678 ラストガーデン49
「他の先生は……」
「大丈夫だ。場所なら見当がついている」
ウルフ二号は教員が待機している場所に俺を案内してくれようとしたのだろう。だが、それに関しては必要ない。連中の居場所はすでに予想がついている。
「すでにご存じとは、さすがです」
ウルフ二号は憑きものが落ちたような様子でキラキラと目を輝かせ、俺を見る。正直、気持ち悪い。
少し気持ち悪いウルフ二号を無視して教員たちが待機しているであろう場所に向かう。最初は甲板で待機しているのだろうと思っていたが、そこに居たのはゲームメーカーやこのイベントを観戦していた視聴者たちだけだった。このウルフ二号も居たのだから、ある意味、重要人物たちが揃っていたとは言えるだろう。俺が最初に考えていたように甲板が怪しいというのは正しかったのだ。
……。
教員たちは甲板にも、遺跡の近くにも居なかった。では、何処に居るのだろうか?
教員たちは、生徒たちが危険な状況に陥った時、何かあった時、棄権した時、すぐに駆けつけられるようにしていたはずだ。
それは何処か?
……真面目に考えるのが馬鹿らしくなる場所だ。
連中は学園に居る。
教員たちは学園に戻っている。
そこからどうやって救援に来るつもりだったのか、元から救援に来るつもりがなかったのか、それは分からない。
だが、教員たちが学園に戻っているのは間違い無いだろう。
俺はクルマを走らせノアへと戻る。ノアの施設跡を活用して作られた学園。
――ノアは学園都市に生まれ変わったと言っても良いだろう。
クルマに乗ったまま学園の中へと進む。
……。
すぐに警備の部隊が現れ、クルマが取り囲まれる。なかなか、迅速な行動だ。隊を率いている者が優秀なのだろう。
「止まれ!」
隊長らしきドレッドへアーの女がこちらに制止の言葉を飛ばす。
……。
止まれ? 俺はすでにクルマを停車させている。見て分からないのだろうか。
「これより先は学園の敷地内となる! 許可無くクルマで侵入することは出来ない。すぐに回れ右して帰るんだな!」
ドレッドへアーの女はふんすっと鼻息荒く面白いことを言っている。クルマが部隊に取り囲まれているのに、どうやって帰れというのだろうか。後方を守っている奴をひき殺して戻れとでも言いたいのだろうか。
前言撤回だ。
隊を率いている者が優秀と言ったが、間違っていたようだ。
「なかなか優秀だな。警備主任の首は、すげ替えた方が良いと思うぞ」
俺は、そうウルフ二号に助言する。
「彼女は警備主任ではありませんよ。今日の当直が彼女だったのです。代々発明家の家系でそれなりに優れたものを開発してくれるので教員として重宝していたのですが……。ふむ、彼女はこういったことにあまり向いてなかったようです」
ウルフ二号が大きくため息を吐いている。
「そうか」
俺は肩を竦め、そのまま運転席から降り、ハッチを開ける。
「負傷者を連れてきた」
俺は顔を外に出し、そう告げる。
ドレッドへアーの女がすぐに反応する。
「子ども? おーい、何をしている? クルマで遊ぶな。撃ち殺すぞ。それと、ここは病院じゃあない。けが人なら病院に連れて行け。病院だ、病院。病院の意味は分かるな? 分からないなら撃ち殺すぞ」
俺はドレッドへアーの女の言葉に肩を竦める。
「ウルフ、お前の出番だ」
俺はハッチから外に出る。
「そのようですね」
ウルフ二号が片手で苦労しながらハッチから這い出てくる。
「ヒウマ君、私だ。すぐに他の先生たちを呼んで来てくれないかね」
「学園長! その腕は!」
ドレッドへアーの女はすぐにウルフ二号が誰か分かったようだ。
「私の腕のことは良い。すぐに他の先生を呼んできなさい」
「ウルフ学園長、何があったんですか? そのお怪我は? あわわわ、まずは治療を。高濃縮再生薬の準備を……」
ドレッドへアーの女にはウルフ二号の言葉が届いていないようだ。ウルフ二号は頭を抱え大きなため息を吐いている。
「あー、君。ヒウマ君の代わりに他の先生たちを呼んで来てくれないかね」
ウルフ二号は、ドレッドへアーの女に話しかけても無駄だと悟ったのか他の警備員に声をかけている。
「は! 分かりました」
声をかけられた警備員が校舎の方へと走っていく。ドレッドへアーの女はパニックになっているのか同じようなことを繰り返し喋り続けている。
しばらくして教員たちが集まってくる。
「学園長、どうしたんですか? 今回の課外授業はウルフ学園長が直接見られるということでしたが、こちらはちゃんといつでも飛べるように準備して待っていましたよ? その学園長が戻られるなんて……出資者の方々も居られたはずですよね? どうし……、その腕はどうされたんですか!」
「私の腕のことは良い。私は君たちに引き継ぎをしなければならない」
ウルフ二号が集めた教員たちに色々と命令をしていく。
その途中、教員の一人と俺の目が合う。
その教員は俺たちに武器を配った時に居た奴だった。
ああ、あの愉快な態度の教員か。
「お、お前は! 何故、生き残っている! 学園長と一緒に帰ってくるなんて何をやったんだ!」
その教員が何故か俺に突っかかってくる。
俺は大きくため息を吐き、ウルフ二号の方を見る。ウルフ二号が分かっていますという顔で頷く。
「スタア君。君をこの学園から追放する」
そして、そんなことを言い始めた。
「が、学園長。私が追放というのはどういうことですか! 学園長のために働いてきた私を! 私を切り捨てるつもりか!」
「スタア君。君も私も罪を償う時が来たのだよ」
「学園長、罪とはなんですか! 今になってからそんなことを言い出すとは! 後悔しますよ!」
俺は何度目になるか分からないため息を吐き、ウルフ二号を含む、言い争いを続けている教員たち連中を無視してクルマの中に戻る。
ひき殺した方が早いのではないだろうか?
……。
……。
……行くか。




