752 リインカーネーション22
また変わる。
記憶が今の私に近づいている。
終わりが近いような気も、まだ道半ばしかないような気もする。
見よう。
思い出そう。
私であった私になるために。
記憶が繋がっていく。
未来へと繋がっていく。
過去へと繋がっていく。
「分かったか! 分かったかい? 見たんだろう? 見てきたんだろう? 知ったんだろう? あいつらが何をしていたのかを。僕と、俺が、俺を、俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を」
俺を俺を俺を俺を俺を
俺を俺を俺を俺を俺を
俺を俺を俺を俺を俺を
俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を
俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を
俺を俺を俺を俺を俺を俺を
俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を
俺を俺を俺を俺を俺を俺、俺、俺、俺!
オレオォォ!
視界が歪む。
歪んでいる。
汚染されようとしている。
このままでは過去の記憶が塗り替えられる。
思い出せなくなる。
繋がらなくなる。
肉の記憶。
私の元になった細胞が持っていた記憶。
肉片。
肉の欠片。
叫んでいるのは誰?
天津という老人。
違う。
その記憶を移植されたアマルガム101?
深く潜れば潜るだけ私も汚染されてしまう。
肉の記憶が目覚めてしまう。
だけど、それも私。
アマルガム101は認められなかった。
受け入れることが出来なかった。
それは彼が後から移植されたものだったから。
不老不死を目指した老人。
ただ死にたくなかった老人。
そして、その恋人。
一人ではなく、二人で無限の刻を生きるつもりだった哀れな存在。
だが、それは届こうとしていた。
届いてしまった。
「えーっと、見たけど、それがどうしたの?」
私は頭を抑えガクガクと震えているアマルガム101にそう答える。
「こ、んな、こんなことが許されるのか? 今なら反抗勢力が何故、反抗していたのか分かる。分かるよ。俺をこんな目に! 俺が誰だか分かっているのか? 僕はこんなつもりじゃなかった!」
アマルガム101は激しく混乱しているようだ。記憶を移植された課程で壊れてしまったのだろう。記憶の転写――あそこはまだ進んでいない。
改良の余地しかないような段階だった。
だから馴染まなかったのだろう。
「えーっと、分からないかな」
「そうだろう! 分かるはずがない!」
「分かるからこそ、分からないよ」
これは私の本音だ。
私にも記憶がある。
アマルガムシリーズと同じようにオリカルクムシリーズも造られたものだから。
天津老人の不老不死を実現するために多くの研究施設が造られ、人体実験が行なわれた。それと同じように彼の恋人を蘇らせる実験も行なわれた。
私はその産物。
だから、微かな記憶がある。
天津という老人が青年だったころの思い出。
私が恋をしていた記憶。
恋という熱病に浮かれていた記憶。
彼女は彼が好きだったのだろうか。
そうだったのだろう。
だけど、それは物事を知らず、狭い世界で生きていたから思い込んでいただけの錯覚でしかない。
ただ浮かれていただけだったのだ。
でしかなかった。
なぜ、こうも薄いのか。
今は昔ほどの熱量を感じないのか。
私が私ではないからだろうか。
同じではないからだろうか。
……。
違う。
きっとこれは本物ではないからだ。
では、あの天津という老人では?
彼は本人だ。
彼女が好きだった人、その人だ。
本人だ。
だけど、私にその熱はない。
老人だから?
老いてしまったから?
違う。
そうではない。
彼が本物ではないからだ。
だから、私は私で在り、私の記憶を持ち、彼女の記憶がありながら、何も感じないのだ。
本物。
私は私の本物を見つけなければいけない。
……。
記憶。
そうこれは記憶だ。
そして、私は見つけたはずだ。
私だけの本物。
私の本物を。
「分かるか? 分かるかい? これを押せばどうなるか。これが発射されたらどうなるか? 君はこれを止めに来たんだろう? 俺を止めに来たんだろ? これは生き物だけを殺す。これが発射されれば、ここは、この地は、終わりだ!」
アマルガム101がスイッチの前で構って欲しそうにアピールをしている。
ああ、そうか。
思い出した。
この時の私は彼を止めに来たのだ。
人類を滅ぼそうとしている彼を止めに来たのだ。
都合良く騙され、利用されている彼を止めに来たのだ。
人類のために、だけに、人類を管理してきた管理システム。
ノルン。
天津老人が作り上げた人工知能。
それが人類を滅ぼそうとしている。
ノルン自身が動くことはない。
動くことは出来ない。
人類のために動くことしか出来ないノルンが人類を滅ぼすことは出来ない。
だからアマルガム101という都合の良い存在を使ったのだろう。
ノルンは人類を滅ぼした後、何をするのだろうか。
ナノマシーンを使った人造人間を造って、自分に都合の良い管理をするんだろう。
私が完成させたナノマシーン。
管理システムはそれを知っている。
私はその情報をあげている。
ああ、だから動いたのか。
ノルンは人類のために人類を滅ぼそうとしている。
アマルガム101は何も知らず、そのために利用されている。
ああ、なんて、
なんて面白い。
これが面白いという感情なんだ。
ああ、繋がっていく。
今という私に繋がっていく。
そう、私はこの日、私になったんだ。




