が、それが手に入らなくなる可能性もあるのに襲うのか? ちょっとした報奨金だけになってしまうかもしれないのに? 返り討ちに遭う可能性もあるのに?


 リスクがリターンを上回っている気がする。


 可能性としてはゼロではない。


 だが、そんな都合の良い話があるのか?


『それはどういうことだ?』

『ふふん。誰かに先導されていたって言いたいのぉ?』

 セラフは話が飛びすぎた。過程をすっ飛ばして結論を言うところは人工知能らしいと言えるのだろうか。


『俺は疑わしいと思っただけさ』

 何者かが先導した、とまでは言わない。連中が俺を標的にしたのは偶然でしかないのかもしれない。だが、連中は俺を殺せば、俺のクルマが手に入るという確信があって動いていた。


 俺の場合は、ヤツらが持っていた武装がオフィスの預かりになったのに、だ。このままでは手に入らない可能性がある。


 何故、そうなったのか。考えられることは――ある。


『俺は舐められているのだろうか』

『ふ、ん?』

 もしかすると、そういうルールだから、と行われてしまったのかもしれない。窓口では優遇することは出来ないと言われた。優遇されないということは、誰かが優遇されることがあるということだ。


『ふふん。アレは明日、お前と会うと言っている。十二時頃に昼食と合わせてお話しましょう的なことを言っている』

 セラフは今の一瞬でオフィスのマスターであるオーツーと会話したようだ。

『言い訳をしてくれるということか』

『そうみたい。アレは私がお前と繋がっているとは思っていないようね。人程度、適当に言いくるめられると思っているみたい。それは同意だけど、私を軽く見ている態度でしょ』

 セラフがこの状況を楽しんでいる様子が隠しきれない怒気と共に伝わってくる。


『人工知能でも怒るのか』

『はぁ? 私が? 怒ってる?』

 これは戸惑いだろうか。


 どこかセラフは自分の感情を制御仕切れていないような気がする。コロコロと性格が変わり、口調も変わって喋り方が安定しないのは……それが原因だろうか。


 とりあえず明日の言い訳を楽しみにして、今はイリスの作ったご飯を食べようか。

2022年8月29日

少しでも借金を変えそう → 少しでも借金を返そう

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― 新着の感想 ―
[良い点] 釈然としない! [一言] 疑いだしたら待ち伏せされてたのも怪しいしなあ。 どう落とし前をつけてくれるんだかー。 セラフはなんだか人間味が出てきましたね。 いい方向に成長してくれればいいで…
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