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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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760 リインカーネーション30

 私は思い出す。


 私が私であるために、私を思い出すために。


 私が刻んだ軌跡を。


 八つの棺。


 人類の希望。


 人。


 人という種を保管していた箱。


 種。


 ……。


 ここに残っていたから人が滅びることはなかった。


 ノルンが作った新人類ではなく、本当の人が残った。


 人類は滅亡しなかった。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 それもこの地方の話でしかない。


 外の世界では普通に人が生き残っていたのかもしれない。


 外は……。


 分からない。


 思い出せない。


 八つの棺。


 生き残った八人。


 いいえ。


 違う。


 記憶が間違っている。


 あの冷凍装置の一つは空っぽだった。


 八人ではない。


 そう、一つは冷凍装置が置かれていた部屋の前にあった大きな試験管の中に入っていたのだから空っぽで当然だ。


 七人。


 そう七人だった。


 しかもすでに死んでいた人も居て……。


 だから四?


 違う三?


 私は除くのだから三。


 ああ、そうだった。


 私はそこで……。


 記憶が廻る。


 そして再び場面が変わる。



「僕はねー、僕たちが人を導くべきだと思うのさー」

 道化師のような化粧を施した少年が両手を広げ楽しそうにくるくると回る。

「ええ、そうね。あー、いいぜ、俺もそう思うぜ」

 何も考えて無さそうな巨漢の男が大声で笑いながらそう答える。

「はぁー、そうだな。俺様たちこそがー、人の生き残りなのさー。人類の希望、残された種子。そうだろー?」

 少年がニヤニヤと笑いながら無駄に長く伸びた髪を掻き上げる。

「くくく、僕は、僕たちは生き延びた。もう怯える必要はない! もっと、もっと僕は、くくく、僕が上に立つべきなんだよ」

 小柄な男がガシガシと爪を噛みながらブツブツと呟いている。


「おい、何も言わないが、お前はどうなんだ?」

 巨漢の男がこちらに話をふる。


 私はただ肩を竦めるだけ。何も答えない。


「おいおい、聞こえねぇのかよ」

 巨漢の男が大きな声で騒ぎ、

「お、お、お高くとまって、ぼ、僕とお前は立場は同じ、おな、おな、同じだ」

 小柄な男が睨むような目でこちらを見ながらブツブツと呟いている。


 私はもう一度肩を竦める。


「まぁまぁ、喧嘩は良くないよー。はっはー、僕たちは唯一あの大崩壊を生き延びた旧時代からの仲間じゃないか。残された僕たち人が仲違いをしたら駄目さー」

 道化師のような化粧を施した少年がリーダーシップをとり、仲裁をしようとしている。


 あれからどれだけの月日が経ったのだろうか。


 もう憶えていない。


 分からなくなるくらいの年月が経っている。


 ノルンは人を造り続けた。保管していた記憶を植え付け、地上に送り出す。最初の頃はエラーを起こしている人もどきとしか言えないような奴らばかりだった。だが、それもこいつら生き残っていた人によって変わった。人間らしい人間を、クローニングし、造ることが出来た。調整を施され、新しく記憶を植え付けられた者たちは、もう人と言っても良いだろう。


 地上には人があふれ出した。


 だが、それと同時に冷凍保存されていた動植物たちも解凍され、改造され、地上に放たれた。ノルンたち人工知能は、こうなることを見越していたのか、それともたまたまだったのか。


 私には機械の考えることなんて分からない。


「崇高な使命。俺様たちにはー、崇高な、人を導くという使命があるだろ。真実の人としての使命が」

「そうよ。俺たちは、あの機械が造った人もどきとは違う。わからせねぇとなぁ!」

「くくく、今なら僕たちの都合が良いように人を、し、支配出来る。僕は失敗作なんかじゃあない」

 三人は好き勝手なことを言っている。その様子を道化師のような化粧を施した少年が楽しそうに踊りながら見ている。


「はっはー、そうだね。そうだよ。僕たちは方舟。大崩壊から生き残った人という種子さー。そうだね、僕たちはアークのシードさー。そして君たちはその四天王! アークシードの四天王!」

 道化師のような化粧を施した少年はくるくると周り、歌うようにそんなことを言っている。


「お? 歌か? 歌なら任せろ! 俺様も歌うぜー」

 少年が歌う。旧時代の歌だ。この少年が居た施設で流れていたのだろう。


「おいおい、で? なんで四天王だ? ここには五人だろーが」

 巨漢の言葉。確かにその通りだ。


「僕はアドバイザーさ。君たちみたいに戦う力も無いからね」

 道化師のような化粧を施した少年が肩を竦める。そして、こちらを見てパチリと片目を閉じる。


「ははーん。なるほどな。お前んとこの実験は……、ふん。上下をつけるのもどうかと思うが、まぁいいぜ。戦う力が無いってなら、こいつも、くくっ、こいつは四天王最弱だな!」

 巨漢が小柄な男の背中を叩く。

「お、お、おい。上下がないのに、最弱? 最弱だと。ば、ば、馬鹿にしているのか」

 小柄な男がぷるぷると震えている。


 私は小さくため息を吐く。


 人。


 人。


 人。


 人だ。


 生き残った人のお遊びだ。


 そう考えれば付き合うのも悪くないだろう。


 ここでなら本物が見つかるのかもしれないのだから。

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― 新着の感想 ―
結局、ガムとセラフは何なんだ?
これは大昔の話なんですねー!
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