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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
かみ続けて味のしないガム

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681/727

731 ――――01

 夢。


 これはいつもの夢だ。


(そう、いつもの……夢。これは夢だ)


 同じ場所、同じ夢。


(同じだ。分かっている。分かっているよ。これは同じ夢))


 真っ黒な影。


(人影。人、人だ)


 影がこちらを見ている。


(影なのに見ているのが分かる。こちらを見ているのが分かる)


 だけど、知っている。


(そう、知っている。いつもの……ことだから)


 この影は少年。


(影の少年。少年の影)


 影がこちらに迫る。


(逃げられない。逃げない。逃げたくない)


 何故?


(何故?)


 怖い。


(怖い)


 死にたくない。

 殺されたくない。


(死にたくない、殺されたくない)


 何故?


(何故?)


 夢。


(夢だから、これは夢だから)


 これは夢だから死なない。


(死にたくない)


 死なない。

 殺されない。


(死なない、殺されない)


 夢。


 殺意。

 恐怖。

 困惑。

 憤怒。

 そして、歓喜。


(歓……喜……?)


 そこで目が覚める。


「また……あの夢?」

 見ていたのはいつもの夢――のはず。でも、殆ど憶えていない。


 誰かが私を殺しに来る夢。


 怖い。


 怖い夢のはずなのに、何故か、それを待ち遠しいと思っている自分が居る。


 どうして?


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 あ!


 時間!


 慌てて時計を見る。


「遅刻!」


 飛び起きる。


 歯を磨き、着替え、リビングに走る。


「あー、もう! なんで起こしてくれなかったの!」

「起こしましたよ。何度も起こしたのに、寝ていたのはあなたでしょ」

「うー、うー」

「その、うー、うー、言うのを止めなさい。はい、朝食」

「え? えー? また錠剤? しっかりした朝ご飯が食べたいー」

「誰かさんが寝坊していたから、そんな時間無いでしょ? 朝食はこれで済ませなさい。でないと後でお腹すくわよ」

「うー、うー、あー、もう!」

 錠剤を受け取り、自分の口に投げ込む。そのまま鞄を取り、玄関へと走る。


「忘れ物は無い?」

「うー、大丈夫だから。言われなくても分ってるから!」

「もう、いっつも、あれを忘れた、これを忘れたって言っているのは誰かしら」

「うー、今日は大丈夫だから!」

 急いで靴を履き、外に出る。


 走らないと学校に遅刻してしまう。


 急いで……あれ?


 走り出そうとした足を止める。


 誰か……に、見られている?


 首を横に振る。


 気のせい。


 きっと気のせい。


 あんな夢を見たから、神経質になっているのだろう。


 こんなことをしていたら学校に遅刻してしまう。


 急がないと。


 走る。


 いつもの通学路。


「あ! たい焼き屋さん。やっぱり錠剤だと味気ないから、帰りによって食べよう。うん、そうしよう」

 いつものお店。


 いつもの――。


 校門をくぐる。

「セーフ、ぎりぎりセーフ。間に合ったー」

「君、もう少し時間にゆとりを持ちなさい。遅刻ギリギリだからね! ホームルームに間に合えば良いなんて思って……」

「はーい、わかりましたー!」

 校門で待ち構えていた先生の小言を聞き流し、教室へと急ぐ。


 教室に駆け込む。

「おそーい」

「おはよー。ごめん。ごめん。ちょっと寝坊しちゃって、起こしてくれないんだから酷いんだよー」

 友人の言葉に挨拶を返す。

「ふふ、だから、酷い寝癖なんだー」

「え?」

 友人の言葉に慌てて髪を触る。


 ぴょーんと跳ねた髪。


 確かに酷い寝癖だ。


「うー、忘れてたー。教えてくれたら良かったのにー」

「ふふ、今日は一日、その髪型だね」

「うー、うー」

「はい、うーうー言わない。先生が来るよ」

「でも、うー」

「はいはい、仕方ないなぁ、休憩時間に私が梳かしてあげるから」


 休憩時間になり、約束通り友人に髪を梳いてもらう。

「ホント、綺麗な髪だよね」

「うー。そんな褒めても何もあげないよー」

「はいはい。それでどうしたの?」

「いつもの夢」

「あー、あれ? 少年の影だったかな? へー、それって、もしかして運命の相手を探して」

「うー、またそんなことを言うー」

「はいはい。そういえば例の先輩が呼んでたよ」

「朝?」

「そう、朝。誰かさんが遅刻するからー」

「なんだろー?」

「さあー? 私はわからないなー、ふふ」

「うー、なんで、そんなに楽しそうなのさー」

「えー、なんでだろー」

「そういえば、昨日のあれ見た?」

「例の動画?」

「そうそう、凄いよねー」


 いつもと変わらない日々。


 いつもの日々。


 朝起きて、学校に通い、友人と笑い合い――

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