739 リインカーネーション’09
アマルガム04は変わっていた。
「あそこのセクションは、えー、確か色々な因子を取り込んで最強の兵士を作るだったかー。何個だったか……? えー、ぱっと見だとわからんなぁ。まぁ、そうでなければ役に立たないからなー。このクラスに転入出来るほどだから、えー、アレがほぼ完成か。これがそうか。えー、ある程度性能を確認して問題が無ければ素体として使ってみるか? あまり好みでは無いが、――の意見なぞ、……であるかー、お伺いをしてからかー」
先生がアマルガム04を見てブツブツと呟いている。耳の良い私はその言葉を聞き取っていたが、その意味を理解することは出来なかった。
ブツブツと呟いていた先生がその口を閉じ、皆を見回す。何かを確認するような目で――酷く冷たい目で私たちを見ている。そして先生が再び口を開く。
「あー、えー、それでは、アマルガム04君。君が何処まで出来るかを確認するためにも、まずは戦闘訓練を行ないたいと思う。普段、ここでは体育の授業を行なっているんだが、えー、その前に確認ということで、えー、良いかね?」
「戦闘訓練? データを見ればわかりそうなものですが、はぁ、良いだろう。それも従いますよ。有用性しっかりと目に焼き付けてください」
アマルガム04が肩を竦め、大きなため息を吐いている。先生の前であり得ない態度だ。彼は転入前の場所でずいぶんと自由にやらせて貰っていたようだ。
「えー、それでは誰か居るか? 彼の相手をしたい者は居るかー?」
先生が私たちを見る。見ている。それは先ほどと同じ冷たい、感情を感じさせない目だった。だが、言葉から私たちに期待しているのが分かる。
「私がやります」
私が手を上げる。
「えー、ああ、君か。えー、まぁいいだろう。やりなさい」
「はい」
私は立ち上がる。
「頑張ってね」
友人の声援を受けながら、前に出る。アマルガム04と向き合う。
「先生、何処までやっても良いのでしょうか?」
私は先生に聞く。
「えー、何処まで、か。そうだなー、50パーセントほどにしておけ。えー、壊すなよ。もちろん壊されるなよー、わかるな? 今回はあくまで性能の確認だからなー」
私は先生の言葉に頷く。
アマルガム04はこちらを見て馬鹿にするように小さくため息を吐き、肩を竦める。
「君が相手? はぁ、ここでどれだけ有用か、実践しようと思ったんだが、君が相手? 困ったな。まぁ、最初から全てを見せる必要は無いか。はぁ、最初の一撃は譲ってあげよう。良いだろう、かかってこい」
私は先生の方を見る。先生は好きにしろという風に頷いていた。
「行きます」
私は全身を活性化させる。活性化率は先生が指定した50パーセント。まずはこれで様子を見る。
一歩踏み込み、小馬鹿にするような顔でこちらを見ていたアマルガム04に拳を叩き込む。
……。
アマルガム04はその小馬鹿にしたような顔のまま、私の拳を受けて吹き飛んでいた。アマルガム04が体育実習室をバウンドしながら転がり、吹き飛んでいく。
「え?」
「えー、50パーセントで間違い無いな?」
先生が私を見て確認してくる。私は何度も頷く。それ以上にはしていない。
私は吹き飛んだアマルガム04の元へ走る。アマルガム04は白目を剥き、ピクピクと体を痙攣させていた。意識が完全に飛んでいる。出力を50パーセントに抑えたから死んでいないはずだ。
「えー、これは向こうで戦闘訓練をまともに受けていない可能性があるなー。いくら本体の性能が良くても、これじゃあ。戦闘方法をインストールした方が良いのだろうか。あー、いや、だからこそか。素体としては使い勝手が良さそうだ」
ゆっくりとこちらに歩いてきた先生は冷たい目でアマルガム04を見下ろし、ブツブツと呟いている。
このままトドメを刺すべきだろうか。
私がそう考えた時だった。白目を剥き、気絶していたはずのアマルガム04が飛び起きた。
「はぁはぁ、不意打ちとは、良いだろう。ジーンの力、見せてやる」
アマルガム04は荒い息でそんなことを言っている。
「えっ! 違うくない? うー、最初の一撃は譲ってくれるって……」
「譲った!」
私の言葉を聞き、アマルガム04は慌ててそう言う。
「だから、次はこちらの番だ」
そして、自身の体を抱えた。
私は先生の方を見る。
「えー、まぁ、待ってあげなさい」
先生はゆっくりと私たちから離れ、どうでも良さそうにそんなことを言っている。
私は先生に言われるがまま待つ。
小さく体を抱えたアマルガム04が吠える。それに合わせるように、ゆっくりと体が膨れ上がっていく。アマルガム04の体操服が弾け、体が膨れ上がる。そして全身を覆うように真っ黒な毛が生えていく。ずいぶんと剛毛だ。
そして、変身が終わる。
それは梟の頭を持ち、二メートルは超えている熊の体を持った姿をしていた。
『ここからが本番だ』
梟頭がざらざらとした声で喋る。
アマルガム04は巨大化し、変身する能力を持っているようだ。




