081 賞金稼ぎ18――『コイツらは馬鹿なのか』
「容赦しねぇだと。餓鬼が。まるでお前の方が上みたいな言い草じゃねえか!」
ヒゲ面の男が叫ぶ。
「分かってるじゃないか」
どちらが上でどちらが下か。思い知らせる必要があるだろう。
「ふふん。私はここで見学しているから」
セラフの人形の言葉を聞きながらクルマを飛び降りる。と、同時に右目の視界に赤い光点が表示された。
『見学じゃなかったのか?』
『だから見やすいようにしたんでしょ』
セラフの気まぐれかもしれないが、これで少し楽になる。髭面の男は団員の数を二十四だと教えてくれた。赤い光点を数える。
『なるほどな』
「おいおい、そっちの姉ちゃんに見捨てられたのか。今更クルマを降りても許してやらねえぜ、おい」
ヒゲ面の男はこちらを煽るような台詞を喋ってくれている。コイツは雑魚だが油断して良い相手ではなさそうだ。
連中の武装はまちまちだ。さすがに見ただけで分かるほど凶暴そうな銃火器を持ったヤツは居ない。だが、そこそこ使えそうな武器を持っているヤツも居れば、どうやって戦うつもりなのか心配になるような武装程度のヤツも居る。
一番ヤバそうなのはヒゲ面か。
ヤツが乗り込んでいるのは骨格が剥き出しとなった四角い胴体に、掴むことしか出来なさそうな三本指のマニピュレーターと膝を折り曲げることくらいしか出来そうにない足がくっついた人型だ。頭が無く、その部分にヒゲ面が納まっている。人の二倍ほど背丈のシロモノだ。
『工事現場で作業でも行っているのが似合ってそうなロボットだな』
『パンドラを積んでいるだけの最低ランクなんでしょ』
さて、何処から攻める?
ヒゲ面は一番最後だ。たんこぶ野郎も後回しだ。一番武装の弱そうなところから狙って数を減らしていくことが大事だろう。セオリーだな。
俺は身を屈め一気に走り出す。
連中との距離を詰めるために走る。俺が会話を打ち切っていきなり攻撃を仕掛けてくるとは思っていないだろう。その油断した隙を突く。
俺は武装の弱そうなヤツを狙って走り――その方向を変える。
次の瞬間、先ほどまで俺が走っていた場所に銃弾が放たれていた。側面、俺の死角から不意を突くような一撃。次々と銃弾が飛んでくる。それらを俺は足を滑らせるように捌き、躱していく。
「な! 躱しただと!」
ヒゲ面が驚いている。コイツは三下のような言動で俺の行動を支配しようとしていた。
二十四人? 確かに俺の視界に入っている連中の数は二十四だ。だが、ここより少し離れた場所に三つほどの赤い点が光っている。狙撃担当を用意している。
このヒゲ面、俺を侮っているようで油断していない。俺がそこまで読み切ると思っていたのか用心のためだったのか分からないが、セオリーを理解し、それを逆手に取ろうとしている。
俺がしっかりと相手の人数を数えるだろうことを、油断した隙を突くために会話の途中で動くであろうこと、距離を詰めようとするであろうこと、武装がショボく弱いヤツが集まっている場所を狙うであろうことを、それらを読んで配置している。
動かねぇよ。
「クソ餓鬼がぁ! 撃て、撃て、撃ち殺せ!」
俺はあえて武装の厚いところへと突っ込む。
「死ね! 燃えろ」
連中の一人が手に持った武器――火炎放射器から炎を吹き上がらせ、薙ぎ払う。飛んでくる銃弾。
ヤツらの視界、視角は把握している。
「な、消えた!」
目の前の男が瞬きした一瞬を狙い、視界から消えるように動く。
「馬鹿、横だ!」
俺を囲んでいるといっても同士討ちにならないよう攻撃出来る場所、数は限られている。そこにだけ注意すれば良い。
そして、連中に辿り着く。
火炎放射器を持った男の顎下から上へと掌底を放つ。男の体が十センチほど浮き上がり、手にぐしゃりと何かを潰したような感触が伝わる。
そのまま散弾銃を持った男の背後へと回り込み、銃を握った腕を掴む。
「腕が、動かねぇ!」
