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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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683/727

733 ――――03

 夢。


 これはいつもの夢だ。


(そう、いつもの……夢。これは夢だ)


 同じ場所、同じ夢。


(同じだ。分かっている。分かっているよ、これはいつもの同じ夢)


 小さな黒い影。


(人影だ。人、人だ)


 小さな黒い影がこちらを見ている。


(小さな黒い影なのにこちらを見ているのが分かる。小さな黒い影はじーっとこちらを見ている)


 知っている。だけど、知っている。


(知っているはずだ。私は彼を知っているはずだ)


 この影は少年。


(少年だ。少年の影をしている)


 小さな黒い少年の影がこちらを見ている。


(逃げられない。逃げない、逃げたくない)


 何故?


(何故?)


 影がこちらへと右手を伸ばす。


(届かない。でも、届く)


 怖い。


(私を殺すための右手)


 その手が握られる。


(そのための拳)


 殺される。


(殴られる)


 死にたくない。

 殴られたくない。


(死にたくない、殺されたくない)


 何故?


(何故?)


 少年は私を殺す存在。


(死が少年という形になって私に襲いかかっている)


 夢。


(夢だから、きっとこれは、夢だから)


 これは夢だから死なない。


(でも、死にたくない)


 これは夢だから殺されない。


(でも、夢の中では殺されている)


 死なない。

 殺されない。


(殺されない、死なない)


 少年の拳が消える。


(放たれた。死んだ。私は死んだ)


 夢。


 殺意。

 恐怖。

 困惑。

 憤怒。

 そして、歓喜。


(な……ぜ……?)


 そこで目が覚める。


「また……あの夢?」

 見ていたのは夢。いつもの夢――のはず。でも、殆ど憶えていない。


 謎の少年が私を殺しに来る夢。


 怖い。


 私は両手で自分の体を抱える。


 怖い。怖い……はずなのに、何故か懐かしい。


 どうして?


 ……。


 ……。


 また、夢。最近は二日に一度、同じ夢を見ている。繰り返し、繰り返し、夢を見ている。同じような夢。似たような夢。細かいところは違っているけれど、共通しているのは少年が私を殺しに来る夢……そんな夢だったはず。


 夢。


 起きるといつも曖昧なものになってしまう夢。


 それでも憶えている。


 少年。

 殺しに来る。


 殺される。


 ……。


 ……。


 ……。


 あ!


 時間!


 私は慌てて時計を見る。


 時間は……、

 まだ大丈夫だった。


 今日はちゃんと起きられた。


 私は手早く机の上に鏡を置き、急いで寝癖を直す。髪を梳いていく。


 手早く髪を整え、ささっと歯を磨き、着替えてリビングに向かう。時間的な余裕はある。たーっぷりとある。


「あら? 今日はお寝坊さんじゃないのね」

「ふふん。最近はしっかりと起きているんだから」

「はいはい、そうね。はい、朝食」

 いつもの錠剤が食卓の上に置かれる。


「えー、また錠剤? 今日は時間に余裕もあるし、しっかりとした朝食が食べたい!」

「ちゃんと食べて栄養を取らないと大きくなれないわよ。これもしっかりとした朝食だから、好き嫌いは駄目ですよ」

 仕方なく錠剤を受け取り、自分の口に投げ込む。そのまま鞄を取り、玄関へと歩く。


「忘れ物は無い?」

「うー、私は忘れたことなんてないもん」

「あら、そう? 後でこれを忘れた、あれを忘れた、あれを持って来てなんて言わないようにね」

「うー、言ったことないもん」

 靴を履き、外に出る。


 忘れ物は無い。

 忘れていることはあるかもしれないけど、忘れ物は無い。


 学校に行こう。


 外に出る。


 通学路。


 いつもの通学路。


 通い慣れた――はずの通学路。


 私は周囲をキョロキョロと見回す。


 誰かに見られているような感じは……無い。今日は何も感じない。


 歩いて学校へ向かう。


 いつもの授業を受け、友人といつものやり取りをして、下校する。


 自宅に向かう。


「あ! たい焼き屋さん」

 そこでいつものお店を見つける。


 私はたい焼き屋さんに走る。


 小さなお店だ。開いた窓から鯛の形が並んだ真っ黒な鉄板が見える。


「たい焼きを一つください」

 私はお店の人に声をかける。

「たい焼きかい? ごめんね。ちょうど材料が切れて……売り切れてしまったところなんだよ」

「えー」

「ごめんね」

「他は? たい焼き以外の……えーっと、今川焼き、大判焼き、回転焼き、御座候、巴焼き、ほっぺ焼きは?」

「ごめんね、全部売り切れなんだ。ああ、そうだ。代わりにこれをあげよう。お詫びだよ」

 たい焼き屋の店員さんが大きな冷蔵庫から錠剤を取り出す。


 冷蔵庫?


 中、錠剤?


 錠剤。


「あの、えーっと、うー」

「これを食べればお腹いっぱいになるからね。お詫びだよ」


 たい焼き屋の店員さんはニコニコとした笑顔でこちらに錠剤を差し出している。


 錠剤。


 私は錠剤を受け取る。

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