756 リインカーネーション’26
西の港町にはいつの間にか巨大な研究施設が作られていた。港に停泊している巨大戦艦の改造も行なわれているようだ。
「ほえー、ずいぶんと変わっちゃったね」
私が研究施設に近づくと、そこから何かが飛び立った。
「なんだろう? んー、それはそれとして。襲ってくる機械は壊さないと駄目かなー」
研究施設からわらわらと防衛機械が現れる。私という異物を排除したいのかな?
あれだけ協力して、色々な技術を提供したのに人工知能は薄情だ。
肩に担いだロケットランチャーをぶっ放す。ロケット弾が着弾し、わらわらと湧き出ていた機械たちを吹き飛ばす。
私は担いだ空のポッドを投げ捨て、研究施設へと歩いていく。
『止まりなさい。ここは人類管理エーアイによって一般人の立ち入りが禁止されています。警告、それ以上近寄れば攻撃します』
機械的な音声が聞こえる。
「え? びっくりした。もう攻撃しているのに? 今更、警告? なんだかなー」
私は警告を無視し、さらに一歩踏み出す。
次の瞬間、研究施設から光が放たれた。
「へ? えー?」
そして私は死んだ。
私の体を構成しているナノマシーンが命令に従い、ゆっくりと体を再生していく。
どうやら放たれた光線によって体を焼き斬られたようだ。私の周囲が分かりやすいくらい熱くなっている。熱によって皮膚に水疱が生まれ、ぐつぐつと泡立っている。
私は長く伸びた髪を掻き上げ、大きくため息を吐く。
「酷いなぁ。お気に入りの服だったのに。サイズが合う服を探すのも大変なのに」
私は体の組織を変化させ、服のように全身を覆わせて硬化させる。
再び研究施設から光線が放たれる。
その一撃を硬化した体で受け止める。
……。
硬化した部分が黒く変色し歪んでいく。熱だけじゃない! どうやら硬くしただけでは耐えられないようだ。
「はぁ。人類を管理するエーアイが、その人類の生き残りに攻撃するなんて、そんなことが許されるの? 誰の許可でこんなことをしているのかなー。酷いよね」
私は体の構成を変える。
硬化させるのではなく、次から次へと新しい皮膚を生み出し、それを断層状にして光線に耐える。
こちらを貫こうとし、体を焼き続ける光線に耐えながら歩く。
研究施設からは光線が放たれ続ける。
光線に耐えながら、なんとか研究施設に辿り着く。その中に入り、建設途中のゴンドラのようなエレベーターに乗り込む。目的地は上。ノルンは高いところに居る。
「ホント、しつこいなぁ。ただ攻撃をすれば良いというものじゃないのにね」
上から人型の機械が降りて来る。
私は右腕を伸ばす。手を刃のように鋭く変化させる。
伸ばしたその右腕を鞭のようにしならせ、降りてきた人型の機械を切断する。
だが、倒したそばから新しい機械が降ってくる。次々と降ってくる。
一、二、たくさん。
数えるのもうんざりするような数が襲いかかってくる。
人型の機械たちは背中にある噴射装置から火を噴かせ、姿勢を制御し空中に浮かんでいる。私から距離をとろうとしているようだ。
その人型の機械たちが手に持った長細い銃をこちらに向ける。
私は大きくため息を吐く。
「こんな機械に負けていたら駄目だよね」
さらに細く、長く、糸のように伸ばした右腕を振り回して人型の機械を切断していく。
……。
効率が悪い。
私から距離をとり、こちらの攻撃をするりと回避した人型の機械。その機械が手に持った長細い銃から光線を放つ。左手を伸ばし、その光線を受け止める。断層のようにした皮膚で再生を続け、耐える。
鬱陶しい。
発想を変えよう。
切断するのではなく!
私はナノマシーンを操作する。右手がキラキラと輝く粉に変わる。
私はその粉を散布する。
粉が人型の機械に触れる。粉は止まらない。触れた場所をそのまま貫通し、小さな穴を穿つ。こちらを取り囲んでいた人型の機械にぷつぷつと小さな穴が開いていく。
人型の機械は動きを止め、落下する。
これで終わり。
機械。
人型の中には精密な機械が詰まっている。それを壊せば終わり。
「えーっと、それで……あれ?」
ガクンという衝撃とともにエレベーターが止まる。まだ建設途中だったエレベーターは一番上までは連れて行ってくれないようだ。
ノルンの本体が置かれている場所まではまだ距離がある。
「はぁ」
仕方ない。
私は足を変化させ、壁に吸着させ、そのまま駆け上がる。
襲いかかる機械にナノマシーンの粒を飛ばし、破壊する。ナノマシーンを飛ばした分、体が削られていくけど仕方ない。削られた分は後で回収しよう。
そして、辿り着く。
そこは未だ建設の途中だった。これからさらに高く、高く、研究施設を増築し続けるつもりなのだろう。
多くの機械が働いている。
働く機械だ。
その機械たちは私の存在に気付いていないのか、それとも優先順位が違うのか、私を無視して黙々と研究施設を増築する作業を続けている。ここまで来れば、もう襲われることはなさそうだ。
私は小さく口笛を吹き鳴らし、増築途中の施設の中を歩いていく。
そして最奥に辿り着き、そこで私は出会った。
そこに居たのは一人の少年だった。
虚ろな目ををした少年が一人、ポツンと座り込んでいる。
少年がこちらに気付き、口を開く。
「う、あ?」
……。
「あ、あ、あ、う、あ!」
何を言っているか分からない。
その少年はアマルガムによく似ていた。
多分、ベースが同じなのだろう。
あの天津老人の若い頃なんじゃあないかな?
私は小さくため息を吐き、その少年を叩き潰した。
「えーっと、ねぇ、聞こえているのかな? 出来が悪いよ。これが人? 人の代わり? こんなのおかしいよ。ホント、バカみたい」




