770 リインカーネーション40
辿り……着いた。
そう私は辿り着いた。
かつての私から今の私へ。
思い出した。
そう、私は思い出した。
思い出して分からないことがある。
思い出したからこそ分からないことがある。
何故、彼は私を助けたのか。
その理由が分からない。
私は彼に執着していた。
彼は本物だったのだから。
だけれど、彼は違ったはずだ。
彼には違ったはずだ。
彼にとって私はただの障害でしかなかったはずだ。
だのに、何故?
何故、私を解放したの?
オリハ。
彼によって名前を与えられたもう一人の私。
そのオリハは彼のために私を夢に沈め、封印した。
そう封印だ。
私は死なない。
私が滅びることはない。
だから、夢に沈めたのだろう。
なのに解放した。
なのに、彼は私を解放した。
私は分体を確認する。
当たり前だが、残っていない。
私が最後の一人だ。
……。
……。
……残っていない?
そうか。
オリハ、あの子も……。
そういうことか。
彼は待っていたのだろうか。
そこまでして私を助けてくれた理由はなんだろう?
……。
分からない。
もう、私と彼しか残っていないからだろうか。
あの時代を、昔を知っているのは私だけだから。
もう私だけだから。
そんな理由で解放したの?
彼は……もうすり切れてしまっているのかもしれない。
かつての私がそうだったように彼もすり切れてしまっているのかもしれない。
長く生きるということ。
全てが過去になる感覚。
仲が良かった人も、嫌っていた人も、何もかもが過去になる。
過去になり、無くなってしまったような感覚。
自分を知っている人が誰も居なくなってしまった、あの感覚。
無。
そう、無だ。
それを分かるのは同じ私だけだ。
だから、私は彼を本物だと思った。
仲間だと思った。
同じだと思った。
すり切れた。
すり切れた感覚。
何度も何度も何度も。
潰し、潰れ、ああ、そうか。
ふふふ。
ああ、そういうことか。
彼が続けていた理由。
最後に縋ったのは……。
でも、それだと私を解放した理由に繋がらない。
ただの同情?
思惑が何であれ、理由が何であれ、借りは借り。
借りは返さないといけないよね。
……。
彼の目的はなんだろう?
ああ、そういうことか。
彼がすり切れてしまった理由はそれもあるのだろうね。
なるほど、なるほど。
であれば、だね。
準備をするべきだろうね。
うん、そうそう。
私は準備をするべきだろう。
準備をしてあげないと駄目だろう。
だけれど、私は彼以上に縁が無い。
仲間ももう生きていない。
遊びも終わった。
ああ、そうか。
……。
……仲間?
私は彼らを仲間だと思っていたのか。
遊びだと思いながら、ただ生き残っただけの連中でしかないと思いながらも仲間だと思っていたのだ。
私も大概、邪悪ではあるが、彼らは同じくらい最悪な連中だった。悪い奴らだった。でも、仲間だった。
そういうことか。
そういうことだったんだ。
私たちが邪悪だったのは旧時代からの生き残り組だから。
人間だったから。
ふふふ、そういうことかしら。
そんなこと今更再確認しても仕方ないのにね。
もう過去になってしまった。
何も言えない。
何か伝えることも出来ない。
ふふふ。
ええ、そうね。
今はそんなことを思い出している場合ではない。
そうね。
やりましょう。
彼の縁を使ってでも準備をしよう。
受けた借りを返そう。
責任を取れば良いというものではないのにね。
ふふふ。
それが同情から来たものだったとしても協力しよう。
協力しよう。
これも私の役目。
私は彼の敵のまま。
いつまでもそうなんだろう。
でも、今回くらいは協力しても良いよね。
すり切れた彼が元に戻るように。
無くしたものを取り戻せるように。
ふふふ。
これも私の役目。
私のやるべきこと。
良いね。
これからのため。
未来のため。
ああ、そういうことだったんだ。
繋がる。
繋がった。
私の過去は彼ほど面白いものではなかっただろうけれど、でも、繋がった。
至った。
私は知っているから。
すり切れそうになった辛さを知っているから。
だから、もう一度。




