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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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077 賞金稼ぎ14――『本当にろくでもない世界だ』

 森の中に入った瞬間、体にぶわっとゾクゾクするような寒気が走る。

『なんだ、この悪寒は』

『森の中は温度が2℃ほど低いようね』

 急激な気温の変化による寒気? いや、違う。この感覚は……。


『セラフ、敵だ』


 静かだった森の中に、突如、無数の羽音が響き、その集団が現れる。それは嘴のように長い口吻を持った体長10センチほどの羽根付きの虫――大きな蚊たちだった。


 蚊の集団が森の奥からこちらへと迫っている。


『セラフ、気付かなかったのか?』

 敵を感知出来るセラフが気付かなかったとは思いにくい。となると、わざと無視していたのか?

『金属反応無し、熱源反応もなし、手を抜いていたけど……やるじゃない』

『どういうことだ?』

『見れば?』

 右目に映る景色が変わる。


 緑と青の色で世界が覆われている。いや、よく見れば、うっすらとした黄色も存在する。俺は自分の体を見る。自分の体は殆どが赤く、服などが緑や青で表示されていた。


 もしかして熱分布を色で表示している――サーモグラフィーか!


 迫る大きな蚊の集団は青かった。運動して熱エネルギーが発生しているはずなのに色が変わっていない。どうやっている? あり得るのか、そんなことが。

『ふふふん。そういう変化を遂げたということでしょ』

 セラフは何処か楽しそうだ。


 セラフとそんなことを話している間にも蚊の集団はこちらに迫っている。

『どうするつもりだ?』

 ブマットとやらが本当に効果があるのか試してみるか? いや、しかし、予想以上に数が多い。効果が無かった時に身を守れないかもしれない。まさか、数十? いや、数百が塊となって飛んでくるとは思っていなかった。


 逃げるか?


 森に入ったばかりだ。今ならまだすぐに森の外に出られるだろう。


『決まってる』

 セラフの声が頭の中に響く。


 次の瞬間、グラスホッパー号に搭載された機銃が動いていた。火花を飛ばし、放たれた無数の銃弾が迫る蚊を撃ち抜いていく。次々と蚊が落ちていく。効いている。

『もう、お前一人でいいんじゃないか』

 蚊が次々と撃ち落とされていく。俺は頭の後ろで手を組み、助手席にもたれかかろうとし、その動きを止める。


 数が多い。


 そう、多すぎる。


 撃ち落とした後から次の蚊が迫っている。殲滅速度よりも蚊の数が多いッ!


 いくつかの蚊がグラスホッパー号へと迫る。そして、見えない壁に弾かれる。それでも蚊たちは諦めず、見えない壁に取り付き、その長く伸びた口吻を突き立てる。その瞬間、グラスホッパー号に搭載された液晶パネルの数字が『1』減少する。


 俺は荷台に置いた箱から液体ブマットを取りだし、見えない壁に取り付いている蚊に吹きかける。


 効果は覿面(てきめん)だった。


 蚊が足をピクピクと震わせ、仰向けに倒れ、そのまま動かなくなっている。

『本当に効果があるとは、やるじゃないか』

 俺は見えない壁に張り付いている蚊たちに液体をかけていく。


 そして……。


 機銃の掃射と液体ブマットの力によって周辺に動いている蚊の姿は見えなくなった。


『とりあえず最初の歓迎は乗り越えたか』

 見えない壁を攻撃されるとパンドラの残量が減るようだ。クルマが動くだけでも減り、機銃の掃射、敵からの攻撃でも減る。


 表示されているパンドラの残量は60を切っている。ゆっくりと数値は回復しているようだが、回復速度よりも消耗速度の方が上回っている。


 トビオ少年がクルマがなければ無理だと言っていたのも分かる。これは無理だ。クルマのシールドと機銃の殲滅力がなければ、俺も一瞬でやられていただろう。


 絨毯のようになって転がっている蚊の集団を見る。蚊の死骸は、一部、赤く色が戻っているところもあるが、殆どが青く、熱源が消えたままになっていた。撃ち込んだ銃弾の熱すら包み込んでいるようだ。


 セラフの人形がグラスホッパー号から飛び降り、蚊の死骸の一つを持ち上げる。

『羽から、こちらの感知を誤魔化す粉末を散布している? 奥の個体は感知出来たから、コイツらは偵察用に特化した個体?』

『コイツらは偵察用の先遣隊でしかないということか? 虫にそんな知能があるとは思えないな』

『ふふん。人形に、これ(クルマ)に、と使う領域が増えたから手を抜いていたけど、雑魚にここまでコケにされたら許せないでしょ』

 セラフの独り言のような声が頭の中に響く。セラフは随分と楽しそうだ。


『この雑魚、突っ込み、殲滅するから』

 セラフの人形が運転席に飛び乗り、グラスホッパー号を動かす。

『あまり無茶はするなよ』

『ふふん。誰にものを言っているのぉ?』

『はいはい』


 グラスホッパー号が森の木々の間を走り抜けていく。速度を落とさず、それどころか加速して森の中を疾走する。


 そして、すぐに次の集団にぶち当たる。


 先ほどの蚊よりも一回り大きな蚊。その蚊たちがこちらを待ち構えるよう一列に並んでいる。


 そして、その蚊の集団が火を噴いた。一瞬にして炎の壁が生まれる。


『森を燃やすつもりか!』


 グラスホッパー号が加速し、炎の壁を突き抜ける。そして、そのまま機銃を掃射する。俺も液体ブマットを蚊の集団に浴びせていく。


 効果は覿面だ。


『この殺虫剤はかなり効果的だな』

 あのトビオ少年に蚊に効く成分をなんとかするような科学知識があったとは思えなかったのだが、人は見かけによらないということだろうか。

『ふふん。下水の水を詰めただけらしいから』

 は?

『おいおい、それって……』

 それだけ下水の水がヤバいってことかよ。いや、それは、だ。蚊だけじゃなく別の生き物にも効果があるってことじゃないのか?


 思わず液体ブマットを投げ出しそうになる。


『本当にろくでもない世界だ』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大量だ! [一言] 大漁だー。熱学迷彩な進化すごい。 今回はセラフサーチよりガム君のシックスセンスセンサーのが良好でしたねー。 えー、液体ブマットが下水なら固形の原材料は……いや止そう。…
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