762 リインカーネーション’32
乾電池を集め保管する。
私は沢山の乾電池を集め、湖島にあった研究施設に保管した。
乾電池をお金の代わりに使わせる作戦は上手くいった。私たちの組織の活動としては初めて上手くいった事業だろう。上手く行きすぎたと言えるかもしれない。人はそれだけお金というものを欲しており、飢えていた。
乾電池というものが旧時代ではありふれており、旧時代の施設を廻れば大抵、数個は見つかったというのも良かったのかもしれない。数が多く、規格が統一されており、上手く探し出せれば一攫千金も夢ではない。
本当に上手くいった。
私たちの主導によって乾電池はコイルという名前の新しい通貨になった。
いずれは旧時代と同じように端末が主流となり、数値の上下だけになってしまうかもしれない。だが、今はこれで良いだろう。
私は箱の中に詰め込まれた数え切れないほどの乾電池を見る。
これで私は大金持ちだ。
これは先行し主導しているものの特権だろう。
「ふふ、でも、だからどうしたって感じね」
私は小さくため息を吐き、肩を竦める。
コイルが一気に広まった理由。旧時代のような触れない見るだけのデータではなく、目に見え、触れるというのが良かったのかもしれない。数値の上下を楽しむのもそれはそれで悪くないが、実際に触り、それが積み上がっていくのは楽しいものだ。
人はこれを楽しいと思うはずだ。
人は順調に増えている。
「ふふ、私のお仲間のように人もどきと言った方が良いかしら。とても選民的!」
母親役のノルンが造った記憶を転写したクローンだけではなく、しっかりと人の営みでも繁殖し、増えている。
ノルンが人の生殖行為に制限を設けなかったのは意外だった。制限を設けた方が人口調整、思想の制御がしやすくなり、人を管理しやすくなるはずだ。
ノルンが、人を管理し、人をサポートする人工知能なのは変わっていない。それが、自分たちの造り出した『人もどき』だとしても――いや、人もどきだからこそ、自分がやりやすいように出来たはずだ。
「管理しやすくするためのリセットではなかったの?」
何故?
ノルンが――自分たちが手を加えてしまうと、それを人として認められなくなってしまうから?
「そんなの今更じゃない」
好きなように記憶を植え付け、好きな形に人を造り替え、各施設で好き勝手に実験を続けている。そんな人工知能たちが、造る時だけはそのまま? 造った後から調整する? 生殖能力だけはそのまま? そんな無駄をするだろうか。
何か別の――何かの意志が介入している気がする。
だが、私たち以外に本当の人は生き残っていない。
ノルンを従わせることが出来るのは私たちだけのはずだ。
人工知能は人と共にある。
分からない。
何故?
エラー?
分からない。
この件は――現段階では安易な思い込みで答えを出さず保留しておこう。
いずれ、真実が、答えは分かるはずだ。
人工知能から枝分かれした端末エーアイたちは研究施設があった場所に人もどきを集め、集落を作っている。
「都市開発ゲームを楽しんでいるみたい。権力? 支配? 統治? ふふ、人工知能なのに、まるで人みたいことをしている」
自分たちのところに人を集めたのは管理をし易くするためだろう。相変わらず続けている無駄な研究をし易くするためかもしれない。
「ふふ」
私にはどちらでも良い。
仲間たちは人もどきを収集するのに都合が良いと考えている程度だ。
こちらはこちらで人もどきを改造して兵隊にしたり、好き勝手な実験の素材扱いしたりしている。だが、それも全て――根底にあるのは自分たちの再調整を行なうことだろう。
あいつらは自分たちが失敗作だということを知っている。
自覚している。
記憶している。
だから、それを改良しようとしている。
「ふふ、改善かしら」
そのための素材集めだ。
自分たちだけが人で、その他は人ではない人もどき。
なんて傲慢。
私は肩を竦める。
「ああ、それにしても……」
あの道化師のような化粧を施した少年も人もどきを集め、改良している。今、彼の中ではナノマシーンを埋め込んだ身体能力の向上や寿命を延ばす実験が流行っているらしい。
そして、そんな実験体に好き勝手な記憶を上書きして、自分が決めたゴールへと向かわせる遊びをやっている。
記憶の転写。
上書き。
身体能力の強化。
寿命の延長。
死なない体。
なんだか、あの天津老人を思わせる。
だが、天津老人は旧時代の崩壊とともに死んだ。
死んだはずだ。
道化師のような化粧を施した少年にも旧時代の記憶が残っている。
「残っているはず。ふふん、後継者気取りなのかしら?」
ノーマッドの救済は女に傷薬を使用した時にBP回復も回復するアビリティで良いんじゃあないだろうか。全身鎧の救済は装飾品が二個装備出来る――なんていう妄想。




