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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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068 賞金稼ぎ05――『いつ、お前が、俺の上になったんだ?』

 そして三日後。


 俺はクロウズのオフィスに向かう。陽は真上にさしかかろうとしている。ちょうど良い時間だ。


 クロウズオフィスの建物に入ってすぐの場所に『説明会場は大会議室です』という看板が立てられていた。


『その大会議室とやらが何処にあるのか分からない。知っていて当たり前のようにされてもなぁ』

『ふふん。何処かの馬鹿が何も聞かずに格好つけて、すぐに帰ったからじゃない』

 何か頭の中で声が響いているようだが、それを無視してオフィスの中を進むことにする。とりあえず奥へ歩いて行けば辿り着けるだろう。


「ガァムさぁん、こちらですよ」

 その俺を足止めするように、後ろを歩いていたセラフがニヤニヤとした笑い顔を張り付かせ、こちらを覗き込んできた。

「ああ、そうか。助かる」

 親切なセラフに笑顔を返しておく。


『ふふふん。もっと感謝すればぁ』

 殴りたくなるような笑顔のセラフの案内で歩く。


「おいおい、あいつ、保護者同伴かよ」

 オフィスのエントランスにたむろっているクロウズの先輩が俺とセラフを見てニヤニヤと笑っている。


 はぁ。


 保護者同伴、か。言われても仕方ないが、口に出されると苛つく。よし、言ったヤツの顔は覚えた。

「あいつ、あの時の!」

 その先輩たちの中には見知った顔もあった。俺がお金(コイル)を借りたヤツだ。もう復帰できたのか。後で借りたお金(コイル)を返さないと駄目だな。


 セラフの案内でオフィスの建物の中をしばらく歩くと、見覚えのある受付嬢の姿が見えてきた。

「ガム君、遅かったですね。皆はもう中ですよ」

 眼鏡の受付嬢だ。

「すまない。時間を聞いていなかったからな」

「ええ! ちゃんと言いましたよ」

 どうやら自分が最後のようだ。


 俺とセラフが大会議室に入ると、中の連中が一斉にこちらを見た。


 にわかに大会議室内がざわざわと騒がしくなる。

「おい、餓鬼だぞ」

「なんでオフィスのスタッフと一緒に居るんだ?」

「餓鬼が試験に合格? 替え玉でも使ったのか?」

 ジロジロとぶしつけな視線を感じる。


「それで俺は何処に座れば良いのだろう?」

 俺は扉を閉め、中に入ってきた眼鏡の受付嬢へ話しかける。

「空いている席に……適当にお願いします」


 空いている席、か。


 大会議室というだけあってそれなりの広さを持った部屋だ。そこに机と椅子が並んでいる。だが、空いている席が見えない。部屋の中に居るのは二、三十人くらいだろうか。もしかすると、この説明会に参加する人数ぴったりしか席を用意していないのかもしれない。


 室内を見回しやっと空いている席を見つける。その途中で妙に縮こまっているおっさんや爪を噛んでブツブツと呟いているドレッドへアーの女の姿も見つけた。二人ともちゃんと参加しているようだ。


 とりあえず俺は空いている席に座ろう。


 空いている席へと向かい、座ろうと椅子を引く。そして、その椅子に何故かセラフが座った。


『おい』

『ふふん。私の方が立場が上なんだから、座るのは当然じゃない』

『いつ、お前が、俺の上になったんだ?』

『最初からでしょ。馬鹿なの?』

 俺はとりあえず肩を竦める。


 と、そんな俺に話しかけてくるヤツがいた。

「やぁ、君は一人(ソロ)なのかい?」

 若い男だ。若いと言っても俺のような餓鬼ではなく、十七、八くらいの若さだ。その顔には妙に鼻につく爽やかな笑顔が張り付いていた。


「お前は?」

「僕は星十字軍(スタークルセイダー)に所属しているウルフだ。よろしく」

 ウルフと名乗った青年が俺の前に手を伸ばす。

「そうか」

「あ、えーっと、握手って分からないかな?」

 青年は爽やかな笑顔を少しだけ歪め、伸ばしていた手を引っ込ませ、頬を掻く。


「初めて会ったお前と俺は握手するような関係でもないだろう?」

「ははは、そうだね」

 青年は馬鹿みたいに微笑んでいる。頭が軽いのかもしれない。


「ちょっと、この一角は星十字軍(スタークルセイダー)所属で集まっているの! そこに後からやって来てなんて態度なの!」

 ウルフとやらの横に座っていた女が突然喚き始めた。かんしゃく持ちなのだろうか。


「それは知らなかった。すまない。だが、ここしか席が空いていなかったようだから仕方ないだろう」

 まぁ、その空いていた席も空気を読まないセラフが座っている訳だが。

「なんて言い草! 雑魚は雑魚らしく部屋の端っこで小さくなってなさいよ!」

 この女は脳の病気のようだ。不治の病かもしれない。どちらにせよセラフが座って席が余っていない。


 ……病気がうつらないように部屋の隅まで離れるのは有りかもしれない。


「まぁまぁ、レモンも落ち着いて。すぐに説明が始まるだろうからさ」

「ここでの説明なんて団で教えて貰っていることの復習でしかないのに」


 ……この一角はスタークルセイダーとやらが占拠しているようだ。にしても、団、か。クロウズの試験は団体で受けることも出来たようだ。ああ、その方が合理的か。慣れ親しんだ集団で挑んだ方が合格率は上がりそうだからな。


『ふふん、群れないと何も出来ない雑魚じゃない』

『だが数というのは大きな力だろう』

 クロウズとやらはソロが当たり前なのかと思っていたが、間違っていたようだ。


 俺が出会ったクロウズ、スピードマスターも、フールーもソロだったから、勘違いしてしまった。

 この分だと――もしかすると団体になっているヤツらの方が主流なのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おめーの席ねぇからー! [一言] 時間厳守の大切さが学べたのだった。 ガム君て、ときどき見栄っ張りの意地っ張りねw そこだけはセラフが突っ込みたくなる気持ちがちょっと分かる。 にしても笑…
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