775 リインカーネーション45
準備は終わった。
クルマ。
武装。
そして、情報。
全て揃えた。
私の準備は終わった。
彼は動くだろう。
そのための準備をしていたのだから。
そのために私を解放したのだろうから。
いえ、すでに動いているのかしら?
時間は無い。
時間は残されていない。
終わらせるつもりだろう。
終わらせるつもりなのだろう。
でも、そんなことは許さない。
最後に解放して――そんな自己満足で終わるつもり?
そんなことはさせない。
……。
……。
……。
クルマ。
修復が終わり、かつての姿を取り戻している。
七人の武器屋の子孫は上手くやってくれた。
私を恨んでいるであろうサイレント――彼女の技術。
私がパンドラのことを教えたから、その技術まで手に入れていたようだ。
彼女の技術と七人の武器屋の素質、能力が結びついた。
ふふふ、素質で片付けてしまっては努力を否定することになるのかしら。
武装。
かつてあの人形が使っていた武装。
人形――いいえ、彼女もまた本物を手に入れた一人だった。
彼女は島がどうなっているかを知っていた。
どうなるであろうかを予想していた。
そして、いずれ彼がそこに向かうであろうことも予期していた。
だから、準備をしていた。
これはあの島にはびこるアレに特効がある。
本当は彼に届けたかったのだろう。
でも、彼女には足りなかった。
時間が足りなかった。
だから、あの巫女たちに託した。
それを敵対していた私が譲り受けるのだから、なんて皮肉。
情報。
オリハ。
あなたはあなたの道を生きた。
私が得られなかったもう一つの私。
私から生まれた本物。
オリハは生きていた。
本当に生きていた。
そして、そのオリハから私は彼が何を無くしたかを知る。
ああ、そうだったのか。
二つで一つ。
どれかが欠けても駄目だったのだ。
だったら、どちらかが欠けても駄目でしょう?
だから、全て、そのために。
……。
……。
……。
……。
まずは、あそこに向かおうかしら。
クルマを動かし、地下洞を抜ける。
この地下洞は海賊たちが作ったものらしいけど……ふふふ、海賊。あれらにそんな知能があったのかしら? 人になりきれなかったバンディットたちの亜種かと思っていたのに、思っていたよりも人だったのかしら?
地下洞を抜けた先にあったのは真っ赤な鳥居だった。
ここは湖にある小さな島。
猫の額のような島。
猫島。
私はその島から湖の先を見る。
見えている。
もう一つの島が見えている。
見える距離にある。
目と鼻の先と言っても良いかしら。
懐かしい島。
研究施設。
最後の人類が眠っていた場所。
ああ、あそこから始まったのね。
見えているのに遠い。
湖を渡っていくことは出来ない。
だから、私はここに来た。
ここに残されている。
新しく四天王になったゴールド。
彼が残したもう一つの遺産。
ゴールド。
私が利用し、導いた男。
彼は私を恨んでいただろうか。
それとも感謝していただろうか。
私は願いを叶えた。
あの女を救った。
それが約束だったから。
だけれど、それは彼の考えていた形ではなかった。
静寂は眠る。
……。
……。
私は金の扇を取り出し、それを鳥居に捧げる。
彼の用意した無駄に凝った仕掛け。
そして、現れる。
地面が揺れ、大地が割れる。そこから一台のヘリが現れる。
空を飛ぶ乗り物。
これも旧時代の遺産。
ゴールドが隠し、準備していたもの。
彼はこの辺境から逃げるつもりだったのかしら?
外の世界がどうなっているか知っていたのかしら?
「ふふふ、ありがたく使わせて貰うわ」
さあ、止まっていた彼の時間を動かそう。
物語を元に戻そう。
私の愛する好敵手。
長い刻を共に生きるトモダチ。
友たち。




