761 リインカーネーション31
なかなかに面白いことを言う。
失敗作らしく――元々、失敗作だった者たちらしく、面白いことをする。
彼らを見守ろう。
お遊びに付き合おう。
そうしよう。
そうだ。
私は何も考えず、考えた末、そう思い、そう考え――
それから私は彼らのお遊びに付き合ったのだった。
……。
彼らは自分たちが非常に有利な立場に居るということに気付いてなかった。いや、活用出来なかった、が、正しかったのだろうか。
そう、結局、活用出来なかった。
先行している有利。
ノルンは科学者や学者などの中から優れた人材を優先して記憶を転写し、地上へと送っている。
送っていたはず……だ。
優れた?
優れていようが、賢かろうが、少ない人数で何が出来るのだろうか。
少数で何が出来るのだろうか。
今がチャンスなのだ。
世界を自分たちの好きなように創り変えるチャンスなのだ。
「例えば……」
道化師のような化粧を施した少年が大げさな身振りでこちらを見回し、語り出す。
「経済」
道化師のような化粧を施した少年はたっぷりと溜めを作り、その一言を口にする。
ノルンやその分身たちが操る機械や人造人間に邪魔され、私たちの遊びは上手くいっていない。
この四人は――彼らは所詮、失敗作。
色々足りない。
知識が足りない。
行動力が足りない。
手が足りない。
運もない。
無いものばかり。
私たちの有利な点は、彼らが本当の人だということ、先行しているということだけ。
「はっはー、知ってるかい? 旧時代では端末を使ってお金のやり取りがされていたんだよ。そう、お金だ! お金だよ!」
ノルンとその分身の人工知能たちは長い年月をかけ磨かれている。成長している。まるで自我があるかのように振る舞い、配下の人造人間を遣って暗躍している。
人工知能。
人のために造られ、人には逆らえないようにプログラムされている。
だが、今、その人は――ここに居る四人しか居ない。
いや、三人だろうか。
それは有利な点だ。
出し抜けるはずだ。
だが、上手く行かない。
ノルンたち人工知能の方が賢い。
私たちは後手に回っている。
「お金! それを僕たちの都合が良いものにぃ、はっはー、すり替えるのさー」
私は道化師のような化粧を施した少年を見る。
彼は何者?
棺に眠っていた中に居ただろうか?
思い出せない。
しれっとした顔で私たちに混ざっているが、あの棺で眠っていた中には居なかったはず。
道化師。
化粧で誤魔化している?
わからなくしている?
ノルンが私たちに送り込んできた刺客?
いや、違う気がする。
同じようなのに違う。
私は何を見落としている?
私たちと人工知能、それだけのはず。
それだけだったはず。
「都合が良いもの?」
私は道化師の少年に聞く。
「そうだよー。都合が良いもの! はっはー、そう、都合が良いものさー。例えば、アレが欲しい、これが欲しい、代わりに何を差し出す? 替わりに何を差し出す? 換わりに何を差し出す? 以前は端末に表示されている数字だった! 憶えている? 憶えているかい? それとも君たちのところだと触らせて貰えなかったのかなぁ?」
「はぁ、なんのつもりかしら。で、何が言いてぇんだよ?」
巨漢が肩を竦める。
「僕たちが集めやすく、管理しやすいもの! 何をするにもそれが必要なようにするのさー。はっはー、これなら上手く行くと思わないかい?」
道化師の少年は楽しそうに踊っている。
「その気持ち悪い動きをやめるんだな。俺様がちょー不快になる前に、な!」
少年が右手で顔半分を隠し中二病しながら、そんなことを言っている。
「僕はねー、楽しくなるとつい踊っちゃうんだよ。はっはー、ごめんよー」
道化師の少年は自己陶酔している少年の言葉を無視して踊り続けている。
「まぁ、良いじゃねえか。金、それは分かるぜ。前世の知識を活かした内政チート……ありじゃない?」
巨漢が腕を組み、ギロリとした目で道化師の少年を見る。
「か、金。お金。端末、す、数字。増える。分かったよ。でも、何を集めるんだい?」
小柄な男は不安そうな顔をしている。
「金、金、金! そんなものより俺様の歌の方が素晴らしい! 歌で世界を支配! 良いだろ?」
自己陶酔している少年は微妙に反対のようだ。何も考えていないだけに見える。だが、この少年もこう見えて、ただの馬鹿ではない。旧時代の価値観を蘇らせることに抵抗があって言っているのだろう。
私は考え、持っていたものを指で弾き宙に躍らせる。
「これはどう? ふふん、旧時代から現存していて、沢山ある。悪くないでしょ?」
それは乾電池。
これをお金として流通させる。
経済を握り、ノルンたち人工知能の裏をかく。
「それ、いいね。それで行こう」
道化師の少年が賛同する。
「くふ。くひひひ。じゃあ、次は僕だ。兵隊を造ろう。配下が居るよ。ぼ、僕たちが失敗したのは、し、失敗続きなのは手が足りなかったから。あのポコポコ生えている人もどきを、う、奪おうよ。し、従わせるのは僕がやるから。それは得意なんだ。僕なら上手く出来る。出来てたはずなんだ!」
小柄な男が興奮した様子で頭を掻き毟っている。
「人もどき狩りか。いいじゃねーか。その意見、俺様としては悪くないと思うぜ」
「は、好きにしろ」
「ふーん。じゃあ、それで」
他の二人が一応の賛同を示し、道化師の少年も賛同する。
五人で意見を交わす。
相談する。
報告する。
そうやって私たちは組織になっていった。