相手の腱と筋を指で押さえる。少ない力で相手の動きを封じることが出来るコツというものがある。ここを抑えつけると身動きが取れなくなるとか、そういった類いの便利な技術だ。コイツを狙ったのは腕に防具を何も身につけていなかったからだな。
男を無理矢理仲間の方へ振り返らせ、散弾銃の引き金を引かせる。至近距離で散弾銃を浴びた男が肉片をまき散らせた。
何度も引き金を引く。
周囲の連中が逃げるように離れていく。
「そいつごと撃ち殺せ!」
「ひ! 止めてくれ」
距離を取った連中から俺を狙い銃弾が飛んでくる。俺は散弾銃を持った男を盾にしてそれを防ぐ。銃弾で人の体を貫通させるのは意外と簡単で、意外と難しい。威力を残したままとなると――大きな口径の弾丸、それこそライフル弾のようなものでもなければ、難しいだろう。しかも、コイツはボディアーマーを身につけている。盾として有能だ。
散弾銃の弾切れまで盾として活用し、使い道がなくなったところで投げ捨てる。そのまま連中の塊に突っ込む。身近な相手の拳銃を握った手を掴み、そのまま銃身を顎下へと突き上げ、引き金を引かせる。その隣の男に足払いをして、転がし、倒れた男の顔面を踏み抜く。
再び連中の懐に入ったことで攻撃が出来なくなっている。連中の馬鹿みたいにさらけ出しているアホ面に掌底を突き当て、突撃銃を奪い、適当に銃弾をばらまく。
コイツらが武装した集団で良かった。俺に武器を運んでくれている。コイツらが、もし、マシーンやビーストの集団だったならば……俺は死んでいたかもしれない。命の危険を感じていただろう。
だが、コイツらは人並みの技量しか持っていない、ただの武装した集団でしかない。
「クソ餓鬼がぁ! おい、俺の武器を持ってこい!」
ヒゲ面の男が叫ぶ。
そして運ばれてくるのは三人がかりの男でなんとか持ち上げている巨大なハンマーだ。片方が大きく、後頭部が尖っている巨大なハンマー。その一撃から放たれる力は恐ろしいものになるだろう。
『コイツらは馬鹿なのか』
『雑魚だから』
俺はえっちらおっちらと巨大なハンマーをのんきに運んでいる三人の馬鹿を撃ち殺す。ハンマーはヒゲ面に行き渡ることなく、地面に転がる。
戦場でのんきに武器を運んでいる馬鹿がいるとは思わなかったよ。
「クソがあぁぁ!」
ヒゲ面が叫ぶ。
俺はそのヒゲ面に銃弾をたたき込む。だが、ヤツの乗っているロボットが少し左腕を持ち上げただけで、銃弾は見えない壁にぶち当たって弾かれた。
「餓鬼が、調子に乗るなよ」
ヒゲ面のロボットが膝を深く折り曲げ、そのまま伸ばし跳躍する。俺はヒゲ面を狙い何度も銃弾を放つ。だが、その全てが見えない壁によって阻まれる。
今、ヒゲ面を狙うのは無駄だ。ヒゲ面から他の連中に狙いを変え、敵の数を減らすことを優先する。
『セラフ、今のは?』
『はぁ? 馬鹿なの? パンドラを搭載しているんだからシールドに決まってるでしょ』
決まっているのか。
クルマと同じようなことが出来るとなると少々厄介だな。ヤツのパンドラの残量が切れるまで攻撃を続けるしかないのか。まぁ、ここには武器が豊富だ。弾切れの心配はしなくても良いだろう。
何とかなるだろう。
『はぁ? ヨロイの左手を見てないのぉ? 馬鹿なの?』
『ん? 左手がどうしたんだ?』
セラフは相変わらず勿体ぶったことしか言わない。
『アレは、クルマと違って覆うような形でのシールドは作れないの。あのタイプは左手部分がシールドの発生場所になっているってことも分からないのぉ?』
なるほど。文字通り盾のような活用になっているのか。となれば、背面を取れば攻撃は通じるのか。
一応、参考にしておこう。
「クソ餓鬼、殺すぞ」
青筋を立て叫んでいるヒゲ面のロボットの手には巨大なハンマーが握られていた。回収されてしまったか。
「喧嘩を売ってきたのはそちらだろう?」
怒りたいのはこちらだぜ。




