082 賞金稼ぎ19――「なるほどなぁ。勉強になったよ」
「もう容赦しねぇぜ」
ヒゲ面が乗っているロボットが周囲の味方を吹き飛ばしながら巨大なハンマーを振るう。ヤツとの距離はまだまだあるはずなのに、ここまで届くほどの――こちらの皮膚をひりつかせるほどの圧を感じる。
「ひ、ひぃ、団長のアレだ。逃げろ」
ヒゲ面の乗っているロボットの周辺にいた連中が慌てて逃げ出す。
『味方に容赦ないな。こちらも容赦しないけどな』
俺は奪った突撃銃の引き金を引き続けながら駆ける。
「ちょこまかと、小賢しい餓鬼が! このヨロイの力を見やがれ!」
ヒゲ面が乗っているロボットが足から火花を飛ばし滑るように走る。俺は距離を取るように駆け続け、弾が切れたら身近な相手から銃を奪い取り攻撃を続ける。だが、その全てがヒゲ面のロボットの左手に発生している見えないシールドによって防がれてしまっていた。
ヨロイ、か。
街でヨロイとやらは見かけなかった。ゲンじいのところもそうだが、クルマの整備場はあってもヨロイとやらのものはなかった。ヨロイはあまり流行っていないのだろう。コイツとの戦い方は……。
「生身でヨロイに敵う訳がねえだろうが!」
一瞬にしてヒゲ面が乗っているロボットに距離を詰められ、薙ぎ払われた巨大なハンマーが目の前に迫る。俺はとっさに身を屈め、それを回避する。風圧だけで髪が逆立ち、皮膚が震える。
俺は後ろを、停車しているグラスホッパー号を、そこに乗っているはずのセラフの人形を――見る。
『セラフ、余計な真似を』
『ふふん。助かったんじゃないのぉ?』
『お前に借りを作りたくなかっただけだ……いや、助かる』
俺は目の前のヒゲ面が乗った人型ロボット――ヨロイに集中する。
「せめてクルマに乗っていればなぁ! お大事なクルマはパンドラ切れか?」
ただ力任せに振り回されているだけの巨大なハンマーによって周囲の連中が晩ご飯のおかずにもならなさそうな無残な姿へと変わっていく。
「味方を巻き込みすぎだろ」
「この程度で巻き込まれるヤツが悪いのさ。生きてりゃあ、サイバー化するなり、再生させるなり、何とかなるだろうがよ。クルマが手に入りゃあ、コイツらのマイナス分なんて帳消しだぜ」
後で倒そうと思っていたたんこぶ野郎の姿も見えなくなっている。
やれやれ。
あいつには格の違いを思い知らせてやろうと思っていたのに、それが出来なくなった。
『なんてとても残念なことだ』
『あ、そ』
銃を撃ち、応戦しながら巨大なハンマーを回避する。いつの間にか戦場には俺とヒゲ面だけになっていた。
「それで、そんなに味方を巻き込みながら何を待っているんだ?」
「あ? 何を言ってやがる。時間稼ぎか? ヨロイはなぁ、クルマと違って動く程度なら殆どパンドラを消費しねぇ。お前が粘っても無駄なんだよ! お前の体力が尽きて動けなくなった時が最後だ!」
ヒゲ面の男が楽しそうに笑いながら叫ぶ。
『なるほどな』
『何が?』
『だから、パンドラを消費する銃火器ではなくハンマーという近接武器だったんだな』
『だから、何が?』
『人型で物を持てる。手があるヨロイとやらには銃火器よりもそちらの方が相性が良いのだろう』
『はぁ? 今更?』
セラフのこちらを馬鹿にしたよう声が頭の中に響く。
「狙撃を待っているなら無駄だぞ」
俺は巨大なハンマーを避けながら親指でグラスホッパー号を指差す。
「あ? 餓鬼、お前は何を……おい、クルマに乗っていた女は何処に行きやがった!」
ヒゲ面の男の言葉に返答するように銃弾が飛んでくる。それは俺ではなく、ヒゲ面を狙った一撃だった。
「あ、んだと。あいつら狙いが」
次々と銃弾が撃ち込まれる。ヒゲ面の乗っているヨロイの見えない壁によって銃撃は防がれているようだが、その衝撃までは消しきれないようだ。銃弾が見えない壁に当たる度に、その巨体が揺れている。
「あ、が、が、んだと!」
離れた場所にあった三つの赤い光点は消えている。俺の戦いを見学していたセラフが暇つぶしに倒したのだろう。そして、そいつらから奪った狙撃銃で攻撃している。
『セラフ』
『はぁ、何?』
『俺はもう一つ納得したことがあったんだよ』
『はぁ、それが?』
『このヒゲ面が乗っているヨロイとやらよりもクルマの方が重宝されている理由』
俺はハンマーの軌道を見切り、一気に踏み込む。
「な、んだと!」
コイツの腕の可動域は極端に狭い。パワーは凄いのだろうが、出来ることが――可動出来る範囲が限られている以上、動きを見切るのは簡単だ。
そのまま背後に回り込み、体に取り付き、駆け上がる。
「馬鹿な!」
ヒゲ面の男が叫ぶ。
『銃火器より近接武器の方が相性が良い、か。至近距離で戦うってことは、シールドの内側に入られてしまう可能性が高くなるってことだよな? チグハグ過ぎるだろう』
『それはこれがランクの低い雑魚ヨロイだからでしょ』
『そうなのか』
ヨロイの肩部分からヒゲ面の男に銃を突きつける。
「なぁ、一つ聞いて良いか?」
「餓鬼が」
「どうして、どいつもこいつもさ、お前らみたいな連中は、同じような……チンピラのような、それこそ悪党みたいな喋り方をするんだ?」
「は! お上品な喋り方だと舐められるだろうが。クソが、喧嘩を売る相手を間違えたぜ。クルマを持っているだけはあったということかよ」
「なるほどなぁ。勉強になったよ」
俺は引き金を引く。




