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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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735 ――――05

 夢。


 これはいつもの夢だ。


(そう、いつもの……夢。これは夢だ)


 繰り返し、繰り返し、見ている夢。


(同じだ。分かっている。分かっているよ。これは夢だ)


 小さな――少年の影。


(憶えている。少年、人)


 小さな少年の影がこちらを見ている。


(見られている。見ている)


 小さな少年の影がこちらに迫る。


(逃げられない。逃げない、逃げたくない)


 何故?


(何故、私はそんな風に考えているの?)


 怖い。


(ここが怖い。この夢が怖い)


 小さな少年の影がこちらへと手を伸ばす。


(届かない手。だけど、私の命には届く手)


 殺される。死にたくない。


(いつだって死にたくなかった。私()死にたくなかった)


 何故?


(何故?)


 少年は私を殺す存在。


(私を殺せる唯一の存在)


 夢。


(夢、きっとこれは夢だから)


 これは夢だから殺されない。


(違う。死なない)


 私は手を伸ばす。


(怖い。怖くない。私が探していたもの)


 夢。


 これは夢。


 殺意。

 恐怖。

 困惑。

 嫉妬。

 そして、絶望。


(私が先に、私がさき……に……みつ……)


 そこで目覚める。


「また……あの……夢?」

 見ていたのは夢。いつもの夢――のはず。でも、殆ど憶えていない。


 さっきまでは――夢の中では鮮明だった想いがこぼれていく。消えていく。忘れていく。


 私はどんな夢を見ていたのだろう?


 少年が私を殺しに来る夢?

 私が少年を見つけた夢?


 分からない。


 分からない。


 夢。繰り返し、繰り返し、何度も見ているはずなのに、分からない。


 憶えていない。


 何故、こんな夢を見るのか。

 何故、夢を憶えていないのか。

 何故、


 何故、


 何故、何故、何故?


 最近、夢を見る頻度が上がっている。


 ……。


 ……。


 ……。


 あ!


 時間!


 私は慌てて時計を見る。


 ……まだ時間には余裕がある。


 でも、急ごう。


 飛び起きる。


 慌てて歯を磨き、着替え、リビングに走る。


「ご飯!」

 私は一番にご飯をお願いする。

「あら? 今日はお寝坊さんじゃないのね」

「ふふん。しっかりと起きたんだから。朝ご飯を食べるくらい余裕なんだから」

「でも、今日はこれね」

 錠剤が取り出される。


「えー、また錠剤?」

「はい、早く食べてしまいなさい。これはちゃんと大きくなるための栄養を考えたものなんだから。早く大きくなるためにも好き嫌いをせずに食べなさい」

 私は錠剤を受け取る。口に入れる振りをして、そのまま錠剤を鞄にしまう。


「はいー、行ってきまーす」

 私は玄関へと走る。


「忘れ物はない? 後であれを忘れたとか言っても遅いんだから」

「なーい!」


 靴を履き、外に出る。


 学校に行こう。


 いつもの通学路。


 通い流れた通学路。


 私は少しだけ――駆け足気味に歩く。


 あれ?


 と、そこで私は足を止める。視線を感じる。


 誰かが私を見ている?


 私はキョロキョロと周囲を見回す。


 だけど、誰もいない(・・・・・)


 気の……せい?


 誰もいない。


 きっと気のせいだ。


 きっとあんな夢を見たから、誰かが私を見ていたと錯覚してしまったのだ。


 私は走る。


 何者かの視線が怖くなった訳じゃない。その場から早く離れたいと思った訳じゃない。それだけじゃあない。


 通学路に戻る。


 いつもの通学路。


 通い慣れた通学路。


「あ!」


 そして、私はそこで見つける。


「たい焼き屋さん」

 そう、そこにはたい焼き屋さんがあった。


「やっぱり錠剤だと味気ないから、帰りに寄って食べよう。うん、そうしよう」


 ……。


 ……。


 あれ?


 おかしい。


 あれ?


 あれ?


 あれれ?


 私は足を止め、方向転換する。


 学校からたい焼き屋さんに。


「あのー」

 私はたい焼き屋さんに声をかける。

「今はまだ準備中だよ。欲しいなら、学校が終わってから買いに来るんだね」

 たい焼き屋の店員さんがそんなことを言っている。


 ……。


「あのー、えーっと、ここって空き家じゃなかったですか? テナント募集って張り紙が……」

「おいおい、何を言っているんだい? うちはずーっと、昔からたい焼き屋をやっているよ」

「そうだった……のかな?」

「そうさ。それより時間は良いのかい? あそこの学校だろう? 遅刻したら大変だよ」

「あ、はい。うー、後で来ます。放課後になったら買いに来るから、残しておいてください」


 私は学校を目指して走る。


 放課後になったらたい焼き屋さんでたい焼きを買おう。


 ご飯を――食べよう。

5/7

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