676 ラストガーデン47
砲撃音が聞こえる中、ウルフ二号を担いだ俺とポニーテールの少年で階段を駆け下り、艦橋の外に出る。
周囲に機械たちの姿は無い。クルマを自動操縦に切り替え任せていたが、どうやらしっかりと仕事をしてくれていたようだ。
「ここで待っていろ。ここなら安全だろう」
俺はポニーテールの少年に声をかける。
「待つ、待つ、待つかぁ。えーっと、わかったけどさぁ、どうするつもりなんだよぉ。いつまで待てば良いんだ?」
いつまで、か。
「ここの教員……、先生を呼んでくる。学園長がこのザマだからな。遺跡の外に行って伝えるだけだ。そんなに時間はかからないだろう」
「一緒に行ったら駄目なのかよぉ」
ポニーテールの少年が俺の方を見ている。置いてけぼりにされたくない――というよりは、どうにもここを早く抜け出したいという感じだ。この課外授業にうんざりしているのだろう。
「ああ、それは――」
そんな話をしている途中にキュルキュルと無限軌道を響かせ、俺たちの前にクルマがやって来る。
「悪いがこのクルマは狭く、空きスペースがない」
元々がルリリ一人で動かしていたクルマだ。複数人が乗れるようにはなっていない。俺とウルフ二号という荷物でいっぱいいっぱいになるだろう。
「このクルマ……やはり間違い無い。このクルマを運転しているのはあいつか。あいつしか考えられない。私をどうするつもりかね」
クルマを前にして肩に担いでいたウルフ二号が再び騒ぎ出す。
「何を勘違いしているか知らないが、このクルマは俺のクルマだ。中には誰も居ない」
「君こそ何を言っているのかね。このクルマは間違い無く本家の至宝。あいつが来ているのだろう?」
俺は小さくため息を吐く。ウルフ二号は、このクルマを運転しているのがアイダだと信じ込んでいるようだ。それだけアイダに会いたいのだろうか。
「安心しろ。アイダのところには連れて行く。今、ここではないが、アイダには会えるだろう」
「君は何を言っているのかね。君は知らないかもしれないが、このクルマは本家の至宝。開祖が使っていたクルマだよ。正統後継者であるあの人にしか使えないと言ったはずだよ」
「またそれか」
俺は小さくため息を吐く。
思い込み?
他の可能性があるとは考えられないのだろうか。このウルフ二号、歳を取って頭が固くなっているのかもしれない。どうやら柔軟な発想が出来なくなっているようだ。
だが、現実を見れば理解するだろう。
俺はウルフ二号を抱えたままクルマのサイドスカートから駆け上がり、ハッチを開ける。そして、そのままウルフ二号を中に投げ捨て、運転席へと滑り込む。
「え? は? どういうことだ? 何故、誰も居ない。これは……どういうことかね」
未だ偉そうなウルフ二号は驚いた顔でそんなことを言っている。
「待ち人はいなかったようだな。言ったはずだ、このクルマは俺のものだと」
「そんなはずは……これは本家の至宝。私は見たことがある。色こそ違うが、その通りだ。それは間違い無い。だが、これはどういうことかね。どうして誰も居ない。どういうことかね」
ウルフ二号が騒がしい。聞けば自分の望んだ答えが返ってくると思っているようだ。
「見たままだろう。うるさいから少し黙れ。それ以上騒ぐなら、もう片方の腕も切り落とす」
俺がそう告げるとウルフ二号は静かになった。
「まさか、まさか、いや、そんな、だが、考えられるのは、それしか、まさか、いや、何故、そう考えれば……」
だが、未だ口の中でもごもごと何か呟いている。
俺は肩を竦め、そんなウルフ二号を無視してクルマを動かす。
とりあえずこの遺跡から出よう。
そして、学園の教師陣にどうするか確認をするか。教員たちがウルフ二号の仲間なら、そこでそいつらも処理してしまおう。
ヴァレーたちは……とりあえずそのままだな。
課外授業が継続されるようならヴァレーの頑張りを無駄にしないためにも俺が邪魔するべきではない。ヴァレーなら、問題なくこの課外授業を終えることが出来るはずだ。乗り越えるだろう。中途半端に終わらせるのは、ヴァレーのためにも、今後の関係を考えても、あまりよろしくないだろう。
課外授業が継続するなら、全て終わってからヴァレーに会いに行く。
課外授業が中止になるならすぐに会いに行く。
そうしよう。
「一つ聞いても……聞いても良いでしょうか?」
そんなことを考えている俺にウルフ二号が恐る恐るという感じで話しかけてきた。
「なんだ? 言ったはずだが、騒ぐようなら……」
「申し訳ありません。ですが、聞きたい、確認したいのですよ。あなたはまさか伝説のクロウズの……」
ウルフ二号の言葉遣いが変わっている。何故かかしこまった――恐れ入って、慎んだような態度になっている。
伝説のクロウズ?
確かに俺は昔から、このウルフ二号が生まれる前からクロウズをやっている。
このウルフ二号は俺のことを知っていた?
アイダやイイダから俺のことを聞いていたのだろうか?
その聞いていた人物と俺が同じだとやっと分かったのだろうか。繋がったのだろうか?
「かつて首輪付き、凄腕と呼ばれた伝説のクロウズが居た。伯母やあの人からその話は聞いていた。裸族のクロウズ! それがあなたの正体か!」
俺はウルフ二号の言葉に操縦桿を握りながら転けそうになる。
「誰が裸族だ」
「しかし、その称号で呼ばれていたと聞きました」
なんだろうか。ウルフ二号がキラキラとした目でこちらを見ている。初老の男にそんな目で見られても嬉しくないのだが、なんだろうか、これは。
「そうか、それで?」
「あれが、あれこそが、伝説のクロウズが使っていた遠隔操作。そう言うことだったのですね。さすがは、伝説の裸族!」
……伝説?
……裸族?
「……そこを繋げるな」
なんだ、これは?




