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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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748 リインカーネーション’18

 偽造した先生のIDを持ち、アマルガム101のメモが記していた座標へ向かう。自宅にはダミー代わりにナノマシーンを散布している。私が居なくなったことに気付かれることはない。

 私が調べた情報によると先生もナノマシーンの開発に関わっていたらしい。だけど、その可能性、使い方までは把握しきれていない。開発出来たからといって、その全てを知っているとは限らない。そういうことなんだと思う。


 先生は私がここまで出来るとは気付いていない。私が知っていることを知らない。


 私は巡回車を呼び止める。

「お客さん、どちらまで?」

 私が乗り込むと巡回車のサポートが親しみを感じる声で話しかけてきた。


「えーっと、この座標まで行ける?」

 巡回車のサポートに座標を打ち込む。

「お客さん、そこは立ち入り禁止区域ですよ。悪いことは言わないから、そんな場所に行こうとするのは止めなさい」

 だけど巡回車のサポートに断られる。


 ……。


 先生のIDを使うべきだろうか。


 いや、駄目。この巡回車のサポートと管理システムは通信を行なっている。先生のID情報が管理システムに行くのは不味い。私たちの研究施設に居るはずの先生がここに居るとなったら、おかしなことになる。そんなことをすれば――私の存在がバレることはないけど、せっかく苦労して手に入れたIDが使えなくなってしまう。


「どんなものか見たかっただけなの。えーっと近くまで行って貰える?」

「分かりましたよ」

 巡回車が発進する。


 私は巡回車の窓から外を眺める。


 虚ろな目をした人が無気力にふらふらと歩いている姿を見掛ける。


 人は管理されている。


 その人の才能、適性に合わせ、世界の歯車として動くことを推奨されている。それは何も考えなくて良いとても楽な世界。誰もが苦しむことなく、悩むことなく、生きていくことが出来る世界。だけど、全ての人がその新しい時代に適応出来る訳ではない。今、見えている人たちのような指定された仕事、作業を行なわず、無気力に歩いている――そんな人たちもいる。


 時代に適合出来なかった人たち。昔は自由だった、今の管理社会が間違っているなんて叫んでいた人たちだろうか。


 こんな適応することが出来なかった人たちですら処分することなく、生かし続けるのだから、管理システムはとても優しい。人のために作られた人を管理するためのシステムは何処までも人のために在り続け、人を生かし続ける。


「お客さん、つきましたよ。ここから先は立ち入り禁止区域だから、あまり近寄らないようにした方が良いですぜ。お客さんが軍関係者なら別ですがね。さあ、ここまでで740クレジットだよ」


 740クレジット?


 支払いが必要なんだ。


 それが安いのか高いのか……妥当なのか分からない。


 ……。


「どうしました? お客さん? お客さん」

 巡回車のサポートの声が少しだけ怖いものになる。


 仕方ない。


 私はナノマシーンを操作する。ナノマシーンを使って私という情報を遮断する。


「あれ? お客さん? お客さん?」

 巡回車のサポートが呼びかける。


 巡回車のドアロックを無理矢理外し、外に出る。管理AIの端末でしかない巡回車のサポートには分からないはず。私が突然消えたように見えているはずだ。


 とにかく指定の座標まで行こう。


 体内ナノマシーンを活性化させる。70パーセントを身体能力の強化に残りの20パーセントを擬態に使う。施設内の警備システム、感知類を誤魔化しながら進む。


 封鎖されているゲートを抜け、島に繋がる橋を走り抜ける。


 橋。


 こんな一本道の遮蔽物がない道。センサーによる警備の目をナノマシーンで誤魔化して居なければすぐに発見され、攻撃されていただろう。立ち入り禁止区域だから、問答無用で殺されてもおかしくなかった。


 橋を渡りきり、島に上陸し、施設を目指す。


 アマルガム101はそこにあるものを私に見せたかったのだろうか?


 そこが研究施設なのは分かっている。だけど何の研究施設なのかは分からなかった。何故かここの研究施設はスタンドアローンになっていた。だから、私も詳しく調べることが出来なかった。


 ……この時代にスタンドアローン?


 管理されていないってこと?


 管理システムが管理を放棄した?


 そんな場所があるの?


 直接調べに行けってこと?


 ……。


 その答えが今、分かる。


 私は何事もなく島にある研究施設に到着する。


 研究施設の玄関から中に入る。


「IDをご提示ください」

 研究施設のアテンダントAIが話しかけてくる。


 私は先生のIDを偽造したもの――それを提示する。


 ここは管理システムから――全てから切り離された場所だ。先生のIDを使っても問題無い。疑われることも、情報が管理システムに送られることもない。安心して提示することが出来る。


「確認しました。ようこそ、ドクターミナモト。ご用件をどうぞ」

 羽衣のような布を纏った女性の立体映像が浮かび上がり、こちらに笑顔を向ける。ここの管理エーアイだろう。


「私は……」

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