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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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755 リインカーネーション’25

 生き物が居なくなってしまった世界を歩く。


 とぼとぼと歩く。


 人、動物、そういったものが消えている。


 道を歩いていた人。人の連れ歩くペット。


 生き物を管理していた施設から、その生き物だけが消えている。


 無人。


 何も生きていない。




「うー、お腹空いたよぉ」


 最初に私を苦しめたのは空腹だった。


 お腹が空いた。


 美味しいものが食べたい。


 授業の後にトモダチと一緒に食べた、たい焼き。尻尾まであんこがたっぷりだった。


 お腹いっぱいに食べたい。


 たこ焼きが食べたい。たっぷりのソースに青のりを振りかけて食べたい。


 食べるものが無い。


 輝く真っ白なご飯のおにぎりに海苔を巻いて食べたい。


 何処にも無い。


 美味しくなくても良いからとにかく食べたい。


 食べ物が欲しい。


「ああ、またー? お腹が空いているのに、もう飽きたよ」

 そして次に私を苦しめたのが機械だった。


 蜘蛛のような足を持った機械が三体。


 以前は施設の維持管理に使われていた機械なんだろう。


 この機械たちは、私をこの世界の異物だと、機械の世界に混じったたった一つの異物だと思っているのか、私を排除しようと襲いかかってくる。


「はぁ」

 ため息を一つ、手に持った銃が火を吹く。撃ち出された弾丸が飛びかかってきた蜘蛛型の機械を落としていく。


 弾丸が装甲を貫き、中の動力線を切断する。蜘蛛型の機械がバチバチと火花を散らし、動かなくなる。


 残りの二体も引き金を引き、銃を撃って壊す。


 ……。


「機械は、なんでまだ動いているのかなぁ」


 建物や機械が残っているのは、まぁ分かる。でも動き続けるのはどういう理由?


 燃料は?


 一部の機械は化石燃料で動いているはず。


 はず?


 そんな機械の燃料もアレにとっては捕食対象のはずだ。それとも私の思い違いでそうはならなかった?


 太陽の光でエネルギーを作っている……とは思えない。


 エネルギーを作り出している施設?


 それがどうなっているのだろう。


 その施設が稼働してそれで賄っている?


 それだけとは思えない。


 この地区の東側は核の炎によって崩壊し、砂漠のようになっている。元々、北東側は砂浜のようになっていたが、それが広がったような形だ。そして西側。不思議なことにいくつかの植物が残っている。


 ……。


 全ての生物を喰らい尽くすのかと思っていた。


 だが、違っていたようだ。


 よく考えれば、建物の多くに木材が使われている。それまで食べてしまっていたら、建物が崩れ落ち、崩壊し、大変なことになっていただろう。


「えーっと、大変なことにはなっているのかな、うん」


 生き物の骨だけが残っていたように、何か除外する設定があったのかもしれない。それが関係している?


 ……。


 木は……残っている。


 だけど、種や実となる部分が残っていない。そこだけ食べられてしまったのだろうか。私が食べられそうな部分だけ無くなっている。さすがに木の皮を剥いで食べるのは無理だ。


 無理というのは……、はぁ、お腹が空いた。


 ナノマシーンで体を造り替えたが人と同じ部分を残したのは失敗だった。人間らしくしようと思った弊害がこんな形で出るとは思わなかった。


 死なないけど、空腹は感じる。


 種、果実、野菜。食べられそうなところだけが……無い。


 人は植物の品種改良を繰り返し、短期間で収穫が出来るもの、収穫量が多いものなど特別な植物を造っていた。それが影響しているのだろうか。


 空腹。


 ノルンは人がよりよく生きるために作られた人工知能だ。そのノルンがただ生物を殺すだけのものを作るだろうか? 作らせるだろうか?

 何も食べず、生きていける。そんな風に改良された生き物。それは人と言えるだろうか? ノルンはあくまで人を(・・)より良く生かすための機械だ。そのために人の品種改良をしようとしているが、人の枠から外れるものを作ろうとは思っていないはず。


 何を持って人としているのか。


 人の定義。


 その範囲内で改良するはず。


「……人工知能の考えることなんて分からないよ」


 人を殺し尽くすこと、殲滅することが目的じゃない。


 人のため。


 人の生活のため。


 人、人、人、人。


「ああ、お腹が空いた。もう何年も食べ物を口にしてないよ。美味しいって感情を忘れてしまいそう」


 ノルンに問いただそう。


 この地を彷徨い歩くのはもう充分だ。


 もう飽きた。


 生きている人が居ないのは分かった。


 きっと居ない。


 もう私だけだ。


 まずはノルンに会って、何をしているのか確認しよう。


 ノルンの本体があるのは西の港町だっただろうか。


 確か、そこに作られていたはずだ。


 まずはそこに行ってみよう。


 この数年で何をしていたのか、何をするつもりなのか、確認してみよう。


 ノルンはナノマシーンを使った新人類を人の代わりにするつもりのはず。だけど、その新しい人が見えない。何処にも居ない。


 ノルンにしても今回の件は寝耳に水だったのかもしれない。まだ準備が出来ていなかった? アマルガム101が予想よりも早く暴走してしまった。そうなんじゃあないだろうか。


 未だ準備中?


 それとも散布されたアレに何かの仕掛けがあった?


 何かを待っている?


 それを待っている?


 ……。


 私はとりあえず木の皮を剥ぎ、口に入れる。


 ガムのようにくちゃくちゃとかみ続け、空腹を誤魔化す。


 ……美味しく無い。

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