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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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757 リインカーネーション’27

「ぷぎゅら、べぼら」


 ノルンは姿を隠している。


「ぎゃぎゃ、ぎゅぎゅ」


 私に壊されると思っているのかな?


「そんなことしないのにね」

 私は小さくため息を吐き、肩を竦める。


「ぎゅぽ、ぼりゃべ」


 ……。


「ぎゅぼ、ぷぎゅる」


 ……。


「はぁ」

 私は何を言っているのか分からないなり損ない(・・・・・)を踏み潰す。


「えーっと、これは何かなー?」

「当施設にどういったご用でしょうか?」

 何を言っているか分からないなり損ないとは違い人造人間は私にも分かる言葉で喋ってくれる。


「えーっと、これは何かなー?」

「当施設の説明を一からご希望でしょうか?」

「えーっと、これは何かなー?」


 私は同じ言葉を繰り返す。


「ご用件をお伺いいたします」

「えーっと、これは何かなー?」


 私は人造人間に見えるように頭が潰れたなり損ないを持ち上げる。


「他に何かご不明な点はありますか?」

 出来たばかりの人造人間はニコニコと綺麗な笑顔で受け答えしてくれる。


「こ、れ、は、何かなー?」

「当施設の説明をご希望ですか?」

「はぁ」

 私は小さくため息を吐き、人造人間を引き千切る。中に詰まっているのは配管や配線――機械だ。


 そう、機械だ。


 人のように見えても機械だ。


 私に分かる言葉で喋る。


 受け答えをしてくれる。


 でも、それだけ。


 人造人間に意志はない。


 私の言葉を聞き、対応した答えを返しているだけ。ただ、決められたことを決められたままに処理しているだけ。


 こんなものは人とは言えない。


 人とは言えないよ。


 だから、造られた人間なんだろう。


 人造人間はこれが限界。


 私はもう一つのなり損ないを見る。


 人の細胞を模したナノマシーンから造られた器に人の記憶を転写した、もう一つの人造人間。こちらは元々の人に近い。


 でも受け答えもまともに出来ない出来損ないだ。


 記憶の転写をしているんだから、普通に自分で考え、自分の意志で喋ることが出来るはずなのだ。なのに終わってる(・・・・・)


 目を見れば分かる。そこに意志の光はない。


 失敗だ。


 失敗だったんだ。


 これでどうするつもりなのだろう?


 こんなのが新人類?


 旧人類を滅ぼしてまで入れ替えようとした新人類が、これ?


 私はノルンに嘘偽り無く、全ての技術を上げている。


 なのに、これ?


「こんなのって無いよー」


 私は左手をあんこがたっぷりな今川焼き(・・・・)に変化させ、それをひょいパクッと食べる。食べた今川焼きは消化され、ナノマシーンとして再び左手に戻る。


「リサイクル、リサイクル」

 私は気分転換に食事を楽しむ。


 内臓を造り替え、食事が必要ない体にすることも出来る。だけど、だけどだよ。


 そんなことをしていると忘れてしまう。


 人がどんなだったかを、人がどんな姿だったかを忘れてしまいそう。


 だから、人だった頃の習慣を大事にして、人を真似る。


 この世界には私一人だ。


 ひとりぼっちだ。


 機械と私しか……居ない。


 だから、私は人のままで居ようとする。


 必要に迫られない限りは人のまま。


 人は全てアレに食われてしまった。


 道行く人々も、


 核を落とした偉そうにしていた人たちも、


 シェルターに逃げた人たちも、


 逃げ延びたと思っていた人たちも、


 ぜーんぶ、食われた。


 逃げる場所なんて無かった。


 人を造っているはずのここなら会えると思ったのに無駄だった。


 人に会えると思ったのに無駄だった。


 ノルンはこの地域の殆どの人間を、人の記憶をサンプルとして保管していると言っていた……はず。


 人の記憶をデータ化して保管。


 その保管方法が間違っていたのか、器に転写する方法が間違っていたのか。


 とにかく、今はなり損ないしか生まれていない。


 なり損ない。


 なり損ないばかり。


 こんなのは人とは言えない。


 ……。


 もう人は生き残っていないのに。


 こんななり損ないばかり生み出して、何がしたいんだろう。


 ノルンがどれだけ賢くて、どれだけの知識を蓄え、どれだけの情報処理が出来ても、人じゃないから。


 ノルンは人じゃない。


「あ、そっかー」


 だから、もしかすると人がどういうものか分かっていなかったのかもしれない。


「あー、あー。もうね、こんなことならアマルガム君を止めていればよかったなー」


 人はもう生き残っていない。


 ……。


 ……あれ?


 生き残って……ない?


 何か忘れている気がする。


 なんだろう。


 何かを見逃している気がする。


「でも、アレは人を食い尽くしたし、私が見てまわったところは、どこも、何も、残っていなかったよね。うーん、なんだろう」


 何を見逃しているんだろう。


 何を忘れているんだろう。


 とりあえず思い出そうかな。


 私は脳を肥大化させ、されに補助として予備の脳を造る。


 情報を精査する。


「私はうっかりも多いし、抜けていることもあるからなー。ふひひひ、ここで何年も、何十年も待ったけど無駄だったし、あ! 見つけた」


 見つけた。


 見逃していた。


 アマルガム。


 アマルガム101はこれを見越していた?


 ……ワケ無いよね。


 たまたまなんだろう。


 でも、これは運命かもしれない。


 可能性はある。


 確認してみよう。


「ふふん、面白いじゃない」

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