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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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074 賞金稼ぎ11――「ごもっともなことで」

 クルマ用の機銃が手に入るまで三日かかる。そして、その暇を埋めるように偶然(・・)手に入ったブードラというビースト討伐の情報。


 となれば……。


「ゲンじい、三日間、ここでゴロゴロさせて貰っても良いだろうか?」

「構わんよ。その方がイリスも喜ぶだろう」

 俺は……機銃が手に入るのを待つことにした。


『ふーん』

『どうした?』

『ふふん。少し意外だと思っただけ』

 どうやらセラフは少し驚いているようだ。意外、か。


『確かに三日間という時間を有意義に使うためブードラとやらを狩りに行くのは悪くないだろう。だが、逆に言えば、たった(・・・)三日待つだけで武器が手に入って安全度は上がる。忘れてはいけないが、今の俺は武器を持っていない。無駄に命をかける必要はない』

『ふふふん。その三日の間に、そのビーストとやらが討伐されてしまうことは考えないの?』

『その時はその時だ。そのブードラ退治でしか稼げないということはないだろう? それが駄目なら他で稼げば良いだけだ。視野を狭くする必要はないだろう』

『ふーん。随分と慎重』

 意外にもセラフは俺の言葉に感心しているようだった。こいつが人に対して――感心するなんて明日は砂漠に雨でも降りそうだ。

『はぁ!?』


 慎重……。


 そうだ。俺は慎重な性格だったはずだ。俺は記憶を失い、自分の性格というものがどうだったのか掴みきれなくなっている。


 だが、俺は慎重だった……はずだ。そういう性格だったはずだ。


 そして三日後。


「はい、お弁当」

 俺はゲンじいさんの孫娘のイリスから弁当を受け取る。

「ああ、いつも助かる」

「はい、これ」

 イリスはセラフの人形の方にも弁当を渡そうとしている。

「それに弁当は必要無い」

「え? でも」

 イリスは困ったようにこてんと小さく首を傾げる。


『必要か?』

『ふん。内部機関で燃やすことくらいは出来るから』

 つまり、不要ということだ。


「分かった。これの分も俺が預かっておく」

 俺はイリスからセラフの人形の分の弁当も預かりグラスホッパー号に載せる。


「頼まれていた機銃は載せたがね、本当に良かったのかね」

「助かる。行ってくる……いや、行ってきます」

 俺はゲンじいさんに頭を下げ、グラスホッパー号に乗る。運転席にはすでにセラフの人形が座っていた。このグラスホッパー号に搭載されている演算制御装置では、俺はまともに動かすことが出来ないらしい。だが、セラフならそれが可能になる。セラフにクルマの運転という命に関わる部分を任せる不安はあるが、こればかりは仕方ない。武器を優先したのは自分の判断だ。

「ああ。必ず生きて帰ってきなさい。クルマに何かあったら見てあげよう」

「ガム君、またね」

 こちらに手を振るイリスと、その孫娘の肩に手を置き大切そうに守っているゲンじいさん。俺はもう一度小さく頭を下げる。


『ふん。それで何処に行くのぉ?』

『まずはオフィスだ。そのブードラとやらの情報を確かめる』


 クルマに搭載されたパンドラが動き、車輪を回す。


 グラスホッパー号が動く。


 セラフがクルマをオフィスに横付けする。

『セラフ、お前の人形にグラスホッパー号を守らせてくれ』

『ふん。命令するな』

 俺はクルマを降りる。セラフの人形は動かない。不満そうだがグラスホッパー号を守ってはくれるようだ。


 俺はオフィスの中へ入り、そのまま受付へと向かう。オフィスの中には十人ほどの数の人間がたむろしている。それが多いのか少ないのか分からないが、コイツらもクロウズなのだろう。


 俺は空いている窓口に向かう。

「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」

 髪の長いおしとやかそうな女性だ。

「情報が欲しい」

「どういった情報ですか?」

 窓口の女性が聞き返してくる。

「その前に聞いても良いだろうか? 俺の子どものような姿を見て侮ったり、市民IDを確認しようとしたり、そういったことをしようとするそぶりが見えないが、どうしてだろうか?」

「ここだけの話ですが、オフィスの入り口にはセンサーがあります。このオフィスに入られた時、そのセンサーを使ってタグの確認をしています」

 窓口の女性が教えてくれる。俺はすぐに振り返り、入り口の方を見る。そこにセンサーがあるようには見えないが、どうやらそういうことらしい。


 と、その時だった。


「こ、コイルを出せぇぇぇ!」

 銃を持った男が、このオフィスに乗り込んできた。

「ここにコイルがあることは、わ……」

 男が手にした銃の引き金に指をかける。


 次の瞬間、窓口にはシャッターが降り、砲身が生まれていた。そして銃口が火を噴く。銃を持った男は一瞬にして物言わぬ肉塊と化した。何処からか業務用の掃除機のようなくるくると回る円筒形の機械が現れ、入り口に放置されたゴミと真っ赤な染みを片付けていく。


 窓口のシャッターが戻る。

「聞きたい情報は以上でしょうか?」

 たむろっていたクロウズたちが反応するよりも早い行動だ。俺も一瞬のこと過ぎて反応が出来なかった。

「あ、いや、知りたい情報はブードラについてだ」

 俺は窓口の女性の方へ振り返る。


「ブードラはブの仲間のビーストです。主にここより南西の森に棲息していますね。体長は二十センチほど、人の血を吸う性質を持っています。通常のブとは違い、火炎放射機能を備えていることからドラゴンのドラが名前にくっついています」

「それを討伐して報酬は貰えるのか?」

「はい。討伐指定ビーストになっています。賞金額は一つ8コイル。倒した数はこちらで自動的に加算します。素材として使えるところもないのでビーストの死骸を持ち帰る必要はありません」


 なるほど。


 一匹が8コイル、か。多いのか少ないのか分からない。どうやってカウントしているのか分からないが死骸を持ち帰られなくても良いのは楽だ。


「情報料とかは取らないのか?」

「不要です。ここはクロウズのためのオフィスです。より多くの危険なマシーンやビーストが討伐されることを願っています」

「分かった。それなら美味しい狩り場とかは?」

「場所の情報や賞金首の現在分かっている情報を公開することは出来ますが、それらの判断はご自身でお願いします」

 俺は肩を竦める。


「ごもっともなことで」

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