768 リインカーネーション38
思い出してきた。
ああ、思い出してきた。
彼と会ったのはあの時だった。
本当に謎だった。
何故、彼のような存在が生まれたのか。
イレギュラーとしか言いようが無い。
ああ、それを言えば私も同じなのかしら。
ふふふ。
そうだった。
そうでした。
そうでしょう。
ああ、そうだった。
彼とは何度か戦った。
そう……戦ったはず。
力を確かめるため。
力を高めさせるため。
思い出そう。
さらに、深く、思い出そう。
今の私に繋げるために思い出そう。
……。
あれは……そう、ガロウという名前の女との戦いの時だった。
あの女が巨大な蛇の姿に変わった。
「あらあら、これはどういうこと?」
私はこんなものを仕込んだ覚えがない。
私のナノマシーンが共鳴してエラーを起こしている。
四天王の他の誰か?
いや、違うはず。
違う。
あの三人にこんなことが出来るとは思えない。
集めた技術者や研究者の中にこんなことが出来る人物が居たかしら?
四天王の誰かが命令してやらせた?
何のために?
今更、何のために?
ナノマシーン――その大本はノルンの研究施設だろう。時代が変わっても行なわれ続けた実験。その被験者。私は知っている。ナノマシーンの改良は続けられていたのだから、再生能力に特化した個体が作られたことも知っている。私を真似て作られたのも知っている。そういった実験施設のいくつかを私自身が壊してきたのだから知っている。でも、あんな力は無かったはずだ。
独自に変異……したとは思えない。
誰かの手が、加えられたはず。
あそこで改造され、それでも生き延びたのに。
本当に面白いことをやってくれる。
問いたださなければいけない。
これを誰が計画して、実行したのか、を。
だけれど、その前にやることをやってしまおう。
「はぁ」
私はため息を吐く。
せっかく生き延びたのに、助かったのに、それを無駄にするなんて。
それでも後始末をしよう。
私のものを、私が納まる場所を奪うというなら、正さなければならない。
生き延びたことに満足して、静かに暮らしていれば良かったものを。
思い知らせ、後悔させよう。
私がいかに邪悪で、いかに心が狭いかを。
「はい、これ、大事なものでしょう?」
ガロウという女の前に生首が入った容器を置く。
生き返らせるためだったんでしょう?
無駄だということを思い知らせてやりましょう。
だけれど、そう、だけれど、いつか、望みを叶えてあげましょう。
いつか、お前の大事なものと一つにしてあげましょう。
「改めて自己紹介をしましょう!」
私は目の前の少年へと向き直る。
今、大事なのは彼だ。
謎の少年。
彼には目的が必要だ。
今の私を、私の分かりやすい立場を伝えよう。
「ふふ、私はミメラスプレンデンス。このタマシズメの湖がある東部地域の支配を担当しているアクシード四天王の一人よ」
私は少年に名乗る。
アクシード四天王。
お遊びがこんなにも役に立つなんて!
ふふふ、後は後始末も必要ね。
足元に転がっているガロウという女のナノマシーンに命令する。
今の時代に作られたものでも問題ない。私は研究を把握している。実際に叩き潰し、その目で見ているのだから、間違い無い。私は命令の書き換えが出来る。
ガロウという女の体が膨張し、粉となって崩れていく。
私と同じように旧時代の再現をした個体。だとしても、私の前では同じ。
「お前は何者だ?」
目の前の少年が探るような、そして若干の怒りを秘めた目でこちらを見る。
見ている。
私を見ている。
「アクシード四天王の一人って名乗ったのは……聞こえなかったのかしら? ふふふ、割とショックね」
「お前の目的は?」
「それも言ったと思ったのだけれど……それも聞いていなかったのかしら? とてもショックね」
「最初はオリカルクムと名乗り、次はアクシード四天王の一人、ミメラスプレンデンスと名乗っていたな? 目的は喧嘩を売ってきたガロウの粛正か?」
「ええ、その通り。分かっていて聞くなんて、あなたはとても意地悪ね」
「それで目的は?」
「そうね、そうよねぇ。それならあなたの勧誘というのはどうかしら? あなたにつけられた首輪を解放してあげるわ」
首輪。
脳内にインプラントしてあったこともそうだが、彼を支配している何者かが居るようだ。
それは面白くない。
せっかくの本物かもしれないのに。
それではまがい物になってしまう。
本当に自由になった時、どうなるか。
私はそれが見たい。
ああ、それが見たかった。
でも、間違っていた。
私は間違えていた。
思い出した。
思い出してきた。
ああ、そうだった。
そうだったのか。
本年最後の更新になります。次回は年明け1月2日(木)の予定です。
よいお年を。




