754 リインカーネーション24
「綺麗」
そう呟いたのは誰だったのだろうか。
キラキラと光る粉が舞っている。
「雪?」
「こんな時期に?」
「そんなことよりもあの大きな音は何だったんだ? 揺れていたぞ! なんで誰も気にしないんだ!」
キラキラと光り輝いている。
「情報端末には何も表示されてないんだから、気にするだけ無駄じゃない?」
「情報端末を信じすぎてどうする!」
「私には関係ないしー」
光が風に吹かれ舞う。
「きらきらー、きれいー」
「何かのサプライズイベントかしら」
子どもたちが走り回る。
誰かが降り注ぐ粉に手を伸ばす。
触れる。
そして、それは起こった。
「あれ?」
「お、おい、それ!」
「こ、これぇ、どぅーなーってーるーのー?」
叫び声。
悲鳴。
「ひ、ひぃぃぃ!」
「なんだこれは!」
「溶ける、とける、どけるぅぅ」
恐怖。
「あー」
「逃げろ!」
「建物、建物の中に、速く!」
その光りはまず立ち並ぶ建物に接触した。
光る粉が建物を守るようにコーティングを始める。
光る粉に与えられていた命令。
建物や機械などの保護、保守。
その命令に従い、動く。
そして、その小さな輝きは気付く。
数が足りない。
建物を――文明を保護するには自分たちの数が足りない。
次の命令。
繁殖。
増える。
数を増やす必要がある。
小さな輝きは自分たちを増やすために必要なエネルギーを探す。
そして見つける。
それはすぐ側にあった。
沢山の炭素が――自分たちのエネルギーがあった。
小さな輝きは命令に従い、エネルギーを取り込む。
エネルギーを取り込み、繁殖し、数を増やし、保護し、自分たちと置き換える。
世界を創り変えていく。
光りが世界を覆っていく。
それは世界の終わり。
人の世界の終焉が――訪れた。
……。
……。
……。
地上では地獄のような光景が広がっている。
人が次々とドロドロに溶けて死んでいる。
「えーっと、酷いね。酷い有様だよね。これで満足?」
骨だけは残っているようだけど、その理由は何だろう?
アレはカルシウムが苦手なんだろうか。
私はこの事態を引き起こしたアマルガム101を見る。
彼は何も喋らない。
「人類は滅亡しました。終わっちゃったね」
私は肩を竦める。
人だけじゃない。
全ての生物が死に絶える。
アレが喰らい尽くすだろう。
……。
「ほ、滅んでない!」
アマルガム101がやっと口を開く。
「えーっと、そうかな? アレは生物を栄養にして、どんどん増えていくよ。生物が居る限り、アレは増え続け、生物は――人は死んでいくよ。その前の核でも色んなところが更地になったと思うけど、まだ人は生き残っていたのにね。これでもう終わりだね」
「終わり? 違う。僕は、俺がここに居る! 俺たちが生き残っている。人は生き残っている!」
アマルガム101はそんなことを言っている。俺たち? 私は首を傾げる。彼はまだ理解していなかったようだ。
そんなアマルガム101が哀れでならなかった。
「えーっと、君は二つ間違っている? 勘違いしているかなー」
「何を、言って……そんな、まさか」
アマルガム101が自分の両手を、体を見て、わなわなと震えている。
「地下だから安全だと思ったの? この地下シェルターに居るから安全だと思ったの? それは、君が殺したかった支配者層の人たちと同じ勘違いだよ」
アマルガム101の体が溶け始めている。
アレがアマルガム101の体を喰らっている。
地下だろうが、建物の中だろうが、アレには関係ない。
地上の人たちに比べて侵食が遅いのは、彼の体の一部がナノマシーンに置き換わっていたからだろう。
「僕は……、俺は、死に、たく、な……」
それがアマルガム101の最後の言葉だった。
あの天津と呼ばれていた老人と同じように、ただ生き延びたかったのだろう。それが彼の原動力だったのだろう。
結局、同じだった。
彼も同じだった。
本物では無かった。
「それとね、二つ目の勘違い――」
私の体もアレに喰われている。
体の中に残っていた数少ない生身だった部分が消えていく。
自分では完全に消しきることが出来なかった生身を――人だった部分を消してくれる。
「――すでに私は人をやめている」
あのノルンに言わせれば私は新人類になるのだろう。その試作品だろうか。
こうして、世界は一度、滅びを向かえた。
核の炎は一部の地域を燃やし尽くし、砂の世界を創った。
そして、散布されたアレはあらゆる生き物を喰らい尽くした。
残ったのは機械だけ。
そう、機械だけ――のはずだった。




