751 リインカーネーション21
場面が変わる。
記憶。
思い出せない。
この後、どうなったのだろう。
この後?
私が見ている記憶。
今に繋がる思い出。
そう、思い出してきた。
「それは……その姿、どういうことですか!」
先生が驚きの声を上げている。
そうだ。
先生。
この施設の研究者の一人。
先生は私の姿を見て驚いている。
姿。
「先生が考え、造ったナノマシーンです」
私の口が勝手に開き言葉を紡いでいる。
ああ、この時、この場で私はそう答えていたのか。
記憶の再現。
私に繋がるために記憶の中の私が再現されている。
「私が造ったのは医療用のナノマシーンを改良して身体能力の強化と延命に使えるようにしたものですよ。そこから不老不死に繋がる何かを造ろうと……こんな、こんな、こんなものが!」
先生が狂ったかのように頭を振り、叫んでいる。
先生は私を認めたくないようだ。
これは先生が目指したものではなかったのだろうか。
「肉体を構成している細胞を、核を、全てナノマシーンに置き換えただけです。えーっと、その方が自由に色々なことが出来ると思ったんです。同時に色々と考える必要があったので、それが出来る部位を造ったんです。これで通常の人よりも思考速度は増し、並列作業も得意になりました。えーっと、良いことずくめだと思うんですけど、何か問題がありましたか?」
「オリカルクム、お前は何を言って……」
「先生が娘さんの治療のために、天津老人と協力してナノマシーン技術の開発を行なっていることは知っています。えーっと、この技術が役に立つと思いませんか?」
「な、何故、そのことを。どうやって知ったんですか! 学校という檻の中で最低限の情報しか与えていないはず……、そうか! 誰かお前に手引きした者が居るのですね。そうです。きっとそうですよ」
先生が怯えたように後退る。
「先生、質問したいのですが、えーっと、どうして知らないと思ったんでしょうか? 私は外にも出ているんですよ。いくらでも情報を得られますよね」
「お前が、外で? 何を言っているのですか。そんな自由はないはずです。それに記憶はその都度、洗浄しているはず。まさか洗浄装置の故障……」
私は先生の言葉に首を横に振る。
「えーっと、先生、洗浄って脳をいじることですよね。私は体の何処でも考えることが出来ます。例えばこうやって」
私は腕を持ち上げ、そこに私自身の頭を造る。もちろん脳も神経も、全てがつまった私の分身だ。
「こうやって」「私は」「別に別に」「考え」「喋ることも出来ます」
いつも、冷めたい感情が見えない目で私たちを見ていた先生が、瞳を震わせ、体をガクガクと揺らしながら後退る。そこはもう壁だ。
「えーっと、今見えている脳をいじられても、他にもあるので、あまり、意味はないかな」
私はこてんと首を傾げる。腕の方も首を傾げてみせる。
「ば、化け物……」
先生は私を見て酷いことを言っている。
「私のこの技術? 情報? これは管理システムにもあげています。管理システムは効率が良いと、新しい人を全てその形に造り替えると決めていましたよ。これからは私のようなナノマシーンで造られた人が標準になります。化け物なんかじゃないですよ。これからのスタンダードですよー」
「い、いつの間に。人を造り替えるですって。そんなことが許されるものか。管理システムがそれを承認している? それは人類に対する明確な反抗ですよ。あり得ない。そんなことはあり得ない」
私はもう一度首を傾げる。
先生はおかしなことを言っている。
「先生、今まででもナノマシーンは使われてきましたよ。医療に、治療に、色々な分野で。人の肉体がそれに置き換わったら、なんで駄目なんですか? えーっと、先生、自分でおかしなことを言っているって分かってますか? 管理システムを疑うなんて、先生、なんだか、まるで反抗勢力みたいですよ」
先生はこれ以上後退れないからか、両手で顔を守り、うずくまる。これだと、なんだか、私が先生を脅しているみたいだ。
「や、やめてくれ。私が、悪かった。許してくれ」
先生は必死にそんなことを言っている。
「えーっと、先生、何を言っているんですか? 先生の何が悪かったんですか? 悪いと思うようなことをしていたんですか? それよりも娘さんの治療をしませんか? ナノマシーンで造られた体にすれば娘さんの病気も治りますよ。いえ、無かったことに出来ますよ」
私は先生に提案する。
だけど、先生には私の言葉が届かないようだ。
先生はうずくまり、嗚咽を漏らすだけになってしまった。
この反応……、私が先生を恨んで復讐するとでも思っているのだろう。
何故、恨んでいると思い込んでいるのだろう。
知らなかったと思っていたから?
悪いことをしていると思っていたから?
……。
……。
……つまらない。




