745 リインカーネーション15
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痛みに耐え、壁に寄りかかる。
ふぅ。
大きく息を吐き出す。
声が聞こえた。
起きろという声が聞こえた。
あの声はアマルガム――いいえ、今はガムと名乗っている彼の声だった。
思い出した?
私は思い出したのか?
私は誰だ?
思い出せ。
思い出せ。
ミメラスプレンデンス?
いいえ、違う。
それは私が作った仮面でしかない。
オリカルクム?
オリカルクムだろうか。
痛み?
私は殺されようとしていたのか?
私が?
オリカルクムという名前で呼ばれるのは……、だからといって、あの名前で呼ばれるのは違う気がする。
私は誰だ?
薬。
飲まされていた錠剤。
意識が混濁する。
まるで昔に戻ったかのような、私は昔を思い出しているのか。
錠剤。
あれは意識を混濁させるものだったのだろう。
だから、この状況なのか。
誰が仕組んだ?
これは誰だ?
私だ。
私は誰だ?
思い出せない。
未だ意識が混濁している?
あの声は……彼の声だった。
意識が混濁している。
この状況は彼が用意したものなのか?
いや、彼はそんなことをしないだろう。
では、誰が仕組んだ?
私は顔に手をあて、軽く頭を振るう。
思い出せそうで、思い出せない。
意識が混濁している。
これはアレか。
あの子の仕業か。
私を夢に沈め、そのまま腐らせるつもりだったのだろう。
これはあの子が最後に残した罠だろう。
この体は分体か。
万が一のために残していた分体に罠が仕掛けられていたのだろう。
意識が混濁する。
揺れている。
記憶が混濁している。
私が彼に殺されてからどれだけの日数が……分からない。
昔のことを思い出していたような気がする。
意識と記憶が混濁している。
あの子はいつから準備をしていたのだろうか。
私が彼に殺されるのを待っていたのだろう。
そして、私が隠していたこの分体に逃げ込むことも分かっていたのだろう。
あの子は私だから。
あの子も私だから。
分かっていたのだろう。
オリハ。
そうだ。
思い出した。
あの子は自分のことをオリハと呼んでいたはずだ。
自分の名前。
自分だけの名前。
羨ましい。
私は顔に手をあて、もう一度、軽く頭を振る。
意識と記憶が混濁している。
駄目だ。
まだ意識がはっきりとしない。
まだ記憶がはっきりとしない。
分体。
自我を持った分体。
分体がある限り、私が死ぬことはない。
彼もあれが最後の私だと思ったはずだ。
思っていたはずだ。
裏を掻いたつもりだった。
だが、この隠していた最後の分体すら、あの子――オリハは見抜いていた。
……。
学校に行かないと……。
いつもの通学路。
学校。
お店。
私は顔に手をあて、もう一度、軽く頭を振る。
違う。
それは偽りだ。
過去の記憶か。
それから再現したのだろうか。
意識が混濁している。
記憶が混濁している。
使ったのはハイドランドのシステムだろうか。それを流用したのだろう。
あの子は私だから。
あの子なら使えるだろう。
あの子なら知っているだろう。
意識が混濁する。
深く沈みそうになる。
駄目だ。
思い出さないと……。
錠剤の影響だろうか。
昔の、自分?
本来の自分?
まどろむ。
眠りそうになる。
このままでは不味い。
私は私でなければならない。
起きろ、あの声は彼の声だった。
彼は私がここに居ることに気付いた?
あの子が教えたのだろうか。
でも、ならば、何故、私を起こすように――私に呼びかけたのだろうか。
私を殺した彼だ。
あのまま、このまま、眠らせておくことも出来たはずだ。
何故?
駄目だ。
考えがまとまらない。
まだ薬が抜けきっていないのだろう。
駄目だ。
私は顔に手をあて、軽く頭を振る。
意識が混濁している。
記憶が混濁している。
私は誰だ。
誰だ?
ミメラスプレンデンス?
誰の名前だ。
学校?
駄目だ。
はっきりとしない。
思い出そう。
昔の記憶から。
掘り返そう。
私が誰かを思い出すために。
私は……。
この痛み。
ああ、思い出そう。
彼の声が、
この痛みが、
私を思い出させた。
いえ、まだ足りない。
私ではない。
私になれていない。
思い出した?
だけど、意識が混濁する。
駄目だ。
このままでは不味い。
思い出そう。
私が誰かを思い出そう。
一つずつ、昔に何があったかを思い出そう。
それが私に繋がるはずだから。
刀ならグラナダGG




