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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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736 ――――06

 夢。


 これはいつもの夢だ。


(そう、いつも……の夢。これは夢)


 同じ場所、同じ夢。


(同じだ。分かってる。分かっているよ、これはいつもの同じ……夢)


 小さな――少年の影。


(憶えている。これは少年。少年の影だ)


 小さな少年の影がこちらを見ている。


(小さな少年の影はこちらを見ている。影なのに、こちらを見ているのが分かる)


 この影は少年。


(小さな影。私よりも小さい)


 小さな少年の影がこちらに迫る。


(逃げられない、逃げない。逃げたくない)


 何故?


(私は何故、逃げたくないのか? 待ち望んでいたから)


 怖い。


(ここが怖い。この夢が怖い。私が私でなくなりそうで怖い)


 小さな少年の影がこちらへと手を伸ばす。


(待っていたもの。待っていた瞬間)


 殺される。死にたくない。


(こんな死に方は嫌だ。そう思っていた……はずだった)


 何故?


(何故?)


 少年は私を殺した存在。


(私を私にした存在)


 夢。


(夢。これは夢でしかない)


 これは夢だから過去とは違う。


(違う。違っている。混ざっている)


 私は手を伸ばす。


(違う。違わない。私が探していたもの)


 夢。


 これは夢。


 殺意。

 恐怖。

 困惑。

 怠惰。

 そして、希望。


(負けない、負けない、負けない、負けない、負けない)


(負けない、負けない、負けない、負けない、負けない)


(負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない)


(負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない)


(負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない)


(負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない)


(負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けない、負けてない)


 そこで目覚める。


「……また、あの夢?」

 見ていたのは夢。いつもの夢――のはず。でも、殆ど憶えていない。


 夢、夢、夢。


 私は何を思っていたのか。

 私は何を考えていたのか。


 夢がこぼれ落ちていく。

 夢が消えていく。

 夢を忘れていく。


 少年が私を殺しに来る夢?

 私が少年を見つけた夢?


 分からない。


 繰り返し、何度も見ているはずなのに、分からない。


 憶えていない。


 何故、こんな夢を見るのか。

 何故、私は夢を見るのか。


 最近は夢ばかり見ている気がする。


 夢。


 昨日の帰りにも……、


 ……、


 ……、


 ……、


 ……あれ?


 昨日、私は、あの後、どうしたんだろう?


 私は学校に行って、それから帰りに……あれ?


 憶えていない。


 いつ、家に帰って、いつ、眠ったんだろう。


 憶えていない。


 ……どうして?


 思い……出せない。


 どうし……あ!


 時間!


 私は慌てて時計を見る。


 このままだと学校に遅刻してしまいそうな時間になっている。


 私は慌てて飛び起きる。


 まだ寝ぼけていた?


「早く起きて学校に行かないと!」


 慌てて歯を磨き、着替え、リビングに走る。


「あー、もう! なんで起こしてくれなかったの!」

「今日はずっと寝ているなんて言っていたのは誰かしら?」

「うー、私、そんなこと言ってない」

「はいはい。学校に行こうと思うくらい元気になって良かったわ。はい、今日の分ですよ」

 錠剤が取り出される。

「えー、また錠剤?」

「ゆっくり食べている時間はないでしょう? 早くこれを食べて学校に行きましょうね」

 私は錠剤を受け取り、口に入れようとする。


 あれ?


 食べて?


 錠剤を食べる(・・・)


 錠剤。


 お薬。


 錠剤は飲むものだ。


 食べる?


 あれ?


「あら? どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

 私は錠剤を飲んだ振りをして、そのまま鞄にしまう。


「はーい、行ってきまーす」

 私は玄関に走る。


「忘れ物はない? 後であれを忘れた、これを忘れたなんて言っても遅いですからね」

「なーい。忘れたことなんてなーい!」


 靴を履き、外に出る。


 いつもの風景。


 いつもの通学路。


 朝日が眩しい。


 急ごう。


 走る。


 たい焼き屋さん。


 ……。


 昨日はたい焼き屋さんに寄れたか憶えていない。今日は寄ろう。帰りに寄って食べて帰ろう。買い食いだ。


「うー、遅刻、遅刻」

 走る。


 でも、このままでは遅刻してしまう。


 私は近道をするために公園の方へ走る。公園を抜けて学校に行くルートを行けば遅刻せずに学校に行けるはず。


 公園の敷地内に入る。


 公園。


 公共の――皆に開かれた場。


 でも……。


 道ではなく、敷地を通ることに、利用する訳ではなく、近道するためだけに、そんな理由で公園に入ったことに――小さな罪悪感をおぼえる。


 朝の公園には誰も居ない。


 人の気配が無い。


 ……。


 ここに居るのは私……だけ?


 その事実に、一瞬だけぶるりと身を震わせ、それでも遅刻しないため、公園を走る。


 外灯、ベンチ、芝生、木々。


 木々が並ぶ公園を走る。


 これで学校に間に合う。


 私がそう思った時だった。


 私の体が倒され、地面に押さえ付けられる。


 痛い!


 え?


 あれ?


 声が出せないように口を手で塞がれる。


 え?


 だれ?


 誰も居なかったはず。


 誰も居なかったはずなのに?


 何故?


 何が起こっているの?

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