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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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067 賞金稼ぎ04――「車、か」

「こんな時間にやってくるかね」

「お邪魔するよ」

 深夜にもかかわらずくず鉄置き場で作業をやっていたゲンじいさんに挨拶をする。


「それでクロウズの試験はどうだったんだね」

「問題ない。三日後に説明会があるそうだ。それまでまたお世話になっても良いだろうか?」

 ゲンじいさんは何も答えず顎で建物の方をしゃくり、そのまま作業に戻る。

「助かる」

 俺はゲンじいさんにお礼を言い、その建物の方へ向かう。


「ん? ちょっと待つんだ。ガム君、そこの女性も一緒なのかね」

 離れの建物に向かおうとした、その途中でゲンじいさんが話しかけてくる。俺は足を止め、ゲンじいさんの方へ振り返る。


 ……セラフのことか。そういえば一緒だったな。

『はぁ? そういえばって何? お前は馬鹿なの?』

 セラフについては説明に困るな。

「あ、ああ。クロウズのオフィスで……俺のお目付役、いや監視役らしい」

 とりあえず、そう説明しておく。


「ふん、そういうことか。部屋はそのまま好きに使って良い。だが、汚すんじゃあないぞ」

「分かってるさ」

 眠るだけの部屋だ。汚すようなことはない。

「それと起きたら、私のところに来なさい。話がある」

「ああ、分かった」


 俺は離れにある建物へ向かい、そのままバネが死んでいるオンボロベッドの上に体をのせる。寝よう。

『セラフ、お前は好きにすればいいさ』

『ふん。本体から距離を取れないのに好きになんて出来るワケないじゃん』

 セラフが腕を組み壁により掛かる。

『あー、お前にも睡眠は必要か? ベッドが必要だったか?』

『はぁ? このままでいいしぃ』

 セラフは何か言っている。とりあえず問題がないのならば、そのままで良いだろう。


 目を閉じる。寝よう。あまり快適と言えるような場所ではないが、それでも野宿よりはマシだ。


 ……。


 眠る。


 そして、翌朝。


 大きく欠伸をし、体を伸ばす。右腕を回し、グー、パーと拳を握り、開ける。良し、回復している。問題なく動く。体の治りが遅くて少し不安だったが大丈夫なようだ。


『ふふん。部分的に体を変質させるから群体に負荷がかかっていただけでしょ』

 腕や足だけの人狼化が問題だったのだろうか。いや、もしかすると人狼化自体が俺の体に負担となっているのかもしれない。


 ……まぁ、治って動くなら問題ないさ。


 ベッドから降りる。


 セラフの姿が見えない。

『ここに居るじゃない。馬鹿なの?』

『お前が手に入れた体の方だ』

『ふん。少し動作チェックをしているだけ』

 なるほど。眠る前は距離を取れないと言っていたのに、結局それか。セラフの行動は気にするだけ無駄なようだ。俺は肩を竦め、ゲンじいさんが待っている作業場へと向かう。


「ゲンじい、おはよう」

 俺は作業場で整備を行っているゲンじいさんの姿を見つけ軽く手を振る。

「ふん。昼過ぎまで寝るとは良い身分だ」

 空を見れば太陽が真上に輝いている。確かに少しぐっすりと眠りすぎたようだ。


 俺は小さく笑い、ゲンじいさんのところまで歩く。

「それでゲンじい、用件は?」

「まずはこれを食べなさい。イリスが育てている採れたてのサンドイッチだよ」

 行っていた作業を止め、手を止めたゲンじいさんからサンドイッチを受け取る。ぱっと見は、パンにハムが挟まった普通のサンドイッチにしか見えない。


 ……採れたて?


 出来たてではないのか?


 よく見るとサンドイッチのパンに見える部分がぐにゃぐにゃと動いていた。

「これは食べても大丈夫なのか?」

「バイオプラントほどの出来ではないがね、まだ生きが良いから味は悪くない」

 ゲンじいさんはサンドイッチのようなものを良い笑顔で囓っている。


 仕方ない、食べるか。


 ぐにゃぐにゃと動く、生きているサンドイッチを囓る。味は……普通にハムサンドの味だ。

「食べたかね」

「ああ」

 ゲンじいさんが俺を見て頷く。


「用件は簡単だ。ガム君、君の連れが使っていたクルマの整備が終わったんだよ」

 ゲンじいさんが車の方へと振り返る。


 そこにあるのは輝きを取り戻した小型のオープンカーだ。あのグラスホッパーと名乗ったカバ頭が乗っていた車だ。セラフのグングニルの一撃によって凹んだフレームも元に戻っている。だが、残念ながら機銃は直すことが出来なかったようで、そこには銃座部分だけが残っていた。


「治ったのか」

「ああ。これでもクルマの整備くらいは出来るからね。クロウズの試験に受かったというなら問題はない。使用者登録を君にしておこう」

 俺はゲンじいさんに頭を下げる。

「助かります。それでお金は……」

お金(コイル)は最初に言った金額で構わない。だからだね、少しずつ返してくれれば良い」

 百万コイル、か。俺の首につけられている首輪を外すための借金が、さらに車を治して貰った分も含まれるようになったようだ。


「車、か」

「こいつはクルマだがね」

 ゲンじいさんは厳つい顔を歪め笑う。


 ん?


 車とクルマ、か。確かパンドラとやらを積んでいる車がクルマなんだよな?

『ふふふん。その通り。馬鹿なのに、そのことを憶えていたなんて!』

 車とクルマ? 同じようにしか聞こえない。区別が付かないだろう。

『文字で考えればすぐに、ああ、お前は読み書きも出来ない馬鹿なの?』

『聞いただけでは区別が付かないって言っているだけだ』

 スピードマスターが言っていたことくらい憶えている。


『ふふふん。car(自動車)tank(戦車)、パンドラを搭載したものはdrive(クルマ)って呼ぶっていえば分かる?』

『ドライブ? 運転するのか? それとも動かすということか?』

 結局、良く分からないが、とりあえず片言でクゥルゥマァみたいに言っていれば良いだろう。


「こいつの使用者登録だがね、名前はどうする?」

 名前? このクルマの名前、か。


「それは後でも変更が出来るのだろうか?」

お金(コイル)はかかるが可能だね」

 変更は可能か。それなら難しく考える必要はないだろう。


 とりあえず……。

「グラスホッパー号で頼む」

 このクルマに乗っていたカバ頭の名前で良いだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 採れたて新鮮ぴちぴち生きのいいサンドイッチ! [一言] ううん、フラスコか畑かプランターか水槽か……? まあ味が問題ないなら、ヨシ! しかしなんでカバで触手でグラスホッパーなんだろうなあ…
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