741 リインカーネーション’11
アマルガム04は変わっていった。
私がアマルガム04を倒してから――彼は私に付きまとうようになった。
何をするのにも追いかけてくる。
何かあればすぐに勝負を挑んでくる。
ただの授業なのに、勝ち負けをつけようとする。
「次は負けない。あれは本気じゃあなかった。気を失わなければ勝てたはずだ。きっとそうだ。そうに決まってる」
「無理でしょ」
「はぁ? 雑魚は引っ込んでいろ。こいつと話しているんだ」
私の友人にまで絡んでくる始末だ。
「えーっと、真面目に授業を受けたら、どうかな?」
「なるほど。それが強くなる秘訣か。良いだろう。学ばせて貰おうじゃあないか。敵に塩を送ったこと後悔するがいい!」
「後悔? えーっと、どうかな? あははは」
私が言えば、なんだかんだと言いながらそれに素直に従う。アマルガム04は変わっているが根は真面目なのだろう。
「えーっと、それで、敵に塩って何だろう?」
私は首を傾げる。良く分からない。
「あれじゃない? 敵を塩漬けにしてやるーって感じの。ニュアンス的な?」
友人はそんなことを言っている。浸すの? 液体?
「は! 馬鹿を言うな。お前たちは、そんなことも知らないのか。やれやれだな」
アマルガム04はこちらを馬鹿にするような目で見ながら肩を竦める。
「馬鹿って言った方が馬鹿なんですー」
友人はアマルガム04にんべーっと舌を出し、煽っている。
「えーっと、それでなんなんだろう?」
私はその様子を微笑ましく思いながら、アマルガム04に聞いてみる。アマルガム04が言い出したことだ。聞いてみれば答えは分かるはず。
「ふむ。む? 確かになんだ? おい、なんだ?」
だが、アマルガム04も知らないようだった。自分が言ったことなのに、知らないのかー。
「はぁ? 私が知る訳ないじゃん。お前が言い出したことでしょ」
「そもそも塩って何?」
私は先ほどとは逆方向にこてんと首を傾げる。
「塩。えん、シオ。主成分が塩化ナトリムの白い結晶体。料理の味付けのほか工業にも使われる……だそうだ。ふん、調べればすぐにわかることを。お前たちはネットワークを活用していないのか? これだから――は、駄目だな」
アマルガム04が得意気に説明する。
「はぁ? 誰が駄目ですってぇ! 負けたくせに、負けたくせに! ネットワークを活用したその知識自慢で勝ち方を調べたらどうかしら? それで勝てるとは思わないけどー?」
「な、んだと」
アマルガム04と友人が言い争いを始める。私は笑顔を取り繕いながらそれを見ていた。
「ふん。授業を真面目に受けた。だが、勝てない。どうなっている? 嘘だったのか? 何故だ! 授業を受けたら勝てるんじゃあなかったのか。どういうことだ? 何か間違っているのか!」
何か? 全てだよ、と私はアマルガム04の言葉に、思わずそう言いそうになってしまう。
「あー、うー、えーっと、じゃあアドバイス。そのすぐに変身する癖を止めたらどうかな?」
「な、んだと」
「もう一度言うね。そのすぐに変身する癖を止めたらどうかな?」
「なん、だと」
「えーっと、三回目だけど言うね。そのすぐに変身する癖を止めたらどうかな?」
「な、んだと」
「うー、これ四回目を言った方が良いのかな」
「複数の遺伝子を持ち、その特性を活かせるのが能力なんだぞ。それを止めろ、と。混在する遺伝子を、エラーを起こさずに呼び覚ませることが! 他と違う、成功例だって言われたのに、なのに、こちらの存在価値を無くそうと言うのか! 他の失敗作とは違い、ちゃんと個別に活用出来るんだぞ。これは前の先生からも認められたことなんだぞ」
「うーん。確かに力は凄くなるし、機敏になるし、傷とかも治っちゃうし、丈夫になるよね。凄い能力だと思うよ。うー、でも、体が大きくなるって、的が大きくなるってことだよ? まずはそれがマイナスかなぁ。力もあって素早く機敏になってるみたいだけど、動物的? 筋肉とか関節とか見れば分かるような、予想が出来る動きしかしないし、それしか出来ないのかな? 動きも単調になってるし、力任せ? 能力に振り回されている感じ? 最初は驚いたけど、それだけかなー」
「な、んだと」
「えーっと、もっと詳しく言った方が良いかな?」
私の言葉にアマルガム04は小さくため息を吐き、首を横に振る。
「いや、いい。はぁ、分かった。少し考えてみる」
「うん。同じ、クラスメイトになったんだから、一緒に頑張ろうよ」
「クラスメイト……? ふ。やれやれ仕方ないな」
アマルガム04は何処か嬉しそうな顔で肩を竦めている。
やはり、アマルガム04は変わっている。
それからしばらく、アマルガム04は大人しくなり、こちらに勝負を挑んでくることもなくなった。真面目に授業を受けている。
アマルガム04も私たちと同じように小さな目に見えない機械で体が作られているはず。それなら同じように活性化率を上げることが出来るはず。だけど、先生はそのやり方をアマルガム04に教えようとしない。
なぜだろう。
今度、私が教えてみようかな?
うん、それが良い。
同じクラスメイトなんだから、アマルガム04はもう友達だ。
友達とは協力するべきだと先生は言っていた。




